第369話 裏ボス
S級選抜大会から3日後。
テレビのワイドショーは『四星の絆』と『白銀の獅子』の話題で持ち切りだった。
「当番組が改めて調査したところ、『幽影鉱道』の件はムビ氏の主張の方が辻褄が合う点が多く——」
「ムビ氏の性犯罪疑惑ですが、調査を進めても明確な証拠がどこにもなく——」
「反面、『白銀の獅子』がデスストーカーと繋がっていた線が濃厚で、当時現場に居合わせた冒険者たちからは不審な点が多かったとの証言が……」
「ムビとゼルの両人に話を伺おうと各所に連絡を取っているのですが、2人とも行方が分からず、現在当番組が行方を調査中で……」
ピッ。
王はテレビを消し、顔を真っ赤にして叫んだ。
「おのれぇーっ!『白銀の獅子』め! ワシの顔に泥を塗りおって!」
ここ数日、王は自室にこもってテレビを見ては怒り狂っていた。
恐る恐る家臣が声をかける。
「酒場でも、最近はムビ擁護の声が増えているようでして……」
「くそうっ! あの小僧、それならばそうとはっきり言わんか!」
ムビはずっと自身の潔白を主張していたが、王の中ではそういうことになっていた。
「それで、例の件はどうなっておる? ムビはまだ見つからんのか?」
「はい。決勝戦のあと、どこに行ったか行方不明で……。延長された表彰式の準備、並びにS級冒険者の任命式の準備も整っているのですが、本人がいないことには……」
王は歯噛みした。
「くそっ、いつもいつもワシの顔に泥を塗りおって! 一体どこに行ったんじゃ、あいつは!?」
◆ ◆ ◆
ムビは、人里離れた山奥の秘湯に浸かりながら、ぽかんと月を眺めていた。
「ああ……綺麗な月だなぁ」
夜空の美しさ。温泉の心地よさ。風の静けさ。
そして体の奥に宿る大きな力。
それらを、何を考えるでもなくただ感じていた。
「ムビ。隣、失礼するぞ」
体をタオルで巻いたミラが、湯船に入ってくる。
水面に浮かぶ月がゆらゆら揺れた。
「あぁ、ミラ。温泉気持ちいいよぉ~」
ムビはボーっと夜空を見つめ続ける。
その様子を、横からじーっと見つめるミラ。
「なぁムビ。さっきのドラゴン肉は美味かったか?」
「うん、最高だった。天にも昇るとはまさにこのこと」
ミラは眉をしかめ、ムビの両肩を掴む。
「そいやっさ」
ムビを温泉から引きずり上げ、そのまま岩の上で馬乗りになった。
「あはは、どうしたのミラ? 温泉入らないの?」
見下ろすミラの顔を見て、ムビはうっすら笑う。
ミラは頬を膨らませた。
「こりゃっ、ムビ! しっかりしろーっ!」
ぱん、ぱん、と往復ビンタ。
「ちょっ、ミラ、なにす……!?」
その瞬間、ムビは真っ赤になって飛び退いた。
「ミ、ミミミミミラ!? なんて格好してんの!?」
顔を覆って俯くムビに、ミラはため息をつく。
「お主、もう3日も湯に浸かりっぱなしじゃったぞ?」
ムビは目を丸くする。
「えっ、嘘……?」
「覚えておらんのか? 打ち上げの後、ワシの秘密の温泉を教えてやるってここに連れて来たじゃろうが?」
ミラは腕を組んで鼻を鳴らす。
「そういえば、月と太陽が何度か入れ替わったような……」
「どれだけ話しかけても上の空じゃったからのう。3日ぶりに、ようやくお主と会話できたわい」
ミラは頬を染め、もじもじし始めた。
「それでじゃがムビ。どうじゃろう? ワシ、意外とスタイル———」
話の途中で、ムビはスタスタと温泉に向かう。
ちゃぽん、と音を立て、再び岩を枕に月を眺めた。
「ああ。綺麗な月だなぁ」
ムビのため息が聞こえ、ミラは死んだ魚のような目で再び温泉に戻った。
「ムビ。隣、失礼するぞ」
「あぁ、ミラ。温泉気持ちいいよぉ~」
ムビの虚ろな目を見て、ミラの目が細まっていく。
「なぁムビ。さっきのドラゴン肉は美味かったか?」
「うん、最高だった。天にも昇るとはまさにこのこと」
ミラはわなわな震え始めた。
「このたわけがぁーっ!」
ドッパーン!
ムビは宙高く舞い上がり、岩の上にドスンと落ちた。
「いたたっ、ミラ、なにす……うわあああっ!? なんて格好!?」
「えぇーい、その件はもうよい! 文字数を稼ぐな、文字数を!」
ミラは仁王立ちし、ムビを指差す。
「まったく、本格的に目を覚まさせる必要がありそうじゃのう。ムビ、ワシがここにお主を連れて来た理由は何だと思う?」
「え? それは、秘湯を教えてくれるためじゃ……?」
「それもあるが、本当の目的は別にある」
ミラは、乾いたタオルをムビの顔に投げた。
「体を拭いて服を着ろ、ムビ。ワシと勝負じゃ」
タオルがずり落ち、ムビのキョトン顔が露わになる。
「勝負……?」
「そう。お主の優勝に水を差す気はないのじゃが、やはりどう考えても納得いかん。だって、本当の最強はワシじゃろう?」
2人の間を、風が吹き抜ける。
先程までの風とは、一味違った静けさだった。
「あはは……何言ってんのさ。ミラと戦う理由なんて……」
———ボウッ!
ミラの拳が、顔の横を通り抜けた。
風圧で、背後の木々が大きく軋む。
「いいからやるぞ、ムビ。ワシは本気じゃ」
ミラの瞳が金色に染まる。
「ミラ……」
途端に、ムビの顔が赤くなった。
「うわあああっ! なんて格好!?」
「またボーっとしておったのかお主は!? ええい、さっさと服を着るのじゃっ!」




