第368話 決勝戦のあと3
ゼルはゴリと共に、『両面宿儺』のアジトへと急いだ。
夜の街はざわつき、二人の姿を見つけるたびに人々がひそひそと囁き合う。
その視線が痛い。胸が焼けるようだった。
アジトに辿り着くと、ノームがくっくと喉を鳴らして笑った。
「おぉ、これはこれはゼル殿。どうやら大変なご様子ですな」
「ノーム、頼む! ここで匿ってくれ!」
「もちろんですとも。しかし……この通り、もう外を出歩くことは叶いますまいな」
ノームがリモコンを押すと、テレビには緊急特番が映し出された。
コメンテーターたちが、口々に『白銀の獅子』を断罪している。
「よもや、『白銀の獅子』が『両面宿儺』と繋がっていたとは」
「信じられませんね。これほど裏切られた気分は初めてです」
「こうなると、今までムビが述べていた主張の真偽を、再検証する必要がありますね」
「一歩間違えれば、『両面宿儺』の間者がリリス様の専属パーティになっていたわけですか……。よくぞ『四星の絆』が止めてくれたものですね」
どのチャンネルに変えても、画面は『白銀の獅子』と『四星の絆』の話題で埋め尽くされていた。
「……あ、あわわ……もうダメだ……」
ゴリは震え、膝を抱え込む。
ゼルはSNSを開いた。
フォロワーは半減し、罵詈雑言が殺到していた。
「くそっ! ふざけんじゃねぇ!」
ゼルはスマホを地面に叩きつけた。
怒りに震えるゼルを前にしても、ノームは涼しい顔だった。
「リゼとマリーをすぐに捕らえなかったのが痛手でしたな。お二人とも、ミナリィ様がお待ちです。広間へどうぞ」
ゼルとゴリは喉を鳴らし、青ざめた顔で広間へ向かった。
◆ ◆ ◆
広間の玉座には、ミナリィが足を組んで座っていた。
その笑みは、愉快で仕方ないとでも言いたげだ。
「やぁやぁ、『白銀の獅子』の諸君。随分な負けっぷりだったじゃないか♪」
ゼルとゴリは跪き、震えながら頭を垂れた。
「ボ、ボス……御身のお力を……」
「残念だけど、ここまで広まっちゃったらどうしようもないね♪ まっ、外を出歩きたかったら整形でもするしかないんじゃない?」
「せ、整形……」
ゴリが呆然と呟く。
ミナリィは肩をすくめた。
「まぁ、ムビを追い詰め過ぎたのが君らの敗因だね♪ さっさと殺すべきだった。なんせ彼は、前世で魔王様を倒した勇者パーティの一人なんだから♪」
ゼルとゴリは同時に目を見開いた。
「ゆ、勇者パーティ……!?」
「前世で魔王を倒した……!?」
ミナリィがにっこり笑う。
「そ♪ ミラが勇者で、ムビは後方支援だったかな? あれは強かったなぁ。人類側の全戦力より、勇者一行の方が恐かったよ♪」
ゼルは、決勝でムビから与えられた膨大な力を思い出した。
あれは、伝説の勇者一行の力だったのかもしれない。
「も、申し訳ありませんでした……。そ、それでボス……御用というのは?」
「あぁ、君たちの新しい働き場所を用意しようと思ってね♪」
ミナリィが1枚の紙を放り、ゼルの足元にひらりと落ちる。
「こ、これは……?」
「帝国軍の人員募集の要綱さ♪ 君たちには、最前線で戦ってもらおうと思ってね♪」
ゴリが悲鳴を上げた。
「て……帝国軍の最前線……!? 英霊殿行きの片道切符じゃないですか!?」
「なに言ってるのさ、そんな大げさな♪ たかだか致死率99%程度じゃないか♪」
ミナリィがけらけら笑う。
「いやいや、ほぼ確定で死ぬじゃないですか!?」
「なぁに、君たちはレベル800だ、そう簡単には死なないだろう?」
「戦場の戦術兵器は、レベル1000を即死させるんですよ!? 絶対無理です!」
「ははは、大丈夫大丈夫♪ 君たちが所属するのは、新たに設立される元帥直属の特殊部隊なんだから♪」
ゴリが目を丸くする。
「元帥直属の特殊部隊……?」
「そう♪ "帝国の悪魔"の昇進祝いに、大隊をプレゼントするってわけさ♪」
ゼルの顔から血の気が引いた。
「て……"帝国の悪魔"……?……まさか、レミリア・ブラッドシュタイン、ですか……?」
ゴリがゼルを見る。
「レミリア・ブラッドシュタイン? 誰だよ、それ……?」
ゼルは震える声で答えた。
「知らねぇのかよ……? 8年前、齢10歳で最前線に投入されて以来、関わった全ての作戦を成功させている化物だ……。近年、世界大戦を帝国側が優勢に進めている理由は、こいつのせいだって話だ……」
ミナリィが満面の笑みを浮かべる。
「その通り♪ 曰く、人類最強。曰く、撃破数100万。100年後、歴史を振り返ったとき、人類の死因の1%を担うのは彼女だろうね」
ゴリは絶句した。
「そ、そんな危険人物の下へ!? 冗談じゃねぇ、殺される!」
「残念ながら、拒否権はない。君たちは、『両面宿儺』の幹部候補だろう?」
ミナリィは髪をくるくると弄びながら続ける。
「幹部たるもの、表の世界でそれなりの地位についてもらわなきゃ困る。だが君たちはこの国ではもう居場所がない。その点、帝国ならば『両面宿儺』との関係も禁じられていないし、むしろ僕らの総本山だ♪ 社会的にも軍人の地位が最も高く、最前線で功績を挙げ続ければ昇進も容易ってわけさ♪ なにより、君たちの実力では『両面宿儺』の幹部は務まらない。もっとレベルを上げてもらう必要がある。人類最強の下で鍛えられながら、功績も挙げて一石二鳥♪ どうだい、悪くないプランだろう?」
「いや、だから死んじまったら元も子も……!」
ゴリの言葉を、ゼルが遮った。
「分かりました。ご期待に、必ずや応えて見せます」
「お、おい、ゼル……!?」
ミナリィが首を傾げる。
「あれ? 君はもっと嫌がると思ったんだけどな。いいのかい、生涯軍人として生きることになっても?」
「いいえ、ボス。俺は帝国でのし上がり、もう一度『白銀の獅子』を結成します」
ミナリィが意外そうに目を見開く。
「『白銀の獅子』? 驚いた、まだパーティに未練があるのかい?」
「気付いたんです。『白銀の獅子』にはムビが必要不可欠だった。だから、あいつを追放したことが失敗の原因だったんです」
ゼルは顔を上げ、その目には狂気じみた光が宿っていた。
「だから、奴隷ギアスでも何でも使って、今度こそあいつを完全な『白銀の獅子』のメンバーに定着させるんです。そうすれば、きっとリゼもマリーも帰ってきます。この国では最強の冒険者の称号を掴み損ねましたが、もっと市場規模の大きい帝国でその夢を必ず果たします。いかがですか? それならば、『両面宿儺』の幹部にふさわしいでしょう?」
その言葉に、ミナリィは笑い出した。
「あはは! 君も大概イカれてるなぁ♪ オーケー、それでいいよ。存分に、君の夢のために邁進したまえ♪」
驚くゴリの肩を、ゼルが掴む。
「そういうわけだゴリ。俺について来い」
「……くそっ! こうなりゃヤケだ! 地獄だろうがなんだろうが、ついてってやるぜ!」
そう言うと、ゼルとゴリはミナリィに跪いた。
ゼルの瞳に強烈な執念が宿る。
(待ってろよ、ムビ。どんな手段を使ってでも、必ずお前を『白銀の獅子』に引きずり込んでやる……!)




