第367話 決勝戦のあと2
テレビの前で、視聴者たちは固唾を飲んで画面を見つめていた。
「どうなってる!? 全然映らないじゃねーか!」
ムビとゼルの戦いが始まった直後、画面は突然暗転した。
代わりにキャスターが映り、「会場中のカメラが一斉に故障した」と説明する。
「はぁ!? これからクライマックスだろうが、何やってんだ!?」
「このために休日返上してんだぞ!?」
怒号が飛び交う中、キャスターの読み上げだけが虚しく続く。
そして30分後、ついに速報が流れた。
「最新のニュースです。S級選抜大会、優勝したのは『四星の絆』。『白銀の獅子』は、惜しくも敗れたとのことです」
全国民がざわめいた。
「おい……まじかよ……」
「『白銀の獅子』が、負けた……?」
誰もが絶句する中、一人、また一人と呟き始めた。
「ムビってペテン師って噂だったけど……本当は強かったんじゃねぇのか?」
◆ ◆ ◆
病院のベッドで、ゼルはゆっくりと目を開けた。
「あっ、ゼル! 気がついたか!」
聞き慣れたゴリの声。
ゼルは痛む頭を押さえながら周囲を見渡す。
「うっ……ゴリ。どこだ、ここは?」
「病院だよ。くそっ! まさかここまで来て負けちまうなんて!」
ゴリは苛立ちを隠せず、ゴミ箱を蹴り飛ばした。
「悪かったな、ゴリ。俺の見込み違いだった。まさか、ムビがあんなに強かったなんて……」
「追放したのは間違いだったってのかよ!? くそっ、あいつがパーティにいりゃ、今頃天下を取れてたのに!」
ゴリは悔しそうに歯を噛み締めた。
ゼルは虚ろな目で天井を見つめた。
「リゼとマリーは……?」
「どこ行ったのか分かんねぇ。そもそも、お前は3日も寝てたんだ。俺も昨日目覚めたばかりでよ……」
ゼルはスマホを確認した。
やはり『白銀の獅子』チャンネルは削除されている。
リゼとマリーは、グループチャットから退出していた。
「どうする、ゼル? あの2人、ギアスから解放されて逃げたっぽいぞ……。『白銀の獅子』は、これからどうなる?」
ゼルはゴリの肩を軽く叩き、笑みを浮かべた。
「大丈夫だゴリ。『白銀の獅子』は何度だって復活する。これまでだって、どんな逆境も乗り越えてきたじゃねぇか」
「そ、そうだよな……! ははは、さすがゼル、頼もしい限りだぜ♪」
ゼルはそのまま何気なく、病室のテレビを付けた。
次の瞬間、目を丸くする。
「は……?」
画面には『緊急記者会見』の文字。
壇上にはリゼとマリーが並んでいた。
「——ということは、お二人は無理矢理『白銀の獅子』に従わされていたと?」
「その通りです。奴隷ギアスで、散々ひどい目に遭いました」
マリーの顔がアップになる。
ゼルとゴリは同時に叫んだ。
「……な、なんじゃこりゃーーーっ!!?」
記者の質問はさらに続く。
「行動の制限、性的な暴行を受けたとおっしゃいましたが、なぜゼルはそのようなことを?」
リゼがマイクを握る。
「理由? あいつは『両面宿儺』と繋がってんのよ」
会場がどよめく。
「りょ……『両面宿儺』……!?」
「ええ、そうよ。経験値ドーピングや魔剣の提供も受けたわ。『白銀の獅子』が急速に成長したのはそのおかげよ」
フラッシュが乱れ飛ぶ。
「実際に、『両面宿儺』のメンバーとの接触はありましたか!?」
「メンバーとの接触? それどころじゃないわよ。ボスに会ってきたんだから」
会見場が静まり返った。
「りょ……『両面宿儺』のボスに会った!?」
「正体は謎に包まれているという、あの、伝説の……!? 一体、どのような人物だったのでしょうか!?」
リゼは不敵に笑う。
(ふふ……。これほどの爆弾を発表できるなんて、なんて爽快なのかしら♪)
前が見えないほどのフラッシュを浴びながら、リゼは軽く息を吸い込んだ。
「それは———」
その瞬間、リゼの口が止まった。
頭の中に声が響く。
「それ以上言ったら、死ぬよ?」
首元に冷たい刃を当てられているような感覚。
リゼの背筋が凍りつく。
「どうしました?」
固まるリゼに、記者が怪訝そうに首を傾げる。
「……ごめんなさい。誰かは分からなかったわ。カーテン越しで姿は見えなかったの」
リゼは荒い息を吐いた。
「そうでしたか。他にも話せることがあれば、伺ってもよろしいですか?」
「もちろんよ。まだまだこんなものじゃないわ。ゼルはね———」
その瞬間、ゼルはテレビを消した。
「おいゼル、なんで……?」
「逃げるぞ、ゴリ!」
ゼルは点滴の管を引きちぎり、慌てて身支度を始める。
「に、逃げるってなんでだよ!?」
「『両面宿儺』との接触は重罪だ! すぐ衛兵が来る!」
ゴリは目を見開いた。
「は、はぁ!? だ、大丈夫だろう? また『両面宿儺』が揉み消して……」
「生放送の記者会見だぞ!? 決勝の直後だ、恐らく多くの国民が見てる! 数日もすりゃ、あっという間に全国民に知れ渡る! 揉み消すなんて到底不可能だ!」
ゴリの顔は真っ青になった。
「そ、そりゃいけねぇ……! でも、逃げるってどこへ?」
「知るか! とにかく身を隠すんだよ!」
ゼルは叫び、窓を開けて隣の建物に飛び移った。
(くそっ……! なんで俺がこんな目に……!?)




