第366話 決勝戦のあと
勝利の雄たけびもなければ、ガッツポーズもない。
王族専属のS級冒険者となったという栄誉すら、ムビの背中からは微塵も感じられなかった。
静かに歩み去るムビの後ろ姿を見つめながら、王は呆然と呟く。
「なんだったのじゃ、あいつ……。よもや、これほどの化物だったとは……」
聖女がくすりと笑う。
「よかったではないですか、王よ。これほどの逸材が、王族の専属パーティとなるのですから」
「……ふん。謀反でも起こさぬか、気が気でないわい」
ムビは崩れた入場ゲートの残骸へと歩いていく。
その前に、ミラが立っていた。
「おかえり、ムビ」
喜ぶでも、褒めるでもない。
ただ静かに、ムビを見つめていた。
「ただいま、ミラ」
ふたりはしばし無言で向き合った。
雨音だけが、瓦礫の間を流れるように響いている。
「……あはは、どうしたの、ミラ? ほら、俺勝ったよ?」
おどけてみせるムビ。しかしミラの表情は変わらない。
じっと見つめたあと、ようやくいつもの笑顔が戻った。
「よくやったのう、ムビ♪ やっぱりお主は大した奴じゃ」
ミラが手を掲げ、ムビと軽くハイタッチを交わす。
「ありがとう。ミラの協力のおかげで、優勝できたよ」
「かっかっか、S級冒険者様とお近づきになれて光栄じゃわい♪」
朗らかに笑うミラ。
瓦礫の中を、ミラと一緒に歩いて行く。
「さてさて、パーッと祝勝会といきたいところじゃが……まずは病院に行くか?」
「そうだね。皆に報告しないと」
◆ ◆ ◆
ムビが病室に入ると、『四星の絆』の全員が目を覚ましていた。
「あーっ! ムビくんっ!?」
全身包帯のユリが叫び、他の3人も一斉にムビへ視線を向ける。
ベッドに寝たまま、全員が興奮で身を乗り出していた。
「ムビくん! 優勝したんだってね!! おめでとうーーーっ♪♪」
「信じられません! たった一人で白銀の獅子に勝つなんて!」
「どうやって勝ったの!? うちら映像が見れなくてさ、結果しか聞いてないのよ!」
「詳しく聞かせてくださいな。ギアスの解除が成功したのですか?」
4人の笑顔を見て、ムビはようやく優勝の実感が湧いてきた。
「えへへ、実は……」
照れながら、決勝戦の顛末を語り始める。
「えぇーーーっ!? ムビくん、スキルが使えるようになったの!?」
「リゼとマリーがギアスで操られていたなんて……」
「会場がめちゃくちゃって……一体、今どれだけ強いのよ!?」
「しかし、『白銀の獅子』チャンネルを削除とは、ムビさんもやりますね」
病室の外では、ミラが壁にもたれながらその様子を眺めていた。
「ちぇっ、羨ましいのう……」
小さく呟きながらも、どこか嬉しそうだ。
談笑は1時間近く続いた。
「よーし、さっそく祝勝会!……と言いたいところなんだけど、私たちこの状態だからなぁ」
ユリが苦笑する。
全員重傷で、とてもベッドから起き上がれる状態ではない。
「回復魔法も効かないし」
「2ヶ月は安静って言われましたしね」
シノがムビに微笑む。
「ムビさんもお疲れですよね? いの一番に来てくださってありがとうございます。今日は帰って、ゆっくりしてください」
ユリが上体を起こして憤慨する。
「えーっ!? ムビくんも一緒に入院しようよ!? せめてお菓子パーティで祝勝会を……」
「そんなこと病院でできるわけないでしょう!? それに、ムビさんは怪我なんてないの!」
ムビは苦笑しつつ、頭を下げた。
「ありがとうございます。祝勝会は、皆が退院したらまた改めてやりましょう。またお見舞いに来ますね」
「うん、またねームビくん♪」
笑顔で手を振る4人に見送られ、ムビは病室を出た。
「終わったのか?」
壁にもたれたまま、ミラが声をかけてくる。
「うん。待たせてごめんね」
返事をすると、ミラが横並びになって一緒に廊下を歩き始めた。
「さてムビ。何が食べたい?」
「うーん、そうだねー、ドラゴン肉にでもかじりつきたい気分」
ムビの返答に、ミラは豪快に笑った。
「よし、今日はワシの驕りじゃ! 好きなだけ食べるが良い♪」
「まじっすか、あざっす」
「かっかっか、まぁワシしかおらんが、決勝の祝勝会じゃ♪ 今日は飲み明かすぞ、ムビ!」
ムビはミラに連れられ、王都の街へと消えて行った。
◆ ◆ ◆
「う……」
リゼは目を覚ました。
白い天井。柔らかな布団。
試合で意識を失い、誰かに運ばれたのだろう。
(はは……、またゼルの奴隷に逆戻りか……)
「リゼ、目が覚めましたか」
隣を見ると、マリーが椅子に座っていた。
「マリー? ここは……?」
「教会のベッドです。安心してください。私もあなたも『白銀の獅子』の束縛から解放されています。決勝戦、勝ったのは『四星の絆』です」
リゼは目を見開いた。
「は!? えっ、どういうこと!? 一体何が……!?」
とても逆転できる状況ではなかったはずだ。
あそこからどうやってムビが勝ったのか、リゼには想像もつかなかった。
マリーは静かに、決勝戦で起きたことを語り始めた。
「は、ははは……。信じらんない、あのバカ……」
「ゼルとゴリは病院に搬送されました。リゼは私がこの教会に運びました。もう、『白銀の獅子』と関わるなんて二度とごめんですからね」
リゼは安堵から、ようやく笑みがこぼれた。
「ありがとう、マリー。……あぁーっ! 自由って最高だわ!」
思いきり伸びをすると、世界が昨日までとまるで違って見えた。
マリーもつられて微笑む。
「これからどうしますか、リゼ?」
リゼの目が細まり、悪戯っぽく輝く。
「決まってるでしょう? ゼルの奴をとっちめてやるのよ。メディアに、洗いざらいぜーんぶぶちまけてやるわ♪」
「ふふ……あなたのゲス顔も、久しぶりに見ましたね」
窓の外から光が差し込む。
まるで『白銀の獅子』から解き放たれたふたりを祝福しているようだった。




