第365話 決勝戦21
ムビから与えられたパラメータがちょうど半分であることを確認したゼルは、競技開始線に向かって歩き出した。
ムビもそれを見て、反対側の開始線に向かう。
互いが開始線に立ち、視線がぶつかる。
「開始の合図は不要だな?———行くぞ、ムビ!」
ゼルが地を蹴った瞬間、空気が裂けた。
一瞬で距離を詰め、魔剣の一閃を叩き込む。
———バキイィィィッ!
ムビが受け止めたその後方で、会場が真っ二つに割れた。
「ははは! 凄まじい力だ!」
ゼルの連撃が続く。
ムビが受け、躱すたびに剣圧が暴風のように吹き荒れ、観客席が崩壊していく。
「も、もうダメだ! 死んじまう!」
会場に残っていた観客は全員、一目散に逃げだした。
「王よ! ここは危険です! お逃げください!」
「な……何をしておる! 早く余を運び出せ!」
キィンッ!
ゼルの剣圧が、来賓席に向かって飛んで来る。
「ひぃっ……!」
全員が死を覚悟したそのとき。
「"零域結界"!」
聖女の結界が来賓席を包み込み、剣圧を弾き返した。
「で、でかした聖女よ! よくぞ余を守った!」
「流れ弾程度なら、私が皆さんをお守りします。王は、この試合を見届けてください」
ゼルはなおも攻勢を続けていた。
「ははは! どうしたムビ! そんなものか!?」
ゼルの斬り上げる一撃。
ムビは受け止めるが、数十メートル上空へと吹き飛ばされる。
「もらった! "終焉の絶剣"!」
ゼルが跳躍し、空中でムビを叩き落とす。
隕石のように落下したムビの衝撃で、石畳がすべて捲れ上がり粉砕された。
「くくく……! 見たか、ムビ。これが俺とお前の差だ!」
着地したゼルが勝ち誇る。
「俺のスキルは『剣聖』。ステータスが五分なら、俺が負ける道理はない。お前とは生まれ持った才能が違うんだよ!」
吠えるゼル。
だが、ムビは瓦礫の中から平然と立ち上がる。
「なら、生まれてから得た力で、お前を倒すさ」
ギィンッ!
縮地で迫ったムビの一閃。
ゼルは受け止めるが、その鋭さに目を見開く。
「なっ……!? てめぇ、どうやってそんな技を……!?」
「どうやってって、修行に決まってるじゃん」
鍔迫り合い、互いにはじけ飛ぶ。
壁まで吹き飛んだ両者が一瞬で接近し、フィールド中央で再び爆発が起きる。
そのままわずか2秒の間に、数十の斬り合い。
数万人を収容できる会場が、削り取られていく。
2人の剣の腕は完全に互角だった。
「どういうことだ!? なぜ『剣聖』のスキルを持つ俺と渡り合える!?」
鍔迫り合いながら、ゼルが叫んだ。
「俺の師匠は、鍛錬のみで上位剣スキル持ち以上の剣技を身に着けていた。弟子の俺でも、怠けきった『剣聖』くらいならなんとかなるさ」
ゼルのプライドが傷つく。
「な……なめやがって! 殺してやる!」
ゼルがムビを弾き飛ばし、距離が生まれる。
「"神聖なる灼熱"」
後方に飛びながら、ムビが極大呪文を放つ。
「う、うおおおおっ!?」
ゼルは炎に飲み込まれる。
「こっ……この野郎! "終焉の絶剣"!」
剣技で炎をかき消すが、決して軽くはないダメージが刻まれた。
「てめぇ……極大呪文まで……!?」
「何を驚いているんだ? 剣は俺の手数のほんの一部に過ぎない。本番はこれからだぞ?」
ムビの周囲に無数の魔法陣が展開される。
「"星霜の氷鎖標識"。"星葬の光球"。"風神の暴風"」
連発される魔法。
会場は原型を保てず崩壊していく。
矢継ぎ早に繰り出される呪文に、ゼルは徐々に削られていく。
(くそっ! 距離を取ったら一方的にやられる! 接近戦に持ち込むしか———!)
ゼルは一気に距離を詰め、渾身の剣撃をムビに叩きこむ。
「"終焉の絶剣"!」
しかし、ムビにあっさりとパリィされる。
「なっ……!?」
そのまま、完璧なムビのカウンター。
「ぐはぁっ!?」
まともに喰らったゼルは、大ダメージを受け、膝をつく。
「バ、バカな!? 俺の本気の一撃を、こうも完璧に……!?」
ムビの周囲には浮遊カメラが漂っていた。
スローカメラによる1000分の1の体感速度。
今のムビのパラメータをもってすれば、体への反動は全くない。
神の反射速度を、何の対価もなく使い放題だった。
「遊びは終わりだ、ゼル。そろそろ本気で行くぞ」
ムビが全ての手数を解放する。
「ぐああああああああっ!?」
接近戦でも圧倒され、距離を取れば魔法の雨。
ゼルは完全に追い詰められた。
(嘘だろ……!? この俺が……天才の俺が、手も足も出ない……だと……!?)
集中力が切れた瞬間、魔剣を弾き飛ばされた。
「し、しまっ……!」
ムビがガラ空きの懐へ飛び込む。
「"螺旋龍煌砲"!」
———ドゴオォォォオオオォォォンッ!!
ムビの拳が腹部に直撃し、アバラが砕け散る。
ゼルは口から血を噴き出し、壁まで吹き飛んだ。
「が……がはぁっ! く……くそ、まだだ……うっ!?……ゲホッ、ゲホッ!」
剣を握る力すら残っていない。
完全に勝負はついていた。
———ザアァァァ……。
雨が降り始めた。
ムビは雨に濡れながら、ゆっくりとゼルに歩み寄る。
「俺の勝ちだ、ゼル。どうだ、今の気分は?」
ゼルは腹を押さえながら、呆然としていた。
「こ、こんなはずじゃ……」
「これが現実だ。お前の夢も、『白銀の獅子』も、もう終わりだ」
数秒の静寂の後、ゼルが肩を震わせる。
「……ははは。俺が間違ってたっていうのかよ……」
ゼルはムビを見上げる。
その目に、濁りは一切なかった。
「お前、強かったんだな……」
久しぶりに向けられたゼルの眼差しに、ムビは目を見開く。
『白銀の獅子』初期の頃の、ゼルの目。
「なぁ……答えは分かり切ってるんだが、今からでも戻らねぇか?『白銀の獅子』に……。今度こそ、最強のパーティを作りてぇんだ……」
ゼルの瞳が徐々に虚ろになっていく。
「それはできない。俺が『白銀の獅子』に戻ることは、もう二度とない」
ゼルが口から血を流しながら、うっすら笑う。
「はは……。俺としたことが、しくったぜ……。最高のパーティだったのに……」
ゼルはそのまま前のめりに倒れ、ピクリとも動かなくなった。
雨音だけが、響き続ける。
「審判。勝敗は?」
唐突なムビの呼びかけに、来賓席で聖女の結界に守られていた審判がビクリと震えた。
少し戸惑い、不安そうに王を見た。
「王よ……いかがなさいますか?」
王はわなわな震えていたが、観念したように目を閉じた。
「……見ての通りじゃ。試合を終わらせろ」
審判は息を呑み、既に原型を留めていないフィールドへ足を踏み入れた。
「決勝戦! 勝者、『四星の絆』! S級選抜大会、優勝は『四星の絆』です!!」
音響が壊れた会場に、審判の肉声だけが響く。
それだけ聞くと、ムビは背を向けて去って行った。
誰もいない会場。
拍手の代わりに、雨音だけが響き続けた。
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これにて決勝戦終了です!
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