第340話 1500万 VS 1
会場に到着し、小太りなスタッフに出迎えられた。
「ああ、ムビ様。ようこそお越しになられました。ぷぷっ……準決勝は逃げたのに、決勝戦は出場なさるんですね。……おや? 他の4名のお姿が見えませんが?」
「……他の4人は棄権します。今日は、俺一人で試合に出ます」
一瞬の静寂。
だが次の瞬間、スタッフは堪えきれず吹き出した。
「ぷっ……あはは! 本気ですか?……あー、察しました。ついに女の子たちから見限られちゃった感じですね?ww」
「……皆は負傷していて、試合に出られないんです」
「負傷ってww回復魔法でどうとでもなる話でしょうに。あーはいはい、まぁそういうことにしておきましょう。30分後にはセレモニーが始まるので、フィールドにお集まりください。もっとも、お一人のようですがねww」
スタッフはゲラゲラ笑いながら去って行った。
◆ ◆ ◆
30分後、フィールドへ向かった。
決勝戦を見ようと詰めかけた満員の観客たちの大歓声……いや、大ブーイングが耳をつんざく。
「ひっこめムビー!」
「とっとと負けちまえ、バーカ!ww」
フィールド中央に、ポツンと一人佇む。
正面の来賓席には王族、大貴族、委員会幹部たちが並び、冷たい視線を投げつけていた。
罵声の嵐が数分続いた頃、突然、会場が揺れるほどの歓声が上がった。
「来たぞ!『白銀の獅子』だぁー!!」
ゼル、ゴリ、リゼ、マリーが、颯爽とフィールド内に姿を現した。
「キャー! ゼル様カッコいいーーー!!」
「応援してるぞー!」
「お前らが優勝だぁー!」
ゼルは王のような堂々たる振る舞いで歓声に応え、ゴリは肩で風を切りながら歩く。
その後ろを、リゼとマリーが無言でついていく。
近付いてくるゼルと目が合った。
「よう、ムビ。醜態をさらす準備は万全か?」
余裕たっぷりの冷笑。
勝利を疑わぬ絶対的な自信が、その目に宿っていた。
「……ん? 他のやつらはどうしたんだ?」
ゼルが周囲をキョロキョロ見渡すと、アナウンスが流れた。
「場内にお集まりの皆様、本日は御足労いただきありがとうございます! それではこれより、S級選抜大会・決勝戦を開催いたします! まずは、王のお言葉をご清聴ください!」
大歓声の中、王がマイクを握る。
「あー、オホン。長きに渡ったS級選抜大会、よくぞここまで勝ち残った。我が寵愛に値する類まれな成果と言えよう。特に『白銀の獅子』。優勝候補、『ドラゴンテール』を破った戦いは見事であった。お主らが、我が愛娘の専属パーティになることを心より願っている。この栄えある舞台で貴殿らの戦いが見れること、本当に嬉しく思う」
王は目尻を下げてゼルに語り掛けた後、今度は見下ろすように冷たくムビに語りかけた。
「それに比べて……どういうつもりじゃ、『四星の絆』? そこの出来損ないのゴミ以外、誰もおらんではないか? 遅刻とは、王室主催の大会を何と心得る?」
観客席から笑いが起こる。
家臣が王に耳打ちすると、王はさらに口角を上げた。
「あぁ? それはほんとか?」
王が失笑しながら、再びマイクを握る。
「他4人は欠席! 決勝はそこのムビとかいうゴミが一人で戦うだと?? 正気か?? 勝てるはずがなかろうがwww」
王の言葉に続き、大ブーイングが巻き起こる。
「ふざけんなー! 俺は『四星の絆』の女の子たちを見に来たんだぞー!」
「勝てるわけねーだろwww」
王は罵声を背に、さらに言葉を重ねる。
「とうとう仲間にも愛想を尽かされたようじゃな。会場の皆の者、そして全国の中継映像を見ている我が国の民よ、とくと見よ! これが負け犬の姿じゃwww」
来賓席、会場、そしてブラウン管の向こう。
おそらく全国民が、俺を見て笑っていた。
「まったく、伝統ある選抜大会をこんな形で愚弄するとはな。それだけでも不敬罪に値するが、その執行は『白銀の獅子』に任せるとしよう。これも全て、お主のしてきた数々の悪行の報いよ。甘んじて受けるがいいわ、うはは!」
会場からコールが巻き起こる。
「コ・ロ・セ! コ・ロ・セ!!」
歓声を受けながら、ゼルが肩をすくめる。
「やれやれ。凄惨で残酷なショーを見せてやるつもりだったが、どうやら観衆はそれくらいじゃあ収まらないようだな」
ニヤリとこちらに笑みを向ける。
「分かったか? これが俺とお前の差だ。俺には王はおろか、全国民が味方についている。対してお前はどうだ? お前の味方なんか、この世に一人もいない。いくらバカで低能なお前でも、そろそろ身の程が分かってきたんじゃないか?」
ゴリが同調する。
「ワハハ! そうだ、ゼルの言うとおりだww今までの非礼の数々、地べたに這いつくばって謝るってんなら許してやるぞwww」
「いや、それじゃ足りないな。こいつの知能は犬並みだ。躾けなきゃ治らないだろう?? 靴を舐めさせて、3回回ってワンも必須だww」
実に楽しそうに笑うゼルとゴリ。
数万人の観衆に敵意を向けられ、息が詰まりそうになる。
頭がグルグル回り、この世に味方が本当に一人もいないように思えてきた。
アナウンスが響く。
「それでは、試合の準備に入ります! 両パーティの選手は一旦控室へ戻り、30分後にこのフィールドにご入場ください!」




