第335話 本性
ミラはサヨとリリスの間に立ち、2人を見比べながら問いかけた。
「まずは、何があったのか教えてもらえるかの?」
サヨが即座に口を開く。
「準決勝の観戦後、私たち4人はムビさんを探しに行きました。ムビさんの家で女狐の招待状を見つけ、魔眼で魔力の痕跡を辿ると王城へ続いていたんです。門前払いされたので深夜に忍び込み、リリスの部屋で異界転移の魔導書を発見。本を開いたらこの異界に飛ばされて……ダンジョンの奥で捕まっていたムビさんを救出し、逃げてきたところを追いつかれました」
サヨは淀みなく説明した。
何せ、全て真実である。
しかし、リリスは余裕たっぷりに冷笑した。
「ふふ。さすがとっさの嘘、穴だらけですね。ミラ様、こんな奇天烈な話を信じるのですか?」
「ん? お、おう……」
ミラは慌てふためいた。
自身の位置探知と照らし合わせても、ギリギリ話の辻褄は合っているが……。
「深夜に王城に忍び込んだ? 何を世迷い事を。そんな暴挙を、あの3人が許すはずがないでしょう?」
リリスが気を失っているユリ、シノ、ルリを指差す。
ボロボロのサヨは深く息を吸い、左目を押さえながら話を続ける。
「確かに、発案者は私です。3人が始めは反対していたことも否定しません。しかし、ムビさんが王城へ入り、その後出て行った痕跡がありませんでした。城の内部が確定的に怪しかったので、私1人でも忍び込むと言ったら、3人はついて来ました」
「苦しい言い訳ですね。それに、私の部屋に異界転移の魔導書? もう少し、真実味のある嘘は思いつかなかったのですか?」
「真実でしょう? 真実味に欠ける程、お前の行動が異常なだけです」
「まったく……。いつ魔物が転移してくるかも分からない危険物を、部屋の机に? あり得ませんね。あなたの話は破綻しています」
リリスは息を吸い、芝居がかった口調で語り始めた。
「ミラ様? 真実はこうです。私は昨日、『四星の絆』の4人を自室に招待しました。決勝に向けた作戦会議のためです。するとサヨが転移魔法を使い、全員をこの異界へ飛ばしました。サヨは『両面宿儺』の刺客で、私たちを屈服させギアスの奴隷にしようと襲ってきたのです。隙を見て下層で囚われていたムビ様を救出し、逃げてきましたが、サヨに追いつかれ戦闘に。ユリ、シノ、ルリは倒されましたが、4人で力を合わせ、なんとかサヨを戦闘不能に追い込みました。まさに止めを刺そうとしたとき、ミラ様が現れたのです」
サヨは即座に反論する。
「騙されないで、ミラ。私よりも、この女狐は遥かにレベルが上です。今の話が本当なら、3人がやられるはずがありません」
「何を言っているのかしら? あなたこそ、正真正銘の化物ではないですか」
言いながら、横目でミラの様子を伺う。
先程から、リリスはミラの目を注意深く観察していた。
(私とサヨ……明らかに、サヨの方を警戒している)
魔眼を過度に警戒しているのだろうか。
それとも、ミラだけが知っているサヨの秘密があるのだろうか。
(私の強さを知らないようですね。いずれにしろ、その心理を利用するまで……)
ミラは2人を見ながらオロオロしていた。
「ミラ様? サヨは魔眼持ちです。魔眼は根源到達者にのみ宿るもの。魔法の技術が衰えた現代では、根源到達など不可能です。———唯一、『両面宿儺』を除いては」
戸惑うミラに、リリスは畳みかける。
「20年前、聖地で起きたテロはご存知でしょう? 首謀者は『両面宿儺』で、魔眼の使い手でした。過去数百年、魔眼の使い手は皆『両面宿儺』の関係者。サヨの魔眼こそ、敵である証です」
ミラは恐る恐るサヨに視線を送る。
「私の魔眼は自前のもの。『両面宿儺』とは無関係です」
「そんな天才が、現代に突然現れるわけがないでしょう?」
ミラの視線がリリスに移る。
「サヨは危険人物です。闇魔法に精通し、魔物の使役すら可能。『両面宿儺』の特徴と酷似しています。一方で私はどうでしょう? 第六王女たる私が、なぜこんなことをする必要があるのでしょう? 理由など、これっぽっちもありません」
ミラの眼差しに信頼が宿り始めるのを、リリスは見逃さなかった。
(ふふ……あと一息)
リリスが手を伸ばす。
「さぁ、ミラ様? 私と一緒に、あの女を———」
———ピシャッ。
リリスの顔に赤い液体が飛び散った。
「……え?」
リリスの目が見開かれる。
「お前の理由は———これでしょう?」
サヨが左目から流れる血を掌に溜め、リリスへ浴びせていた。
「その女狐は、吸血鬼が引くほどの血液依存症。ムビさんの血を狙っての凶行です」
リリスは手で顔を拭う。
ぬるり。
(———あっ……)
拭えば拭うほど、血の匂いが理性を侵食する。
顔中に広がる血液の匂いに、体が震え始める。
(だめ。おさえなきゃ……おさえなきゃ……)
胸の奥で、獣のような欲求が暴れ始める。
(首を落としたい。動脈を裂きたい。心臓を握り潰したい。———嗚呼、血が欲しい。血が、血が、血が———)
「ミラ、よく御覧なさい。その女の本性を」
ピタリ。
体の震えが止まり、リリスがゆっくり顔を上げる。
「ひどいですね、まったく。人が話している最中に」
穏やかな笑み。
「ミラ様? ひとまず、ムビ様たちを回復させませんか? 皆が意識を戻せば、真実が詳らかになるというもの」
「お、おう? そうじゃの」
ミラは言われるがままに、回復魔法の詠唱を始める。
「"全体回復"」
ミラが4人に手を向けた瞬間———背後で、リリスが斬りかかった。
「ミラ、危ないっ!」
サヨが叫ぶと同時に。
———ずぶっ。
リリスの剣が、ミラの胴体を貫いていた。




