第334話 二つの影、一つの嘘
深夜。
自宅で『Mtube』の編集作業をしていたミラは、ふと手を止めた。
(……『四星の絆』の気配が、王都から消えた?)
PCの画面が青白く光る中、ミラの眉がぴくりと動く。
4人には位置探知魔法をかけていた。ムビが行方不明になった今、次に狙われる可能性が高いのは彼女らだと踏んでいたからだ。
その4人の反応が、ついさっき———数百キロも跳んだ。
(転移魔法……? 決勝戦を前に、一体どこへ……?)
胸の奥に嫌な予感が広がる。
ミラは椅子を蹴るように立ち上がり、外套を掴むと家を飛び出した。
◆ ◆ ◆
月明かりを切り裂きながら飛行魔法で数時間。
東の空が白み始めた頃、荒野の果てにぽっかりと口を開けた洞窟が見えてきた。
入り口からは、禍々しい魔力が溢れ出している。
ただの洞窟ではない。明らかに高難度のダンジョンだ。
(……なぜ、こんな場所に?)
脳裏をよぎるのは二つの可能性。
何者かが4人を連れ去ったか。
あるいは———サヨが3人を連れ去ったか。
準決勝で知ったサヨの正体。
気付いているのは、おそらく自分だけだとミラは思う。
もしあれが悪意ある魔物なら、この状況にも説明がつく。
(やはり、ムビを攫ったのはサヨ……?)
ミラは意を決し、洞窟の内部に足を踏み入れた。
———ポチッ。
「あっ」
入って10歩で、罠を踏んだ。
即死魔法がミラを襲う。
しかし、ミラを包み込んだ魔力は、わずか数秒で霧散した。
「? なんじゃったんじゃ?」
ミラは肩をすくめ、気にする様子もなく先へ進んだ。
◆ ◆ ◆
洞窟内には、魔物の死体が転がっていた。
つい先ほどまで激しい戦闘があったのは明らかだ。
(急いだ方が良さそうじゃな)
ミラは駆け出す。
直後、魔物の群れが道を塞いだ。
「えーい、邪魔じゃ!」
拳が触れた瞬間、魔物は爆散した。
禁忌指定級の魔物が5体、1秒で肉塊に変わる。
さらに奥へ進むと、三つの分岐路が現れた。
(こっちじゃな)
魔力の痕跡を辿り、迷わず進む。
道中、即死罠をコンプリートする勢いで踏み抜いていくが、ミラには一切効かない。
出会った魔物はすべて一瞬で蹴散らした。
やがて、下りの螺旋階段が見えてきた。
(気配が近い……! 恐らく、あの階段を下りた先に、4人がいる!)
ミラは慎重に階段を下る。
もしサヨが黒幕なら、無闇に突撃するわけにはいかない。
なにせ時間停止下で動き、死体を甦らせ、最強クラスの冒険者を指1本で殺すほどの化物なのだ。
階段を降り切り、ミラは第2フロアへ足を踏み入れた。
◆ ◆ ◆
目に飛び込んできたのは、広間の隅でサヨの首に剣を突きつけるリリス。
そして、床に転がる『四星の絆』のメンバーたち。
その中には、行方不明だったムビの姿もあった。
(ムビ! こんなところにおったのか!……しかし、ボロボロじゃないか!?)
よく見ると、『四星の絆』全員が瀕死の傷を負って、サヨ以外は気絶している。
「———おい。これは、どういう状況じゃ?」
唯一無傷のリリスに、ミラは問いかけた。
状況的に、リリスが黒幕としか思えない。
しかし、リリスはミラの顔を見るなり、安心したような笑顔を浮かべた。
「まぁ、ミラ様。どうしてこんなところへ?」
「『四星の絆』に位置探知魔法をかけておってな。気配が王都から消えたので駆けつけた。———で? 何をやっておるんじゃお前は?」
リリスは優雅に笑う。
「ちょうどよいところに。サヨがムビ様を攫った犯人だったのです。ちょうど今から、首を刎ねるところでした」
「……なんじゃと?」
ミラは面食らった。
(やはり、サヨが黒幕なのか……!?)
しかし、サヨがすぐに反論した。
「まったく、本当に悪知恵の働く……。ミラ、騙されないで。ムビ様を攫ったのはこの女狐です」
「なにっ、そうなのか!?」
ミラは困惑する。
ミラから見たら、どちらも相当怪しい。
この2人以外なら信用できるが、全員気を失っている。
(ど……どっちが黒なんじゃ!?)
慌てふためくミラを見て、リリスがくすりと笑う。
「まぁまぁ、詳しい説明は後ほど。まずはこの悪魔の首を落としてしまいましょう」
リリスが剣を振り下ろす。
狙うは、サヨの首。
———ガッ!
剣が止まる。
ミラが一瞬で接近し、リリスの腕を掴んでいた。
(……速い。それに、この力……! 私の剣を止めるとは……)
「お主が白なら謝る。じゃが、サヨは同じ釜の飯を食った仲なんじゃ。簡単に殺されては困る。まずは、状況を説明してくれ」
リリスは、腕にミラの怪力を感じながら考える。
(口封じは無理そうね。ならば、懐柔するしかないか)
サヨは血の海に座り込みながら、にやりと笑った。
「ふふ……残念でしたね、女狐。お前は終わりです」
「あら、何を言っているのかしら? 詰んでいるのはあなたですよ?」
睨み合う2人を見て、ミラは心の中で唱えた。
(ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・な・て・ん・の・か・み・さ・ま・の……)




