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Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

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第333話 異界の足音

 サヨの言葉に、リリスはゆっくりと剣を下ろした。


「確かに私は、16年間、己を律してきました。それもこれも、愛しているからです。家族も、家臣も、民も、生きとし生けるものすべてを。……ですが、気付いてしまったのです。彼らの血こそが、真に私の渇きを癒すのだと」


 一瞬だけ穏やかさを取り戻したリリスの表情は、すぐに邪悪な狂気へと染まり直す。


「私を理解してくれたのは、あなたが初めてです。ならば、分かるでしょう? 私がもう、止まらないことを」

「甘えるんじゃありません。あなたが欲を開放すれば、この国は滅ぶのですよ?」


 ほとんど死にかけのサヨの声には、芯があった。


「民を守るのが為政者の務め。王族? 上級国民?———勘違いするんじゃありません。あなたも平民も、命の価値は同じ。自身の欲求のために国を乱すなど、あってはなりません」

「ふふ……全く同意見です。ですが、私も1人の個。平民と同じく、弱さもある。どうしても我慢がきかない場合もあるのです」

「暗君の言い分ですね。都合の良いときばかり弱さアピールですか? 冗談じゃない。個人の気まぐれで国を滅ぼされてはたまったものではありません」

「ひどいですねぇ。全部私のせいにして。私だって、1人の少女なのですよ?」

「そんな言い訳は通用しません。為政者ならば、例え身を焼かれようとも民の幸せを考えなさい。それができなければ、今すぐ平民に成り下がりなさい」


 リリスはくすりと笑う。


「すごいですね。生殺与奪の権を握っている私に対して、その物言い。大した胆力です」

「勘違いするな。私がその気になれば、お前など2秒で殺せる」


 サヨの言葉に、リリスは目を丸くする。


「……へぇ。虚勢もそこまで行くと、見え透いていて滑稽ですね」

「お前は知らない。真の上位存在が、どういうものか」


 サヨの言葉は淀みなく紡がれた。


「私は別に、平等論を説いているのではない。人間である限り、王族だろうが奴隷だろうが、等しく取るに足らないゴミです。ゴミ同士のどんぐりの背比べに競り勝った程度で、自らを強者と認識するなど、度し難く醜悪です。弱者は弱者らしく、協調して生きなさいな」


 リリスは少し驚いた。

 今にも死んでしまいそうな満身創痍の格下が放った言葉とは思えなかった。


「……そうですか。ならば、真の上位存在とはどういうものか、教えていただくことにしましょう。私、言葉だけでは信じないタイプなので」


 剣を携えながら、ゆっくりとサヨに歩み寄る。


「ええ、そうでしょうね。言葉では人を変えることなどできない。話し合いで解決するならば、戦争など起きませんからね」


 ドスッ。


 サヨの太ももを剣が貫く。


「ぁはぁ♪ 綺麗な色しているじゃないですか♪」


 サヨは地面に崩れ落ちる。

 だが、リリスの攻撃はこれからだった。


「ほぉら、あなたはどんな声で鳴くのですか?」


 グサッ! グサッ! グサッ!


 急所を外しながら、サヨの腕や足を何度も滅多刺しにする。

 しかし、サヨは悲鳴を上げなかった。


「あら。随分と我慢強い♪ どこまで我慢できるか、試してあげましょう♪」




 ◆ ◆ ◆




 サヨは壁際でボロ人形のように転がっていた。

 リリスの剣は、サヨの血で染まりきっていた。


「まったく、驚きました。あなたのように無反応なのは初めてです」


 常人なら発狂するほどの責め苦。

 顔色は青ざめているものの、サヨの表情はほとんど変わらなかった。


「つまらないなぁ。もういいです。あなたの首をさっさと落として、終いにしましょう」


 リリスの剣がサヨの首元へ当てられる。


「最後に、言い残すことはありますか?」


 血まみれで放心状態のサヨが、ゆっくりと口を開いた。


「……あなた、魔眼についてはどこまでご存じ?」

「魔眼、ですか?」

「……魔眼は根源を見た者に宿ります。古の魔法使いたちの多くは、魔眼を宿していました。現代では、その素養がある者はせいぜい数人といったところでしょうか」


(何だ? 一体、何の話をしている?)


「死ぬ前に自慢話ですか?」

「……魔眼を持つ者は、見える世界が違います。他人の魂が見えたり、魔力の痕跡が見えたり。私がここまで来れたのも、ムビさんの魔力の痕跡を辿ったからです」

「なるほど。どうやってここまで来たのか気になっていましたが、あなたの魔眼の力でしたか。死ぬ前に、教えてくれてありがとう」

「……ついでに、もう1つ土産話を」


 サヨが言葉を続ける。


「私が知る限り、魔眼の使い手は私以外に2人。2人とも、まだ己に魔眼が宿っていることを自覚していません」

「そうですか。貴重な魔眼の使い手が、さらに減ってしまうなんて残念です」

「……そのうちの1人は、私に強い警戒心を抱いています。私にこっそり魔法をかけていきました。バレバレだったので、私も同じ魔法をかけ返しました。———さて、問題です。私たちが互いにかけあった魔法は何でしょう?」

「……何の問答ですか?」


 リリスが答えずにいると、サヨはふっと笑った。


「正解は、『位置探知魔法』。きっと私を、ムビさんを攫った犯人ではないかと疑ったのでしょうね。私も逆に疑ったのですが、どうやら杞憂に終わったようです。しかし、私にとって幸運が2つありました」


 サヨが人差し指を立てる。


「1つは、この異界の位置。転移してすぐに、星読みの魔法で位置を特定しました。ここは、国内最難関の未踏破ダンジョン———『無限迷宮』ですね?」


 リリスは沈黙した。それが答えだった。

 サヨはさらに中指を立てる。


「2つ目。これは危うい賭けでしたが、私の位置探知魔法によると———その者は今、ここに向かっています。私の気配が突然王都から消えて、不審に思ったのでしょうね」

「……ここに向かってる? 何をバカなことを。禁忌指定の魔物の巣窟に、たった1人で乗り込めるわけが……」


 ———コツ、コツ……。


 リリスは第1フロアに続く螺旋階段に目を向けた。

 何者かが階段を下りてくる。


(この足音……まさか、本当に1人で? バカな……私以外に、『無限迷宮』の第1フロアを1人で突破できる者なんて……)


「私の狙いは、初めから時間稼ぎ。ここが国内で良かった。国外ならば、完全に詰みだったでしょう。私の話に付き合ってくれて、どうもありがとう」

「……貴様……!」


 全てを察したリリスは歯噛みしたが、もう遅かった。


 ———コツ。


 螺旋階段を下り終えた何者かが、姿を現す。


「おい。これは一体、どういう状況じゃ?」


 萌え袖に、肩まで届く明るい髪。

 ミラ・ファンタジアが腕を組み、鋭い視線をリリスへ向けていた。

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2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
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