第328話 絶望の刃
ユリの言葉に、リリスは静かに微笑んだ。
「私と剣の勝負ですか。ふふ……そんなことを言ったのは、あなたが初めてです」
リリスは魔剣を振るう。
近くの岩が音もなく真っ二つに裂けた。
「いいでしょう。見せてください、あなたの二刀流。この私が見定めてあげます」
後方で見守る3人は息を呑んだ。
「ユリに、全てを託すしかないね……」
『四星の絆』でも最強の戦力を誇るユリ。
そのユリが勝てなければ、もはや成す術はない。
だが勝てば、全員がこの異界から生還できる。
ユリは深く息を吐き、全身の力を抜いた。
感覚だけが研ぎ澄まされていく。
———ヒンッ。
旋風のごとく、ユリは一瞬でリリスの背後に回り込んだ。
そのまま、雷撃のごとき連撃の雨。
———ギギギギィンッ!
剣圧で地面が抉れ、火花が散る。
10を超える剣閃をリリスはすべて捌き切った。
だが、一撃ごとにリリスの身体が宙に浮く。
「はああああっ!」
途切れることのない剣の嵐。
ユリの剣がリリスを掠め、服が破れた。
圧倒的な攻勢。
シノとルリは思わず手を握りしめる。
「よし……イケる!」
「やっぱりユリの二刀流は最強だよ!」
ユリの闘気が練られ、爆発する。
「"二十四星剣"!」
———ドガガガガァッ!
地面を抉りながら繰り出されたユリの24連撃は、リリスを洞窟の壁まで吹き飛ばした。
「やったぁ! 決まった!」
「これで勝ちだ!」
歓声を上げるシノとルリ。
しかし、サヨの表情は険しかった。
「いえ……まだです」
土煙の中から、リリスが姿を現した。
「素晴らしいです。埃をつけられたのは、いつ以来でしょうか」
服についた汚れを軽く払う。
息一つ乱れていない。
(嘘……効いてないの……!?)
ユリの背筋を冷たい汗が伝う。
リリスはまるで稽古をつける師範のように微笑んだ。
「剣の神を名乗るだけはあります。それだけに惜しいですね。これほどの才能を摘まなければならないなんて」
リリスが構えた途端———空気が冷え切った。
「少しだけ、本気を出してあげましょう」
瞬きした、その刹那。
———ィン。
目の前に、リリスの姿。
ユリの胸元から鮮血が噴き出した。
「なっ———!?」
反応すら許されない超スピード。
4人全員、斬られるまで気付けなかった。
「ほぅら、全身ガラ空き」
超速の連撃。
ユリの全身がなます切りにされていく。
「うわあああぁぁぁッ!!」
「ユリィッ!!」
シノの悲鳴が洞窟に響く。
(くそぅっ……! 負けてたまるかッ!)
ユリは歯を食いしばり、反撃の一閃を放つ。
「甘い」
あっさりと躱され、リリスの剣が肩に突き刺さる。
「ぐあああぁぁッ!」
激痛に、ユリは剣を落とす。
「これで剣も握れません。終わりましたね」
ルリが高速詠唱で治癒魔法を放つ。
「ユリッ! 回復を……!」
だが、傷は一切塞がらない。
「そんな……なんで!?」
リリスはため息をついた。
「言ったでしょう? 私のスキルは"消えない傷"。私から与えられたダメージは、回復不能です」
ルリが目を見開いて絶句した。
「そ、そんな……」
ユリは息を荒げながら、最後の力を振り絞る。
「う……おおォォォォォッ!!」
肩に剣が刺さっているにも関わらず、そのままリリスに殴りかかる。
「あーあ。ダメです。そんなに闘気が乱れていては」
リリスはユリの拳を捌き、逆にボディブローを打ち込んだ。
「ぐはぁッ!?」
ユリの体がくの字に曲がる。
「ほら、足元がお留守です」
足払いをし、ユリの体が空中で半回転する。
その頭部を掴み、地面に叩きつけた。
———ドガアァァァッ!
地面が砕け散り、洞窟内が揺れるほどの衝撃。
後頭部から叩きつけられたユリは、そのままピクリとも動かなくなった。
「ユリ……う、嘘でしょ……?」
あのユリが負けた。
しかも、一方的に。
「次は誰ですか?」
リリスの視線が3人を射抜く。
誰も動けない。
「来ないのですか?……まぁ、そうでしょうね。あなたたちの中で、ユリが頭1つ、2つ抜けて強かったのでしょう?」
リリスの言うとおりだった。
ユリが敗北した今、例え3人がかりでもリリスに勝てるとは思えない。
「さぁ……最後に、もう一度チャンスをあげましょう。ムビ様を置いて去りますか? それとも、死にますか?」
微笑みながら、リリスは2択を迫る。
『四星の絆』は数秒固まり———。
「残念ですが、腹をくくりましょう」
「……そうだね、やるしかないね」
「せいぜいあがいてみせましょう」
シノとルリは魔装を構え、サヨは魔眼を発動する。
「はぁ。まったく、お馬鹿さんですね」
3人が躍りかかり、リリスは薄く笑みを浮かべた。




