第327話 第9フロアの決戦:剣神と黒き魔剣
第9フロア。
ムビを抱えて逃げる『四星の絆』の前に、リリスが立ちはだかった。
「驚きました。まさか、あなたたちがこんなところまで来るなんて」
微笑みながら歩み寄るリリス。その笑顔とは裏腹に、空気が震えるほどの殺気が4人を包む。
「私の部屋の魔導書を開いたのですか? それとも、何か別の方法でムビ様の位置を特定したのでしょうか。……いずれにしても、大したものです」
賞賛の言葉とは思えないほど、声は冷たかった。
4人は武器を構え、じりじりと後退する。
「どうする? 一斉に逃げる?」
ルリが小声で問う。
「危険な賭けですわね。背後を見せた瞬間、斬られて終わりです」
サヨが唇を噛む。
リリスの手に閃光が走り、禍々しい魔剣が形を成す。
空間そのものを侵食するような黒いオーラが溢れた。
「ムビ様を置いて下がりなさい。そうすれば見逃してあげましょう」
ムビを抱えながら、シノが歯噛みする。
「どうして……どうしてこんなことを!? 私たちのこと、応援してくれてたんじゃ……!」
「応援していましたよ。ですが、優勝は不可能と判断しました」
「そんなことありません! 私たち、決勝に進出したじゃないですか!?」
「まぁ、そうなのですか?」
リリスは少しだけ目を見開く。
「準決勝は見ていませんでしたが……そうですか。『エヴァンジェリン』を倒しましたか。素晴らしい成果です。……ですが、優勝は不可能。『白銀の獅子』のバックには、『両面宿儺』がついていますからね」
「私たちのバックにだって、ミラさんたちがついています! 必ず勝ってみせます!」
シノの叫びに、リリスは静かに首を振る。
「いいえ。『両面宿儺』が本気で支援すれば、人間兵器が完成します。いかなる修行を積もうと、数日ではとても太刀打ちできません」
「だから、さっさと試合を諦めて、自分の悪趣味にムビさんを付き合わせようと?」
サヨが語気を強めるが、リリスは薄く笑う。
「ええ、そうです。どうせ負けるなら、ムビ様がいなくても同じでしょう? 諦めないのは結構ですが、どうぞ4人で頑張ってください」
「だからって……ムビくんを傷付けていい理由にはならないでしょう!?」
ルリが叫ぶが、リリスは聞く耳を持たない。
「話は終わりです。ムビ様を置いて去りますか? それとも———死にますか?」
にじり寄るリリスに、『四星の絆』は後ずさる。
「———ふざけないで」
だが、ユリだけは前に進み出た。
「ムビくんは私たちの大切な仲間なの。傷付けるなら———誰であろうと許さない」
ユリの全身から闘気が迸る。
「ユリ……やる気なの!?」
「皆はムビくんを守って。こいつは、私が倒す」
破邪の剣を構え、ユリはリリスへ歩み出る。
「勇敢ですね。言い残す言葉はありますか?」
「ないよ。だって、勝つのは私だもん」
———シュンッ。
ユリの姿が掻き消えた。
キィンッ!
稲妻のような一撃。
反射的に受け止めたリリスは、目を見開く。
「はああああっ!」
怒涛の連撃が襲いかかり、リリスが後退する。
「ユリッ!? うそ、めちゃくちゃ強いじゃん!?」
「あのリリス様相手に、こんなに……!?」
剣閃がぶつかり、両者が弾けるように離れる。
「これは……素晴らしい。これほどの才には、初めてお目にかかりました」
「当たり前だよ。私のスキルは"剣神"。剣の勝負なら、リリス様にだって負けないよ?」
後方の3人は、剣の達人同士の戦いに息を呑んでいた。
「ユリ、すごい! これならリリス様にも勝てるよ!」
しかし、リリスの笑みは崩れなかった。
「なるほど、剣の神ときましたか。———では、ぜひ一つお手合わせを」
キィン!
気付いた瞬間、リリスの斬撃が撃ち込まれていた。
「はっや!?」
「全然見えなかった……!」
ユリはリリスの神速に反応し、受け止めていた。
「見えてるよ! そのくらいのスピードじゃ、私は倒せない!」
「そうですか。では、これは?」
一瞬で放たれる3連撃。
だが、ユリはその全てを捌き、逆にカウンターを叩き込む。
「はぁっ!」
空気を震わせる金属音。
リリスは受け流し、刃を滑らせた。
「うっ!?」
顔めがけて飛んできたリリスの一閃をギリギリで回避する。
ユリの頬をかすめ、血が一筋流れる。
「今のを躱しますか。流石ですね」
リリスは剣先についた血を指でなぞり、ぺろりと舐めた。
後方の3人は唖然とする。
「うそでしょ……!? ユリのスキルは"剣神"だよ!? 剣技で、ユリを上回るなんて……」
「リリス様も、きっと"剣神"に匹敵するスキルを……」
その言葉に、リリスは首を傾げる。
「いいえ。私は剣のスキルなど持ち合わせていませんよ?」
『四星の絆』全員が目を見開く。
「……え?」
「私のスキルは"消えない傷"。与えたダメージが回復不能になるだけです」
後方の3人が凍りつく。
「……スキルなしで、"剣神"持ちのユリの剣技を上回ってるってこと……?」
「そんな……どれほど鍛錬を積めばそんな境地に……」
しかし、ユリは頬の血を拭い、前に出た。
「関係ないよ。強いのは私。私が勝つことには変わりない」
ユリの左手に、黒い剣が現れる。
「出たっ! 二刀流!」
ルリが興奮気味に叫んだ。
チートスキル持ちのイズナをも圧倒したユリの切り札。
ユリのオーラがさらに膨れ上がり、リリスは感嘆の声を漏らす。
「あらあら。まさか、二刀流が出てくるとは」
ユリは深く呼吸し、剣に意識を沈めた。
「勝負だよ、リリス様。私の剣とリリス様の剣……どちらが上か、決めよう」




