第325話 異界のボス部屋
連れ去られたムビを救うため、『四星の絆』の4人は異界へと足を踏み入れた。
Aランクパーティですら攻略不可能と言われる魔窟。しかし『四星の絆』は、まるで散歩でもするかのように進んでいく。
「おっ! また階段発見♪」
異界に入ってわずか2時間。すでに第9フロアへ続く階段に到達していた。
古びた石段を下りながら、ルリが鼻歌交じりに言う。
「異界って聞いてビビってたけど、案外大したことないね♪」
「いえ、本来なら人類史に刻まれるほどの偉業ですわ。ただ、私たちが強くなり過ぎただけです」
魔眼でムビの魔力の痕跡を追いながら、サヨが淡々と告げる。
「やっぱそうかなぁー? しかも、異界の魔物を倒したら、さらにレベルが上がったし♪」
異界に入る前、シノとルリのレベルは150と180。
今では200と230に跳ね上がっていた。
「ユリとレベルおそろー♪」
「いぇーい、私たちレベル230族ー♪」
肩を組むユリとルリを見て、シノが頬を膨らませる。
「ずるいです。私も、早く230になりたい」
「あはは、このフロアの魔物の経験値は、シノに全部あげるよ♪」
「言いましたね? 絶対ですよ?」
ユリとルリのレベルは230で並んでいたが、実際のパラメータには大きな開きがあった。
ルリは聖装のバフの恩恵で、実際の戦闘能力はレベル300に匹敵する。
ユリはそれに加えて2つ目の聖装のバフ、さらに覚醒したスキル"剣神"のバフによりレベル600台相当のステータスを持つ。
サヨも魔眼覚醒によりレベル500相当。
結果として、シノとルリがパーティ内で最弱という、常識外れの状況になっていた。
もっとも、2人ともAランクパーティを単独で蹴散らせる強さなのだが。
第9フロアに降り立った4人の勢いは、相変わらず止まらなかった。
迷路のように入り組んだ道も、サヨが罠を全て看破しながら、ムビへの最短経路を示す。
遭遇した魔物は破邪の剣で全て無力化し、シノの経験値へと変わっていく。
「ありましたわ。第10フロアへの階段です」
あっという間に階段を見つけ、4人は下っていく。
「楽勝だったね♪」
「次は第10フロア、ボス部屋です。気を引き締めましょう」
「へ……? ボス部屋……?」
ルリが素っ頓狂な声を上げる。
「高難易度ダンジョンは、10フロアごとにボス部屋が設置されています。恐らく、異界も同じでしょう」
「異界のボスって、やっぱり強いんだよね……?」
「当然です。これまでの魔物とは比較にならないはずです」
緩んでいた空気に緊張感が走った。
階段を下った先に、ボス部屋の扉が鎮座していた。
「やはりありましたね。気を引き締めてかかりましょう」
全員で扉を開く。
ボス部屋には、巨大なドラゴンの姿があった。
「ド……ドラゴン……!?」
初めて見る、本物のドラゴン。
ルリの声が震えた。
「グオォォォッ!!」
咆哮がフロア全体を揺らし、パラパラと天井から破片が落ちてくる。
魔物の中でも最強の種族。
その佇まいは威厳と迫力に満ちていた。
「さすが異界……最強種がボスですか。油断せずいきましょう」
「燃えてきたぁーっ! 私が切り込むから、みんな続いて!」
ユリが前に躍り出る。
ドラゴンと『四星の絆』が対峙した。
「さぁ、行くぞドラゴン!」
破邪の剣が抜かれた瞬間———
「ギャアアアアアッ!」
ドラゴンは苦悶の叫びを上げ、地面に転がった。
「……え?」
固まる4人。
初めて出会った最強種は、じたばたと藻掻いている。
「もしかして……破邪の剣が効いてる?」
「まぁ……ドラゴンといえど魔物ですから……」
シノがぴょんとドラゴンに飛び乗る。
「えーい」
「ギャアアアアッ!?」
シノにタコ殴りにされ、ドラゴンはそのまま倒された。
「うーん、何だかなぁー……」
ユリは渋い顔をしていた。
「破邪の剣、最強過ぎない?」
「道端に経験値が転がってるようなものですね」
「別にいいんだけど……もっと、ちゃんと戦闘したいっていうか……」
シノはステータスウォッチを確認し、ぱぁっと顔を輝かせた。
「やったぁー! レベル250になってる♪」
「「な、なにぃー!?」」
一気にレベルを追い抜かれ、ユリとルリが揃って叫ぶ。
「ちょ、シノずるい! 今度は私がレベル上げる!」
「ユリはもう十分でしょ!? 次は私の番だって!」
「ルリはもう50レベル上げたじゃない!?」
言い争う2人を、サヨがたしなめる。
「こらこら、喧嘩してる暇はありませんよ。早くムビさんを助けに行かないと」
一行はボス部屋の奥の宝物庫の扉を開く。
「おぉーっ♪ 一体どんなお宝が……って、あれ?」
中には、下へ続く階段と、空っぽの宝箱があった。
「あの女狐が既に回収済みのようですね」
「そうだよね、リリス様が先に来てるはずだもんね」
空の宝箱を見ながら、シノが呟く。
「冷静に考えて、リリス様って魔眼なし、破邪の剣もなしで、たった1人でムビさんを抱えてここまで来たってことですよね……?」
それが一体どういうことか。
ここまで進んできた4人にはよく分かる。
「あの女狐こそが、最大の脅威でしょうね。当然、破邪の剣は効きません。まだ私たちはノーダメージですが、魔力の回復はこまめにしておきましょう。いつ遭遇するか分かりませんから……」
サヨの言葉に、緊張感が走る。
4人は気を引き締め、第11フロアへの階段を下っていった。




