第324話 異界踏破の四星
『四星の絆』の4人は、仲間のムビを探すため、異界の奥へと足を踏み入れていた。
空気は濃密な魔力を含み、粘液のように肌へまとわりつく。
これまで潜ってきたどんなダンジョンとも違う。
数メートル先で死が待つ———そんな直感が、全員の背筋を冷たく撫でた。
「そこ、罠がありますわ」
先頭を歩くサヨが、淡々と地面を指差す。
洞窟に入ってまだ数十メートル。すでに3度目の罠だ。
「あっぶなぁ……これ、踏んじゃうとどうなるの?」
「体がドロドロに溶解して死にますわ」
あまりに容赦ない罠の説明に、ルリは息を呑む。
周囲には白骨化した遺骸が散乱していた。
ここで命を落とした者たちの末路なのだろう。
「ほんと、サヨがいて良かったよ……」
サヨの魔眼は、ムビの魔力の痕跡だけでなく、罠の位置までも正確に見抜く。
そのおかげで異界探索のリスクは大幅に軽減され、3人は心からサヨに感謝していた。
———ガサ。
正面から、魔物の気配。
「来ますわよ」
サヨの声と同時に、死神のような大鎌を持つ魔物が3体、闇の中から姿を現した。
4人は即座に武器を構える。
「ギィィィッ!」
魔物が大鎌を振り上げた瞬間———
———シュンッ。
ユリの姿が掻き消え、次の瞬間には魔物の横をすり抜けていた。
遅れて、魔物の胴が綺麗に両断され、地面へ崩れ落ちる。
「すご……! ユリ、こんなに強いなんて……!」
シノが目を丸くする。
「えへへ♪ 修行の成果だね♪」
ユリは満面の笑みでピースを決めた。
「……ギィィィッ!」
両断された魔物は、それでも地面でのたうっていた。
「すご……こんなになっても、まだ生きてるなんて……」
「さすが異界の魔物ですわね。とはいえ虫の息です。シノさん、止めを」
シノが3体の魔物にトドメを刺し、ステータスウォッチを確認する。
レベル欄には"160"の数字が表示されていた。
「すごい……! 今のでレベルが10上がりました!」
「やはり禁忌指定の魔物でしたか。おそらくレベル200といったところでしょう」
「最序盤の魔物でレベル200……。やっぱり、異界はとんでもないね」
ユリは剣を消し、余裕の笑みを浮かべる。
「魔物は私に任せて♪ ついでに、シノとルリのレベルも上げちゃおうよ♪」
「さすがユリ師匠、頼りになるわぁ~!」
盛り上がる3人を横目に、サヨは魔物の落とした大鎌を拾い上げた。
「これ、ロアーヌ製を遥かに上回る鎌ですわね。売れば、10億円は下らないでしょう」
「じゅ……10億!?」
3人は雷に打たれたような顔をする。
「保存袋は持ってきていませんし、残念ですが置いていきましょう」
平然と鎌を地面に捨てるサヨ。
ルリは鎌に釘付けになり、震える声を漏らす。
「じゅ……10億円……」
「ほら、行きますわよルリ」
サヨはルリの首根っこを掴んで引きずっていった。
◆ ◆ ◆
その後も、異界の探索は順調に進んだ。
サヨが罠を看破し、ムビの痕跡を追い、魔物が現れればユリが瞬時に戦闘不能にする。
シノとルリはとどめを刺して経験値を稼ぐという、完璧な連携が続いた。
「あら、どうやら第1フロアはここまでのようですわね」
目の前に階段が現れる。
「1フロア目踏破!? やったぁー! 私たち、異界攻略しちゃってるよー♪」
A級冒険者ですら突破不可能とされる異界の1フロア目。
それを突破したという事実は、『四星の絆』がすでにその域を超えている証だった。
「ほんと、信じられないくらい強くなったね、私たち……」
「ムビくんと師匠たちに感謝しなきゃだね」
一行は階段を下り、第2フロアへ到達する。
そこは広大な大部屋で、無数の魔物がひしめいていた。
「うそっ……モンスターハウス!?」
「まだ2フロア目だよ!?」
魔物たちは4人に気付き、雄叫びを上げる。
「グオォォォッ!!」
数十体の禁忌指定の魔物が一斉に向かってくる。
普通ならば死亡確定の状況。
しかし、ユリは前に躍り出た。
「任せて! “破邪の剣”!」
ユリがエメラルド色に輝く聖剣を取り出した瞬間、刀身から波動が放たれる。
「ギャアアアアアッ!」
魔物たちは苦しみながら地面に転がり、戦闘不能に陥る。
ルリは目を見開いた。
「すごっ! その剣、チート過ぎない!?」
「へへへ、これなら魔物に囲まれてもへっちゃらだね♪」
ユリは誇らしげに胸を張った。
動けなくなった魔物たちを、シノとルリが次々と仕留めていく。
ほんの数分で、フロアの魔物が全滅した。
「うひゃあああっ! レベル200超えちゃってるぅ♪」
「私も、180を超えました!」
シノとルリが歓喜の声を上げる。
「どうやら、第2フロアはこれで終わりのようですわね」
サヨが指差す先には、下層へ続く階段があった。
「よしよし! これで2フロア目も攻略、っと♪」
ルリは周囲に転がった魔物のドロップアイテムを拾い上げ、目を輝かせる。
「へへへ……これで大金持ち……♪」
「はいはい、それは置いていきますよー」
サヨに引きずられ、ルリは涙目で連れて行かれた。




