第323話 異界転移
4人は見知らぬ荒野に転移した。
「ここ、どこ……?」
「なんだか気味が悪い……」
空は暗雲に包まれ、雷が不吉に鳴り響く。
目の前に洞窟がぽっかり口を開けていた。
サヨは周囲を見渡し、呟く。
「なるほど……どうやらあの女狐、"異界転移"の魔導書を所持していたようですね」
「い……"異界転移"!? じゃあ、ここって……?」
ルリが震え上がった。
「どうやらその洞窟が異界への入口のようですが」
異界。
ダンジョンとは異なり、ギルドの攻略対象には指定されていない魔物の巣窟。
危険過ぎるため、近寄ることも、場所を口外することも禁じられている。
生息する魔物は全てSランクの禁忌指定。
即死級の罠も点在している。
A級冒険者パーティであっても、1フロア持たず全滅すると言われている。
「本来、所持するだけで極刑ものですが。今まで厳重に隠していたのでしょうね」
「あれ……そういえば、本はどこに……?」
ユリがサヨに尋ねる。
先程サヨの手にあった本は、どこにもなかった。
「どうやら転移したのは私たちだけのようですね。本は恐らく、部屋の中に残ったままです」
「えっ……!? ちょっと待って、どうやって帰るの……!?」
慌てふためくルリに、サヨが冷静に返す。
「そこの魔法陣に入れば、おそらく本の方へ転移する仕組みなのだと思います」
4人の後方、サヨが指差した地面には魔法陣が淡く輝いていた。
「……これ、魔物が転移したら危険じゃない?」
ルリが魔法陣を凝視しながら息を呑む。
「異界転移の魔導書が原因で、街一つ消滅した事例もあります。こんな危険物を部屋に置いているなど、正気ではありませんね」
「……リリス様、頭おかしいでしょ……」
ルリが身震いする中、サヨの魔眼が閃く。
「ムビさんの魔力の痕跡は、あの大穴へと続いています」
サヨが洞窟を差し示し、3人は喉を鳴らす。
「行くしかないね……」
まるで巨大な魔物に飲み込まれるように、4人の姿は洞窟の奥へと消えていった。
◆ ◆ ◆
「うわあああああああっ!!」
異界の奥。
ムビの悲鳴が洞窟の中で響き渡っていた。
「あはぁ♪ 血がいっぱい出るぅ♪」
リリスは恍惚の表情を浮かべていた。
ムビの全身に巻き付いた極太の荊は、蠕動運動を繰り返しながらムビの体を上下に揺すっていた。
既に傷だらけの全身を、棘が激しく傷付ける。
「い、痛い痛い痛いッ!! お、おねが……! もう、ゆる……!」
丸1日続く地獄の責め苦に、ムビの体力はとっくに限界を超えていた。
意識は朦朧とし、ろれつも回らない。
ムビの血を吸い続け、荊を美しい花を咲かせていた。
リリスはムビの悲鳴を無視し、花の中央に生る真っ赤な実をもぎ取った。
「ほぅらムビ様? 流した血は、一滴残らずお返ししますね」
果実を咥えたリリスは、そのままムビの口元に運ぶ。
抵抗するムビの頭を抑え、無理矢理飲み込ませる。
「……ゲホッ! ゴホッ!」
血の塊を飲み込む不快感にムビはえずく。
「ふふ。美味しいですか?」
まるで愛猫を愛でるように、リリスは頭を優しく撫でる。
「ひどい傷。手当してあげますね」
リリスは回復魔法でムビの傷を癒す。
血肉が回復したムビだが、疲労と精神ダメージは抜けない。
目を虚ろに開いたまま、荊に身をゆだね、ぐったりとしていた。
「ふふ。もう限界みたいですね」
リリスがムビの体をそっと抱き締める。
紫のドレスが、ムビの血で赤黒く染まっていく。
「あはぁ……♪ ムビ様の体……あたたかい……」
首元に頬を寄せるリリスに、ムビが声を絞り出した。
「……どうして……こんなこと……」
叫び続け、喉が潰れている。
「もちろん、ムビ様が愛おしいからですよ?」
王女が、抱擁を強める。
「泣き声も叫び声も怨嗟の声もぜーんぶ大好きです。あっ、狂いそうな声も好きですよ?」
後頭部を抱えながら、リリスがムビに魔法をかける。
ビクリ、とムビの体が跳ねる。
「耐久力のデバフです。体が刺激に弱くなります。今度は、も~っと痛いですよ?」
ムビが震えて泣き始める。
「お願い……ほんとにお願い……何か気に障ったなら謝るから……」
リリスはそっと離れる。
恐怖に歯を鳴らすムビに、微笑んだ。
「素敵。もっといっぱい謝ってください」
荊が蠢き始める。
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!」
弾けるように跳ね上がるムビ。
神経を直接焼かれるような痛み。
「ふふ。まずは1キロくらい、血を絞りましょうか」
リリスが指を鳴らすと、荊がムビの体をきつく締め上げた。
棘の一本一本から許容量を遥かに超える激痛を与えられ、痙攣しながらのた打ち回る。
その度、余計に棘が擦れ、更なる激痛に襲われる。
「む゛り゛む゛り゛む゛り゛む゛り゛! し゛ぬ゛し゛ぬ゛し゛ぬ゛し゛ぬ゛し゛ぬ゛!」
枯れた喉から、あらん限りの絶叫。
リリスはうっとりと笑みを浮かべていた。
「まぁ、涎を流してはしたない。これはきつく仕置かなければ♪」
荊は上下運動、蠕動運動を繰り返しながら、ムビの体をめちゃくちゃに揺すり始めた。
「あはははっ! あははははははははははっ!」
ムビは滝のように涙を流しながら笑い始めた。
「あらあら、嬉しくなっちゃいました? こうすると、もっと嬉しいですか?」
リリスが指を鳴らすと、荊の動きが更に激しくなった。
「あ゛っはははははッ!! し゛ぬ゛し゛ぬ゛し゛ぬ゛ぅぅぅーーーっ!!」
握りつぶした果肉の果汁のように、涙と涎と血を噴き出すムビ。
荊から無数の花が咲き始める。
豊穣なる収穫を祝うように、リリスの狂気は加速する。
「あらあら、可愛い♪ もっともぉっと、痛くしてあげますからねぇ?」
満面の笑みを浮かべながら、リリスは延々とムビにデバフを重ね掛けし続けた。




