第322話 王城への潜入
ムビが城内に捕らえられていると知った『四星の絆』は、城内に忍び込むことを決心した。
深夜1時。
王城の庭園、月明かりの届かぬ植木の影に、4つの影が潜んでいた。
「やっばい、心臓バクバクする……!」
胃が裏返りそうな顔でルリが呟く。
対して、ユリはニヤついていた。
「私、ちょっと楽しくなってきたかも……♪」
「なにバカなこと言ってるの! 早く、ムビくん探すよ!」
「うぅ……お父さん、ごめんなさい……」
「城全体に、魔力探知の罠がかけられていますね。できるだけ魔法の使用は控えましょう」
サヨの冷静な声に、3人は息を呑む。
4人は闇に紛れ、音もなく庭園を駆け抜けた。
その動きは常人の域を遥かに超え、まるで凄腕の暗殺者のようだった。
見張りの目をかいくぐり、あっという間に城内入口まで辿り着く。
「入口には門番がいるね」
「どうする? 見張り、倒しちゃう?」
サヨが冷静に囁く。
「入口の見張りが気絶しては、さすがに目立ちますね。あそこのバルコニーから侵入しましょう」
サヨが指差した先は、パーティ会場の2階だった。
内部は城内と繋がっている。
「よっしゃ、行くか♪」
4人はパーティ会場の下まで素早く移動し、ひとっ跳びにバルコニーに着地した。
ユリがデコピンでガラスを割り、鍵を開けて侵入する。
「ここまで順調だね♪」
「さて。ムビさんの魔力の痕跡を探さなければ」
城内に足を踏み入れた瞬間、緊張が再び高まる。
「あっ、衛兵がいる!」
4人は柱の陰に身を潜める。
ユリがそっと覗き込み、にやりと笑った。
「私が倒してくる。待ってて♪」
———シュンッ。
一瞬で数メートルを移動し、衛兵の背後へ。
衛兵は訳も分からず、ユリの一撃で気絶した。
「ひゅーっ! さっすがぁー♪」
潜入は驚くほど順調だった。
音もなく移動し、必要とあらば衛兵を気絶させ、4人は城内を縦横無尽に進む。
「見つけました。ムビさんの魔力の痕跡……階段の上へ続いています」
サヨの魔眼が煌々と輝く。
「こうなれば楽勝だね♪」
「ムビさん、無事だといいけど……」
痕跡を辿り、4人は城の上階へと進む。
しばらくすると、とある部屋の前に辿り着いた。
「……この部屋の中に、痕跡が続いていますね」
豪華な装飾の施されたドア。
「独房、って感じじゃなさそうだね」
「誰かの部屋……かな?」
考えられるのは、リリスの私室。
「あの女狐の部屋かもしれません。気をつけましょう」
緊張が走る。
ムビに剣を教えるほどの達人。
扉を開けた瞬間、剣鬼が襲ってくるかもしれない……。
ユリが音もなくドアの前に接近する。
ノブを掴み、ゆっくり回す。
「……開いているみたい」
3人に聞こえるよう、静かに囁く。
「……入室と同時に、戦闘になるかもしれません。———準備を」
背筋に冷や汗が伝う。
全員が聖装と魔装を取り出した。
「3つ数えたら行くよ?……いち、……にの、……さんッ!」
ユリがドアノブを回し、一気に4人が部屋へ雪崩れ込んだ。
ユリの聖剣が暗闇を碧く照らし、全員が素早く部屋の中を見渡す。
「……え?」
ユリの呆然とした声が落ちた。
部屋の中には、誰もいなかった。
「……カーテンは、遮光のようですね。明かりをつけます」
部屋の灯りがともる。
そこは誰かの寝室で、生活の気配はあるが、人影はない。
「誰かの寝室みたいだけど……」
「サヨ、ほんとにここで合ってるの?」
ルリがサヨに囁く。
「……ええ。ムビさんの魔力の痕跡は確かにこの部屋にあります。ですが……ここで途切れているのです」
サヨの言葉に、全員の息が止まった。
「途切れてるって……まさか……」
空気を察し、サヨが付け加える。
「いえ、死亡しても、魔力の痕跡が途切れるわけではありません。そこはご安心を。単純に、途切れているんです。まるで、部屋から突然いなくなったみたいに」
シノが首を傾げる。
「転移魔法、でしょうか?」
「……おそらくは」
重い沈黙が落ちる。
「それじゃあ、ムビくんがどこに行ったか分からないよ……」
「いつまでもここにいては危険です。一旦、撤退した方が……」
そのとき、サヨが部屋全体を見渡し、歩き始めた。
「サヨ……?」
ユリの呼びかけにも応じない。
痕跡の追跡に集中している。
「……部屋に入り……この椅子に座った。恐らく、ここで誰かと面会していたのでしょう」
サヨはゆっくりと移動する。
「そして立ち上がり……ここで、痕跡が途切れている」
サヨの目の前には、机があった。
ユリが頭を抱える。
「そこで転移したのかぁ。ムビくん、一体どこに……」
サヨはしばし机を眺め、引き出しに手を伸ばした。
———バチィッ!
突如閃光が走り、サヨの手が弾かれた。
3人が驚愕する。
「サ、サヨ……!? 大丈夫!?」
掌から煙を出しながら、サヨは薄ら笑いを浮かべていた。
「なるほど、結界ですか。小癪な真似を……」
サヨの魔眼が見開かれる。
———バチバチバチィッ!
魔力が激しく迸り、やがて静かになった。
再び手を伸ばすと、今度は引き出しに触れた。
「さて。結界まで張って、何を隠しているのやら……」
サヨがゆっくりと引き出しを開け、3人が駆け寄った。
中には、1冊の本が入っていた。
「本……?」
ユリが首を傾げる。
「……ただの本ではありませんね」
サヨは本を手に取り、開いた。
途端に、空間が捻じ曲がる。
「これは……転移魔法!?」
「う……うわあぁぁぁっ!!」
———シュンッ。
4人の姿は掻き消え、残された本だけが、静かに床へ落ちた。




