第317話 準決勝第2試合、開始
千年前、人類史上最悪の厄災と呼ばれた魔王軍は、勇者パーティによって討伐された。
数百年にわたる戦争の末、人類の総人口は3割まで減少した。勇者が現れなければ、人類は滅亡していたと語り継がれている。
その伝説の魔王軍———その幹部の生き残りが、まさか現代まで生き延びているなど誰が想像しただろうか。
「ミ、ミナリィが……魔王軍幹部……?」
ゴリはぽかんと口を開けたまま固まっていた。
千年を生きる魔物? どう見ても普通の少女にしか見えない。
玉座に座る黒いマスクの少女、世界No.1のMtuber・ミナリィは、足を組んだまま軽く笑った。
「そ。ぼくはね、魔物化した元人間なんだ。ほぼ不老だから、見た目は17歳の頃から変わってないよ♪
———まぁ、『両面宿儺』本人なら、その程度不思議でも何でもないだろう?」
ミナリィは肩をすくめる。
「さて、話を戻そうか。要は、勇者パーティの転生先を潰しておきたいんだ。君たちの故郷は滅んじゃうけど、君たちとその親族の繁栄は約束するよ。どう、協力してくれる?」
(なるほど、そういうことか……。)
ゼルは納得し、迷う様子もなく笑みを浮かべた。
「もちろん、喜んで」
即答。
リゼとマリーはゼルを思わず凝視する。
「ちょ、ちょっとゼル……国が滅ぶのよ!?」
「そ、そうですよ……! 我が身可愛さに、国を売るというのですか!?」
ゼルは面倒くさそうにため息をついた。
「何を言っている? 俺は別に好んで王国を滅ぼそうとしているわけじゃない。自分の生活を守るための最適行動がたまたまそれだった、というだけだ。仮に国が滅んだとして、それは俺だけのせいなのか? 問題意識も持たず、その程度の脆弱な国力に甘んじ続けた王や国民たちが悪い……そうだろう?」
淡々と語るゼルに、2人は言葉を失った。
「信じられない……」
「自分が、人殺しに加担している自覚はないのですか……?」
ゼルが笑い始める。
「お前らこそ、奴隷の自覚はないのか? 俺にそんな口を聞いて許されるとでも?———『もう、黙れ』」
ギアスの命令が発動し、リゼとマリーは口を閉ざす。
ゼルはゴリへ視線を向けた。
「お前は大丈夫だよな、ゴリ?」
「当たり前よ! レベルも上げてもらって、魔剣ももらえるんだぜ? 幹部ポストも保証されてる……最高じゃねぇか♪」
ゼルの口元がつり上がり、玉座のミナリィを見上げる。
「というわけです。ご支援いただきありがとうございます、ミナリィ様。我ら『白銀の獅子』、必ずや優勝してみせます」
「ふふ、頼んだよー♪」
ミナリィは満足そうに笑みを浮かべた。
◆ ◆ ◆
翌日。
『四星の絆』の4人は観客席に座っていた。
これから始まる準決勝第2試合———『白銀の獅子』VS『ドラゴンテール』の優勝候補対決に、会場は熱狂に包まれていた。
「すごい盛り上がりだね」
「巷では"事実上の決勝戦"なんて言われているからね。注目度も半端ないね」
ユリはサヨを見つめる。
「サヨ、昨日は大丈夫だった?」
「はい。途中で帰ってしまい、申し訳ありませんでした」
サヨは結局、何があったかを語りたがらない。
(まぁ、サヨだからきっと大丈夫だよね)
ユリは気にしないことに決めた。
「ところで、やっぱりムビさんから連絡……ありませんでしたね」
シノはスマホを見て眉を寄せた。
「やっぱり、ムビくんの身に何かあったんじゃ……?」
そのとき、割れんばかりの歓声が会場を揺らした。
『白銀の獅子』と『ドラゴンテール』が入場したのだ。
両パーティはフィールド中央で向かい合った。
ゴリがマルスの視線に気づき、話しかける。
「よう、『ドラゴンテール』さんよ。死ぬ準備はできたか?」
「このときを待ちわびていたよ。君たちが予選でシノにしたこと……決して許すつもりはない」
怒気の込められたマルスの声。
しかし、ゴリはニヤつき始めた。
「あぁ、あれか? へへ、たまらねぇ体してたから、た~っぷり堪能してやったぜ? それに、骨を折る度にビクつきやがってよぉ♪ 今思い出しても最高に笑えるぜ! ぎゃーっはっはっは!」
ゴリが笑うたびに、マルスがどんどん殺気立っていく。
「お前らのようなゲスにかける言葉はない。悪いが、本気で行かせてもらう」
瞳を燃やすマルスに、ゼルは嘲笑を浴びせた。
「本気だと? お前ら凡夫の本気なんて、たかが知れてるだろうが?」
審判がダイスを振る。
「ルールは"パーティ戦"に決まりました! 両チーム、白線までお下がりください」
大歓声を浴びながら、両パーティは背を向けた。
『ドラゴンテール』の戦士、ユーゼンが声を潜める。
「おい……あいつら、妙に余裕たっぷりだな」
「そうですね。まるで、勝利を確信しているみたいな……」
神官のロイターも同調する。
ジュリは聖装の弓を手に持ちながら、眉をひそめる。
「私たち相手に、この余裕……」
「気を付けよう。きっと何かある」
マルスも聖剣を取り出す。
始めから全開の構えだ。
「そうだな。油断せず行くか」
ユーゼンは斧を、ロイターは杖を取り出した。
「さぁ、いよいよ始まります! 優勝候補同士のこの一戦!『ドラゴンテール』は既に武器を取り出しています!」
「相手は『白銀の獅子』。さすがに本気……ということでしょうな」
両パーティが白線に並び、向かい合う。
ゼルがにやりと笑った。
閃光と同時に、『白銀の獅子』全員の手に魔装が握られる。
ジュリが目を見開いた。
「あれは……聖装!?」
「あいつら、前の試合までは普通の武器だったはずじゃ……!?」
会場がどよめく中、マルスは静かに『白銀の獅子』に視線を送った。
「なるほど……。やはり、一筋縄では行かなさそうだ」
両陣営が武器を構え、審判の声が会場に響いた。
「それでは準決勝第2試合……開始ィィィィ!!」




