第315話 『両面宿儺』のボス
準決勝第1試合。
『四星の絆』の勝利を見届けたゼルとゴリは、観客たちが帰り始める中、会場のベンチで話し合っていた。
「どうだゼル……決勝戦、『四星の絆』に勝てると思うか?」
少し不安そうな表情のゴリ。
ゼルは顎に手を当て、冷静な口調で言った。
「現状は、俺たちが有利なはずだ。だが……必ず勝てる、とまでは言えないな」
原因はユリの二刀流だった。
魔物と化し、人間を遥かに超越する力を手にしたゼルとゴリですら、あの強さには度肝を抜かれた。
「ムビ、シノ、ルリの3人は、はっきり言って俺たちの相手にならないだろう。決勝までは中2日。これ以上強くなるとは考えにくい。……問題はユリとサヨだ。ユリの二刀流は、はっきり言って規格外だ。サヨの実力も、恐らく俺たちと同程度。とても油断できない」
ゴリが息を呑み、ゼルが続ける。
「ダイスの戦闘形式が"総当たり戦"なら俺たちが勝つだろう。だが"勝ち抜き戦"ならユリが無双する可能性が高い。"パーティ戦"、"ダンジョン戦"、"迷宮戦"なら、ユリを囲んで勝てるかどうかだな……」
ゼルは唇を噛む。
(やはり俺が睨んだ通り、あの4人の才能は桁外れだった。くそっ……最初の決闘で勝ってさえいれば、あの4人を『白銀の獅子』に引き入れられたのに……! ムビの野郎……無能のくせに、人にばかり恵まれやがって……!)
「ほっほっほ。お困りのようですな」
不意に声がして、2人はビクリと肩を震わせた。
『両面宿儺』のノームが、いつの間にか背後に立っていた。
ゴリが憤慨する。
「て、てめぇ! 普通に現れることはできねぇのか!?」
「ほほ。朗報ですぞ。ボスが、皆様をお呼びです」
シン、と静まり返った。
「ボ、ボスって……?」
「我ら『両面宿儺』のボスです。つまり、この世界を裏から支配しておられる、いと貴きお方です。ちょうど昨日から、この国に入国されたそうで。リゼ様とマリー様を呼んで、至急アジトへ来てください」
ゼルとゴリは滝汗をかいた。
◆ ◆ ◆
『白銀の獅子』の4人は『両面宿儺』のアジト内で、ノームと合流した。
「お揃いのようですね。では、ご案内いたします」
4人はノームに続いて歩き出す。
「ちょっと、ゼル。今度は何をするつもりなの?」
強制的に魔物化させられたリゼは、冷たく言い放つ。
こんなところ来たくもなかったが、ギアスの命令には逆らえない。
「『両面宿儺』のボスが、俺たちに会いたいそうだ」
リゼとマリーの顔が雷に打たれたように強張る。
「う……嘘でしょ!? こんな薄気味悪い連中のトップなんて……絶対、ろくでもないでしょ!?」
「ほほ。そのような言動は、ボスの前では控えるようお勧めします。……さぁ、着きましたよ」
一向は禍々しい扉の前に立つ。
全員がゴクリと喉を鳴らした。
ノームが扉を開くと、広間の正面に階段があり、その頂上はベールで覆われていた。
うっすらと、玉座らしきものに座る人影が見える。
「ボス。『白銀の獅子』の4名を連れて参りました」
ノームが跪き、4人も慌てて跪く。
ゼルの心臓は早鐘を打っていた。
(め、目の前に『両面宿儺』のトップが……! い、一体どんな怪物が……!?)
対応を誤れば殺されるかもしれない……そんな張り詰めた緊張感が広間を満たす。
そんな空気を裂くように、玉座から声が響いた。
「よく来たねぇー、『白銀の獅子』」
ゼルは驚いた。
聞こえてきたのは、若い女性の声だったからだ。
しかも、なんとなく聞き覚えがある。
「ノームさぁ、いつも言ってるでしょ? わざわざそんな、畏まらなくていいんだって」
「いえいえ。恐れ多くも、いと貴き御身の許可なく、面を上げるなど許されません」
玉座からため息が聞こえる。
「まぁいいか。いいよ、面を上げる許可を出そう」
全員が顔を上げ、ベールが開かれる。
「「「「……え……」」」」
『白銀の獅子』全員が目を剥く。
「はじめまして。ぼくが『両面宿儺』のボスだよ」
褐色肌の、可愛らしい女性。
髪は黄色と青緑のツートンカラーで、黒いマスクを着用している。
だが、何より、一行が驚いた理由は———。
「……ミ……ミナリィ……?」
ゼルの声が掠れ、少女はぱっと目を輝かせた。
「おー! ぼくのこと知ってるんだ! ひょっとして、ミナ友なのかな!?」
「……知ってるも何も……あなたを知らない『Mtuber』は、1人もいませんよ……」
ミナリィ。
世界でただ1人、登録者数が“億”を突破した、世界No.1の『Mtuber』。
ゲーム配信、アイドル活動など、そのコンテンツは多岐にわたる。
ゴリが声を震わせた。
「ミ、ミナリィが『両面宿儺』のボスだったなんて……。俺、チャンネル登録してます!」
ミナリィが満面の笑みを浮かべる。
「おぉー! なんだミナ友じゃん♪ ぼくの動画、見てくれてるの?」
「も……もちろん! 切り抜きも歌ってみたも、毎日見てます! 寝るときにはASMRも……!」
「ほー♪ どれどれ?」
ミナリィはスマホを取り出してフリックし始めた。
「……あー、きみ、ウホホさん? いつもキモコメで荒らしてくる人でしょ?」
ゴリの体が跳ねた。
「……なんで、俺の裏アカの名前を……?」
ミナリィの目がいたずらっぽく細められる。
「そりゃ分かるよ。だって———『Mtube』を作ったのはぼくだもん♪」




