第314話 準決勝を終えて
S級選抜大会・準決勝第1試合。
『四星の絆』VS『エヴァンジェリン』———因縁のアイドル対決は、ついに『四星の絆』の勝利で幕を閉じた。
観客席では、彼女たちを支えてきたミラたちが惜しみない拍手を送っていた。
「大したもんじゃ! もうすっかり、人外級の強さじゃな♪」
「あぁ……正直、最後のユリには、私でも負けるかもしれねぇ……」
シンラは冷や汗をぬぐいながら、弟子の成長に戦慄すら覚えていた。
「師匠としての威厳も危うくなってきたね。そろそろ私達も、聖装や魔装を手に入れますか」
「そうだね。ガークエイクさんもいるし、素材探しの冒険に出かけるか」
ナズナとシェリーも笑い合う。
一方その頃、貴賓席の王は歯噛みしていた。
「ぐぬぬ……! おのれ、『四星の絆』が決勝まで残るとは……!」
「大丈夫です、陛下。きっと、決勝では無残に惨敗することでしょう」
家臣が王をなだめる。
「そうじゃな。ぜひとも『白銀の獅子』に優勝してもらわねば。……ところで、リリスの姿が見えんな?」
王が不審げに周囲を見渡す。
「そうですね。今日一日、会場にはお見えになりませんでしたね」
「ふうむ。あれほど『四星の絆』に入れ込んでおったのに。珍しいこともあるものじゃ」
◆ ◆ ◆
控室にて、ユリ、シノ、ルリは肩を寄せ合い、嬉し涙を流していた。
「ついに勝ったね……」
「うん、全部報われた……」
4戦全勝。
"もしも"の余地のない、完全勝利。
「ムビくんにお礼言わなきゃだね」
「そういえば、ムビくんどこに行ったんだろう……」
コンコン。
そのとき、ドアがノックされる。
「おめでとうーー♪」
ミラたちが雪崩れ込んできた。
あっという間に歓喜の輪が形成される。
「師匠~! ありがとうございますぅ~!」
「馬鹿おめぇ、泣いてんじゃねぇよ! 胸を張れ胸を! ぎゃはは♪」
師弟が抱き合って燥ぐ中、ミラが問いかける。
「ところで、ムビはどこに行ったんじゃ?」
シノが不安げに眉を寄せた。
「それが、私達も分からなくて。昨日から連絡がつかないんです」
「昨日から? あのムビが、か……?」
シンラが首を傾げる。
「二日酔いで寝てるんじゃねーか?」
「あんたと一緒にしないでよ」
「なんだと!?」
シンラとナズナが言い合いを始め、シェリーが慌てて止めに入る。
「こら! あんたたち、喧嘩しないの!……とにかく、ムビくんから連絡が来るのを待つしかないね」
「確かに、現状それしかなさそう」
「なに、きっとムビのことだ。そのうちひょっこり現れるだろうぜ」
シンラは楽観的に笑ったが、ユリの胸には不意にざわりとした不安が走った。
(なんだろう……。なんだか、嫌な予感がする……)
◆ ◆ ◆
———ピチョン。
「う……」
水滴が頬に当たり、目が覚めた。
薄暗い……。
ここは……どこ……?
湿った匂い。
洞窟の中だろうか。
「目が覚めましたか、ムビ様」
顔を上げると、目の前にリリスが立っていた。
「リリス……?」
頭がぼやけている。
なんだか記憶が曖昧だ。
確かリリスの部屋にいた気がするが……その後のことが思い出せない。
「あれ……? 俺、今まで何して……」
よく見ると、リリスは全身血に染まっていた。
「リ、リリス……! その怪我、どうしたの?」
リリスはくすりと笑う。
「ああ、ご心配なく。この血は、ムビ様のものですから」
背中がヒヤリとした。
……俺の?
———ギシリ。
そのとき、全身に激痛が走る。
「いっ……!?」
痛みの原因を探ろうと、自分の体を見て———目を見開いた。
天井から地面にかけて生えた無数の極太の荊が、全身に巻き付いていた。
「な……なにこれ……!? いたっ……!」
身じろぐと棘が刺さり、容易に肌を裂く。
全く身動きが取れない。
「どうやら記憶が混濁しているようですね。ふふ、まぁいいです。何度でも思い出させてあげますから」
パチン。
リリスが指を鳴らすと、荊が蠢き始めた。
———ギリギリギリ。
太い荊が蛇のように、きつく体を締め上げる。
「痛い!痛い!痛い!」
棘が擦れて、全身から出血する。
荊に鮮血が伝い、地面にポタポタと滴り落ちた。
「ふふ。この荊は禁忌指定の魔物。獲物の血を吸い、美しい花を咲かせます。ああ、ご心配なく。荊は私の支配下にありますから、ムビ様を殺すことはありません」
全身が激痛で焼けるように熱い。
———これで死なないだって?
嘘、嘘、嘘!
冗談きつすぎる……!
「これ、リリスの仕業なの!? なんでこんなするの!? お願いだから、外してよ……!」
痛すぎて涙が出そうになる。
それなのに……なんで、リリスは笑ってるの?
「なんでって……。ムビ様が、そんな顔するから———ですよ?」
リリスの白い指に頬が包まれる。
目と鼻の先に、傾国の美少女の潤んだ———狂気の瞳。
「ほら。もっとよぉく、見せてください」
リリスが甘く囁くと、荊はさらに深く、強く体を絞り上げた。




