第313話 準決勝・副将戦6
2本目の剣を装備したユリに、会場は息を呑んだ。
聖剣と魔剣の二刀流。
人類史を紐解いても、ほとんど前例は存在しないだろう。
過去数百年ならば、間違いなくユリ以外の該当者は存在しない。
二刀流はそもそも扱いが難しい。
理論値では他の追随を許さぬ最大火力を叩き出す、究極の戦闘スタイル。
だが、並の剣士では攻防のバランスを崩し、かえって弱体化する。
高ランクの剣スキル持ちにのみ許された超希少スタイル。
ユリは今、スキル"剣神"の覚醒状態にある。
そのユリが、二刀を振るう———イヅナはその意味を理解していた。
だが、ユリの体は限界を超えていた。
与えたダメージは甚大。もはや立っていることすら奇跡に近い。
イヅナは二刀流に臆する様子もなく、悠然と手を掲げた。
「今のユリの二刀流かぁ。一度ぜひ、拝見したいものだなぁ。体力満タンなら、さぞ強いんだろうね。でも———これで、終わり」
掌に魔力が収束する。
「楽しかったよ。じゃあね、ユリ」
呪文が放たれようとした、その瞬間。
「う……」
ユリはパタリと倒れた。
イヅナは一瞬だけ目を見開き、くすりと笑う。
「やっぱり。もう、立つ力も残ってないじゃん」
審判がダウンを宣告する。
「ダウン! ワン……ツー……」
カウントナインで、ユリはかろうじて立ち上がる。
「やれるか!?」
審判の問いかけに、ユリは頷く。
ふらふらとよろめきながらイヅナに向かって行く。
「ふふ。もう幽霊みたいじゃん」
イヅナは冷笑を浮かべ、再び手を掲げる。
呪文を唱えようとしたその時———ユリは前のめりに倒れた。
「ダウン! ワン……ツー……」
観客がヤジを飛ばす。
「おいおい! もう戦えねーじゃねぇか!」
「さっさと棄権したらどうだー!?」
だがユリは、再びカウントナインで立ち上がった。
「もう一度倒れたら、試合を止めるからな!?」
審判の宣言に、ユリは小さく頷く。
試合が続行された。
イヅナは呆れたようにため息をつく。
「根性だけは認めるよ。じゃあ、今度こそ終わりね」
イヅナは手を掲げる。
高速詠唱で呪文を放ち———ユリは、躱した。
イヅナは少し驚く。
「へぇ、まだ動けるんだ。でも、どこまでもつかな?」
呪文の連射。
どう考えても躱しきれない。
躱せたとして、足がもつれてダウンするだろう。
だが、ユリは次々に呪文を躱していく。
その動きを見て、観客の一人が呟く。
「おい、ユリの動き……どんどん良くなってねぇか?」
初めは足を震わせながらの回避。
それが今では、軽やかさすら感じられる。
(よし……順調に回復してる!)
魔剣の能力《自動回復》。
10秒ごとに最大体力の1%が回復する。
ユリはあえてダウンを重ね、回復の時間を稼いでいた。
魔剣を装備して、そろそろ1分が経過する。
回復した体力は、6%分。
未だ一撃でやられてしまう体力に変わりはない。
だが、これだけ回復すれば十分動ける。
(そろそろ……行くか!)
———キュン。
雷速のごときユリの突進。
「はっや!?」
会場がどよめく中、ユリも自身のスピードに驚く。
(なにこれ……力が溢れる!?)
魔剣を装備したことにより、全ステータスが3割上昇していた。
その速度は、全参加者中最速の域に達していた。
生まれて初めて行う二刀流の動きにも、ユリのスキルは完全に対応していた。
まるで生まれ変わったような気分。
未だ一度も振っていない二刀だが、予感があった。
初太刀から、恐らく剣の神が宿る。
イヅナは極大呪文で迎え撃った。
「"終焉の業火"!」
巨大な火球が放たれる。
ユリは回転しながら火球に二刀を振るう。
「でやあぁぁっ!」
———ズバァッ!
火球が真っ二つに両断され、イヅナが目を見開く。
「どこにそんな力が!?」
なおもユリのスピードは衰えない。
まっすぐイヅナに突進する。
(ちっ、影の魔法を……!)
ユリの影を操ろうとするが、イヅナの命令を受け付けない。
(くそっ! 影に魔力を浸透させたか! 操れない!)
イヅナは舌打ちをし、剣を構える。
「"十六星剣"!」
放ったのは、ユリからコピーした、現状イヅナが持ちうる最大の剣撃。
だが、ユリは笑った。
「なにそれ、おっそ」
———ギィン!
完璧に重ねられた二刀のパリィに、イヅナの剣は弾き飛ばされた。
「うそ———」
イヅナが目を見開く間もなく———ユリの二刀が輝いた。
「"二十四星剣"!」
———ガガガガガガガァッ!!
無数の連撃がイヅナに叩きこまれる。
「うわあああぁぁあああぁぁッ!」
一撃ごとに骨が砕ける。
致命的な攻撃が、雨のように降り注ぐ。
(負ける———? 私が———?)
敗北が胸を去来する間もなく、10回目の斬撃を受けてイヅナは意識を失った。
連撃の嵐は止まらず、イヅナの体は木の葉のように舞い続ける。
「はああぁぁぁっ!」
———ズバァッ!
24撃目。
イヅナの体は宙を舞い、そのまま地面に落ちた。
会場は静寂に包まれていた。
「ダ……ダウン! ワン……ツー……!」
誰もが呼吸を忘れていた。
ジニーですら口を開けたまま呆然としている。
「エイト……ナイン……テン!———試合終了! 勝者……『四星の絆』、ユリ!」
その瞬間、大歓声が沸き上がる。
ユリはその場で膝をつき、泣き始めた。
「なんとなんとなんとーーー! ユリの圧倒的な剣技による逆転勝ち!『四星の絆』が4-0のストレート勝利です! オカダさん、一体だれが、こんな結末を予想したでしょう!?」
「言葉もありません。『四星の絆』の強さは本物です。ただただ、拍手を送りましょう」
シノとルリがフィールドに飛び込み、ユリに抱きつく。
「勝った……!『エヴァンジェリン』に、勝ったよぉ……!」
「やったね、ユリィ……!」
3人の目に涙が光る。
観客席から惜しみない拍手が送られた。
「へっ。こんなに強けりゃ、もうしょうがねーぜ!」
「決勝戦、絶対勝てよ、『四星の絆』!」
『エヴァンジェリン』のファンからも、拍手が起こる。
メンバーたちも素直に称えた。
「うちのエース4人を相手に、ほんとすごいや。素直に完敗だね」
「ムビ君は残念だったけど、感動しちゃった」
総帥ジニーはしばらくフィールドを見つめ、天を仰いだ。
「悔しいが、見事……。惜しいことをした……。あんな4人を、除名するなど……」
『四星の絆』は観客に深く頭を下げ、フィールドを去る。
その背中が見えなくなっても、万雷の拍手は鳴り止まなかった。
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