第312話 準決勝・副将戦5
カウントナインでギリギリ立ち上がったユリ。
しかし、状況は最悪だった。
シェリーが困惑の表情を浮かべる。
「立ったのは素直にすごいけど……。どうするの? ここから打つ手があるとは思えないけど……」
ナズナも唇を噛む。
「剣も魔法も徒手格闘も、全て最高レベル。近距離、中距離、遠距離……どこにも隙がない。総合力で圧倒されてる……」
悲観的な空気を、シンラが怒鳴り声で吹き飛ばした。
「大丈夫だ! 立ちさえすれば、まだ勝機はある!」
「勝機って、どんな……?」
「知るかよ! 根性だよ根性!」
ユリは剣を支えに息を荒げる。
「立ってるだけで精一杯って感じだね。悪いけど、勝機はもうないよ」
イヅナはそう言うと、自身に回復魔法をかけた。
ユリが与えたダメージが、みるみるうちに消えていく。
(……くそっ! やっぱり、回復魔法も使えるか……!)
回復を妨害したいが、体が言うことを聞かない。
ユリはただ、絶望的な光景を見つめるしかなかった。
「はい、HP全快。どうする? まだ続ける?」
絶望的状況。
今にも倒れそうなユリの脳内には、試合前の出来事が蘇っていた。
◆ ◆ ◆
サヨの試合の直前。
控室のドアがノックされた。
「よう。無事、勝ち残っておるの」
現れたのは、ガークエイクだった。
シノとルリが駆け寄る。
「ガークエイクさん! ありがとうございます! ガークエイクさんの魔装のおかげで勝てました!」
「ほんとすごすぎるよこの魔装! さっすがじいさん、天才だね♪」
ガークエイクは上機嫌に笑った。
「そうじゃろう? ワシが造った魔装じゃ! そこらの魔装に負けてたまるかってんだ! わーはっはっは!」
サヨがベンチから声をかける。
「ところでガークエイクさん。応援しに来てくださったのですか?」
ガークエイクは手を振る。
「あぁ、いやいや。試合ならもう、観客席で見たわい。ワシの装備品の活躍も見れたし、何より腰が痛くての。今から帰るところじゃ」
「そんな~、私たちが勝つところを見て欲しいのに」
最大の興味は『四星の絆』の勝利より、魔装の出来栄えといった様子だった。
さすがは頑固職人である。
「帰る前に、これを渡そうと思っての」
ガークエイクは保存袋を差し出した。
「これは……?」
「魔装じゃよ。盾のときの材料が余ってな」
全員が驚愕した。
「ま、魔装……!?」
「す、すごい! これがあればサヨは……!」
袋の中身を見て、ユリは固まった。
「こ、これは……」
「どうやら私が身につけるべき装備ではないようですね」
サヨが呟くと、ガークエイクが続けた。
「ムビに渡そうと思って持って来たんじゃが、あいつはおらんようじゃな。まぁ、装備者は誰でも構わん。あと1勝が必要なら、お主が装備しても良いぞ?」
ガークエイクの視線がユリに向けられる。
「ま、使い方はお主たちに任せるわい。で、じゃ。この魔装なんじゃが……」
一通り、ガークエイクは魔装の説明を行う。
「じゃ、ワシは帰るからの。あいてて、腰が……」
ガークエイクは腰を叩きながら去っていった。
「もしかしてガークエイクさん、すごく無茶したんじゃ……」
シノが呟き、ルリが反応する。
「どういうこと?」
「私の魔装を造ってから、まだ数日しか経ってないし。目の下にもクマが……」
言われて、ユリははっとした。
恐らくは準決勝に間に合わせるため、不眠不休で製造したのだろう。
あれだけの高齢……少し観戦するだけでも、体力の限界だったに違いない。
「大事な魔装だね……」
保存袋が、ずしりと重く感じられた。
「さて、この魔装……どうします?」
サヨの問いが、静かに響いた。
◆ ◆ ◆
———そして今。
保存袋はユリがそのまま持っていた。
ユリは既に聖装"破邪の剣"の装備者。
この保存袋の中身は、できれば非装備者のムビに渡したかった。
しかし———。
(……ごめん、ムビくん! やっぱり、勝ちたいっ———!)
ユリは保存袋を取り出した。
解説がギョッとする。
「あぁーっと!? この大会、アイテムの使用は禁止されているぞーー!? 血迷ったか、ユリ!?」
ユリが袋の中に手を突っ込み、引き抜く。
袋の中から現れたのは———黒い剣だった。
「あ、あれは……剣、でしょうか!?」
「恐らく……。装備品なら、ルールに抵触しませんが……」
ユリは剣が体に馴染む感覚を覚えた。
魔装が装備者としてユリを認めたのだ。
(ガークエイクさん……力をお借ります!)
ユリは2本の剣を振り回し、構える。
「に……、二刀流だとぉーーー!?」
会場の熱気が爆発した。
イヅナは一瞬驚いていたが、すぐに余裕の笑みを浮かべる。
「剣を2本持ったからって、どうなるの? 生半可な剣を装備したって、私には通じないよ? それに、もう動く力も残ってないじゃん」
ユリは肩で息をしながらイヅナを睨み続ける。
(そんなことは分かってる! でもこの剣は、生半可な剣じゃない。逆転するには、この剣の能力に賭けるしかない……!)
ユリの握る黒剣が、低く唸るように震えた。




