第309話 準決勝・副将戦2
「うわぁっ!」
イヅナの剣がユリの腕をかすめ、鮮血が散った。
ユリは完全に押されていた。
「もう降参した方がいいんじゃない? どんどん怪我が増えちゃうよ?」
イヅナは眠たそうな目のまま。
やる気がないのかと思いきや、突然凄まじい斬撃が飛んでくる。
気配の起こりがなく、動きが読みづらい。
まるでイヅナの意思とは無関係に体が動いているかのよう。
「はぁっ!」
ユリの闘気を込めた魔法剣。
だがイヅナは、まったく同じ剣撃を完璧に再現し、相殺してみせた。
「これすごいね。闘気ってやつ? 私初めてだから勉強になるなぁ。他に技はないの?」
軽く弾き飛ばされ、ユリは地面を転がりながら体勢を立て直す。
(くそっ……技が通じない! それどころか、全部真似されて返ってくる……!)
対『エヴァンジェリン』戦に向けて積み重ねてきた修行。
最良の師匠たちに教わった数々の技。
それらが一切通じないどころか、むしろイヅナをどんどん強くしている。
(一体、これまで何のために頑張って……!)
八方塞がりのユリに、イヅナは困ったように肩をすくめる。
「ね? だから言ったじゃん無駄だって……ふわぁ~」
大きな欠伸をしながら、イヅナは剣をくるくると回す。
「ユリ。きっとこの技を覚えるために、いっぱい『努力』ってやつをしてきたんでしょ?『努力』ってやっぱり楽しいのかな?」
その声色には悪意がない。
ただ純粋に、心の底から疑問に思っているだけだった。
「全然結果が出ないのに、皆『努力』ってやつしたがるじゃん。きっとよっぽど楽しいんだろうね。私はそういうこと考える前にもうできちゃうから、よく分からないんだよなぁ~」
ごく自然と紡ぎ出されるイヅナの言葉が、ユリの胸を刺す。
「まぁ、人の楽しみをとやかく言うつもりはないけどさ。私に勝とうとするのは『努力』ではないと思うよ? こんな簡単なことをさぁ、どうして頑張らないとできないの? 必死な顔しないとできないの? その時点で、私に勝てるわけなくない?」
「そんなの……やってみなきゃ、分かんないじゃん!」
ユリは叫び、突進した。
「"七星剣"!」
「またその技かぁ。さっきも見たよ、それ」
イヅナも同じ構えを取る。
互いの7つの斬撃が火花を散らし———イヅナの8つ目の斬撃が、ユリの肩を切り裂いた。
(嘘っ……!? 私の技を……上回った……!?)
ユリの手から剣が落ちる。
イヅナは眠気に襲われ、再度欠伸をした。
「面白い技だけど……どうして7回目でやめちゃうの? 8回、9回って斬った方が強いのに」
ミラは感嘆の声を漏らした。
「天才じゃのう……。コピーするどころか、オリジナルを上回りよったぞ」
シェリーが分析する。
「恐らく、コピー系のスキル。しかも、コピーした技をほとんど無意識で発動できるんだろうね」
ナズナも息を呑む。
「技ってのは普通、意識を100%割いてようやく発動できる。それが0%でできるってことは、余った意識を技の改善に使える。こんなの戦闘中にやられたら、心折れちゃうね……」
シンラは静かにフィールドを見つめていた。
「なるほどな。これがユリのライバルかよ。いいじゃねぇか……。こりゃ、いい修行になるぜ」
3人が呆れる。
「修行って……そんなこと言ってる場合じゃ……」
「まぁ、黙って見てろ。あいつはこれくらいで折れるタマじゃねぇよ」
◆ ◆ ◆
数日前。
「うぎゃっ!」
「どうしたよ、もう終わりか?」
ユリは地面に倒れ伏していた。
シンラとの全力の戦闘の後である。
「うぅ……やっぱり師匠に勝てない……」
「情けねぇこと言ってんじゃねぇぞ? レベルはもう、お前の方が上だろうが?」
「こっちが聞きたいですよ! レベルは私の方が上なのに、なんで師匠はそんなに強いんですか!?」
手足をバタつかせ、憤慨するユリ。
シンラはため息をついた。
「あのな? 確かにレベルが高い方が戦闘じゃ有利だ。だが、強さってのはそれだけじゃねぇ」
シンラが倒木にドカリと座る。
「冷静に分析してみろ。お前が私より上回ってる要素は何だ?」
ユリはしばらく考える。
「えっと……。レベルは私の方が高い。聖装のバフもある。スキル"剣神"の恩恵……」
「その通り。ざっとそんなもんだ。レベル230がお前のベース。聖装のバフでパラメータが3割上昇、スキルの恩恵で更に3割上昇。実際の戦闘力はレベル370前後ってところだな。一方私は、レベル200。そこに、スキル"怪力乱心"が加わり、力と耐久力は数倍に膨れ上がる。結果、レベルに換算すると400は超えてくるってわけだ」
シンラのドヤ顔に、ユリは抗議する。
「ずるいですよ師匠ー! チートスキルの恩恵じゃないですか!」
「馬鹿野郎! スキルってのはなぁ、自分次第でいくらでも強化できるんだ! いいか? 私のスキルだってな、元は5割程度の強化能力だったんだぞ?」
ユリが驚いて目を見開く。
「えっ!? そうだったんですか!?」
「そうだ。私はな、殴り合いじゃこの世で最強だと思ってる。ミラが相手だとしても、殴り合いとなりゃ私が上だと本気で思ってるんだ」
シンラの目には、自身への絶対の自信が感じられた。
「スキルはてめぇ自身との向き合い方で、発揮する力が大きく変わってくるのさ。もっと剣に没入しろ。そうすりゃ、いつしかチートスキルの域に達する。ムビを見てみな」
ムビの名前が出た途端、ユリはさらに傾聴した。
「あいつはずっと不遇な扱いを受けていたが、スキルはチート級だった。恐らく、どれだけ冷遇されても自分のスキルに没頭したんだろうさ。お前に必要なのは、そういう絶対に曲がらねぇ、信仰めいた信念だ。本気じゃ足りねぇ、その向こうの狂気にまで行きつけ。そうすりゃ、お前はもっと強くなれるさ」
ユリの瞳が輝いた。
「なるほど! 要は、ムビくんみたいになればいいんですね! 分かりました!」
「……ほんとに分かってるのかお前?」




