第308話 準決勝・副将戦1
テレビの前の視聴者たちは、息を呑んで画面に釘付けになっていた。
「イヅナが出るよー!」
「お母さん、早く来て!」
「イヅナー!頑張れー!」
勝敗が決した後だというのに、視聴率は右肩上がり。
プロデューサーたちは目を疑った。
「おいおい……勝敗が決まったってのに、視聴率が上がってるぞ!?」
「これがNo.1アイドルの力かよ……!?」
『エヴァンジェリン』のNo.1。
それはつまり、時代の中心。国内スターの頂点。
中でもイヅナは、歴代最高のセンターとまで言われている。
配信すれば同接100万人。
世界中どこで公演してもチケットは秒で完売。
熾烈な『エヴァンジェリン』の競争の中で、加入して僅か1年で史上最年少センターの座を奪い取った天才。
そして冒険者としても、パーティのリーダーとしてわずか数ヶ月でAランクに上り詰めた天才。
そんなイヅナが登場するとあっては、国中が熱狂するのも当然だった。
会場の『エヴァンジェリン』ファンからは地鳴りのようなイヅナコールが巻き起こっていた。
街中に届くのではと思うほどの大歓声。
シンラたちはその光景に目を丸くした。
「おいおい、今までの3戦より盛り上がってるじゃねーか」
「いよいよ、『エヴァンジェリン』が本気を出すってわけね」
対峙するユリは、かつて体験したことのない熱狂の渦中にいた。
声援だけで、ビリビリと体が震える。
「お手柔らかにね、ユリ」
そんな中にあって、いつも通りマイペースなイヅナ。
(これがイヅナの日常ってわけね……)
ユリは喉を鳴らし、笑みを浮かべた。
「いいじゃん……! こんな中でNo.1アイドルと戦えるなんて……! 最っ高に燃えてきた!!」
ユリが聖装を手に取る。
破邪の剣が放つ波動が、会場の熱気を押し返した。
「聖装か。良い剣だね。それじゃあ、私も」
イヅナも聖装を取り出す。
剣から放たれる波動がぶつかり合い、会場に風が吹き荒れた。
「絶対勝てよー! ユリー!」
『エヴァンジェリン』の大歓声にも負けず、シノとルリが声援を送る。
「なぁシンラよ。どちらが勝つと思う?」
髪をはためかせ、ミラが問いかける。
「ユリに決まってんだろ。あいつのレベルは230。レベルだけなら、私をも上回ってる。しかも聖装とスキルの恩恵で、ステータスは跳ね上がってる。闘気の使い手としても申し分ねぇ。今のあいつは本気の私ですら苦戦するんだ。負ける要素はねぇよ」
会場のボルテージが最高潮に達した。
「それでは副将戦……開始ィィィィ!!」
審判が試合開始を宣言したと同時に、ユリが電光石火で飛び出した。
左右にフェイントを入れ、稲妻のような速さでイヅナへ迫る。
「はっや!?」
観客がどよめくより早く、ユリはイヅナに剣を振るっていた。
「はぁっ!」
———ガキィンッ!
イヅナは剣で受け止める。
剣圧で、風が吹き荒れた。
「うわ、おっも」
「まだまだぁっ!」
怒涛の連撃がイヅナを襲う。
イヅナの周囲だけ絶えず雷が炸裂しているようだった。
「お、おい……! いくらなんでも、やべえだろ!?」
観客が息を呑む。
これまでのハイレベルな3戦を踏まえた上でも、決着を予感するほどの猛攻。
「"七星剣"!」
同時に叩き込まれたユリの7連撃。
剣圧だけで地面を削るほどの大技を受け、イヅナは吹き飛ぶ。
「おい……もう決着か!?」
———ひらり。
空中で宙返りしたイヅナは、そのまま軽やかに着地した。
「すごいすごい。こんなに重い攻撃は初めてだよ。速さも、セツナを除けば1番じゃないかな?」
ユリは目を見開いた。
(嘘……無傷!?)
ナズナから教わった歩法。
シェリーから教わった魔法剣。
シンラから教わった闘気。
全てを組み合わせた渾身の連撃。
まさか初見で全て捌かれるなど、想像すらしていなかった。
「こうかな?」
イヅナが稲妻のような速さで接近する。
ユリは目を見開いた。
(嘘っ!? これって、私の……!?)
そのまま繰り出される雷撃のごとき連撃。
ユリは捌ききれず防戦一方に陥る。
「"七星剣"」
———ズバババァッ!
同時に叩きこまれるイヅナの7連撃。
受けきれず、ユリは複数箇所を切られて吹き飛んだ。
「うわあぁぁぁっ!!」
地面をバウンドしながら壁に激突した。
シノが叫ぶ。
「ど、どういうこと!? 今の、ユリの技じゃ……!?」
ジニーはほくそ笑んだ。
「はは……ははは! やはり、お前だけは別格! 最強よ、まさに無敵の強さじゃ!」
『エヴァンジェリン』のメンバーたちが黄色い歓声を上げる。
「すごーい! さすがイヅナね♪」
「ジニーさん、やっぱりイヅナもすごーく鍛えたの?」
ジニーは質問したメンバーの肩を抱きながら答える。
「もちろんじゃ。イヅナのレベルはセツナと同じ300。じゃが、奴の強さの秘密はそれだけではない。生まれながらの天才なんじゃ、奴は」
「確かに、イヅナって見かけによらずめちゃくちゃ器用だよねー」
「そうそう、セツナと同じで、歌もダンスも必ず一発で覚えるし」
イヅナとセツナが『エヴァンジェリン』内で特に別格扱いされる理由がそれだ。
とにかく、呑み込みが早すぎる。
「ははは。セツナはああ見えて努力型じゃが、イヅナは本物の天才よ。なんせあいつのスキルは"完全模倣"。一目で何でも覚えてしまうコピー能力じゃ」
「えっ!? 何それ、チート能力じゃないですか!?」
「イヅナずるいよー!」
文句が飛び交い、ジニーは豪快に笑った。
「ははは! だから、歌もダンスも戦闘も、イヅナに勝てんのはしょうがないのじゃ! お前らも、イヅナを超えようと思う必要はないぞ? あれ以上の才能なぞ存在せんのじゃからな!」
天才過ぎて、あらゆる不遜が許される存在。
枕なしで『エヴァンジェリン』の頂点に上り詰めたのは、後にも先にもイヅナのみ。
「さぁ、イヅナよ……見せてやるのじゃ!『エヴァンジェリン』の真の力を!」




