表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aランクパーティをクビになった『動画編集者』がアイドルパーティに加入して無双  作者: 焼屋藻塩
第3章 S級冒険者選抜大会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

303/347

第303話 準決勝・中堅戦5

 私は手を叩いて笑った。


「あはははは! 油断したの!? バカね! せっかく勝機を掴んでいたのに!」


 鼻血を拭い、ゆっくりと立ち上がる。

 サヨに攻撃された箇所がズキズキと痛んだ。


「よくも私をここまでコケにしてくれたわね……。こんな屈辱は、生まれて初めてよ」


 静止したサヨを睨みつける。

 どうせ聞こえてはいない。それでも言葉にしなければ気が済まなかった。


「あなたがこれからどうなるか、教えてあげる。まずは顔面が変形するまでボコボコにする。次に手足の骨を折って、時間停止を解除する。痛みに泣き叫びながら芋虫みたいに地を這うあなたを、大観衆の前で踏みつけるの……どう? 素敵でしょう?」


 当然、サヨからの返答はない。

 安堵と勝利の愉悦が胸の奥から溢れ出し、笑みが止まらなかった。


 やはり、最後に勝つのは私。

 神の力を持った絶対的支配者が、負けるはずがないのだ。


「さぁて♪ それじゃあ、処刑タイムスター……」


 殴ろうとした瞬間、私はピタリと動きを止めた。


「えっ……なに、これ……?」


 サヨの瞳が、煌々と輝いていた。

 あの眼だ。1回戦、ヒエンとの戦いで見せた——。


「もしかして、これが……魔眼……?」


 血よりも赤く、宝石よりも透き通り、絶大な魔力を宿した瞳。

 今までに見た、この世の何よりも美しかった。

 時の止まった世界で、私は時を忘れて見惚れた。


「妬ましいわね……この瞳、くり抜いてやろうかしら」


 何かするつもりだったようだが、残念。

 数秒ほど、遅かったようね。


 私はじっとサヨの瞳を見つめ続け——ふと、()()()()()()()()


「……えっ!?」


 私は反射的に飛び退いた。

 瓦礫に足を取られ、つまずきそうになる。


 そんな、まさか。

 そんなはずは——。


 サヨの瞳が、わずかに揺らめいた気がした。

 もう一度、よく見る。


 確かに静止している。

 だが、何かが違う。


 時間停止は何度も使ってきた。

 静止した人間の瞳に私が映ることはあるが、認識されることはない。

 目が合ったように見えても、それは停止した瞬間の意識の残滓にすぎない。


 だが、この瞳から感じる意識は——さっきまでの私に向けられたものだろうか。

 それとも。


「あなた……私が見えているの……?」


 返ってくるはずのない問いへの答え。

 代わりに、わずかに……ほんのわずかに、サヨの瞳が揺らいだ気がした。


 見間違いかもしれない。

 しかし、少なくとも私の目には……断続的に、サヨの意識が刻まれているように見える。


 全身に鳥肌が立つ。


 思えば、サヨの反応は異常だった。

 私の呪文に対する反応速度は、これまでの相手の中でも飛び抜けていた。

 あのイヅナですら一瞬の戸惑いを見せるのに、サヨにはそれがなかった。

 ギリギリで防御し、ダメージを軽減していた。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()


「はは……信じられない。私の世界を覗ける者がいるなんて……」


 しかし、徐々に私の心に安堵が広がっていく。

 どうやら、動くことはできないらしい。


 冷静に考えれば、私の絶対的優位は変わらない。

 自然と笑みがこぼれる。


「意識がある分、かえって恐怖なんじゃない? 時間が止まったまま殴られるって、どんな気分なんでしょうね? 痛みがずっと続くのかしら。それとも、停止解除するまで恐怖に怯えるのかしら。興味深いわね……」


 私は拳を握り、サヨへ近づく。


「時間が動いたら教えてね。もっとも、意識があればだけど」


 拳を振り上げ——そして、再び止まる。


 ……待て。

 もし意識があるなら、サヨは私の時間停止を考慮していたはず。


 このまま攻撃していいのだろうか?


 先ほどのトラップ。

 あれは、時間停止したまま私の接近を誘っていた。


 私との位置関係。

 私が時間を止めるタイミング。

 停止後の行動。


 全てを完璧に読み切られた上でのトラップだった。


 あれだけ私が攻勢だったのだ。

 無造作にいくつもトラップを仕掛けていたとは考えにくい。

 恐らく、たった1つだけ仕掛けたトラップを、ピンポイントで命中させた……。


 そんな頭の切れるサヨが、果たしてこの状況を予想していない……なんてことがあり得るだろうか?

 例えば、私のこの後の行動を全て読まれていたとしたら……。


 数センチ先に、先ほどのトラップがあるかもしれない。

 あるいは、サヨに触れた瞬間に発動するトラップなのかも。


 そこまで思い至った瞬間、背筋が凍った。

 死神の鎌が首筋に触れたような感覚。


 このまま安直に動くのは危険すぎる。


 サヨは何を狙っている?

 それを読み切るまで、迂闊に手を出すべきではない。


 そもそもサヨは、なぜ魔眼を発動させた?

 魔眼を使わなければ、私はサヨが時間停止を認識していることに気付かなかった。


 "時間停止を認識している"——なんて情報、隠した方がサヨにとっては有利なはずだ。

 その情報をわざわざ私に与える理由は?


 最も合理的な答えは——トラップがない、という状況。

 設置が間に合わず、私に警戒心を抱かせて接近させないための威嚇。


 でも、それでは引っかかる。

 なぜサヨは、私の時間稼ぎに付き合った?


 時間停止に気付いていたなら、私の必死の時間稼ぎにも気付いていたはずだ。

 次に時間を止められたら終わりかねない状況……私がサヨなら、死に物狂いで攻める。


 なのに、サヨは私のたわ言に付き合った。

 まるで、時間停止を待つかのように。


 トラップはない。

 だが、時間は止めてほしい?


 矛盾している。

 何度考えても答えが出ない。


 あるいは、私を混乱させることが目的?

 それとも、全部私の勘違い?


 ならば攻撃してみる?

 いや、それが狙いかもしれない。

 いや、でもそれこそが本当の狙いで——。


 思考が堂々巡りし、訳が分からなくなる。

 なぜ、絶対的に有利なはずの私が、こんなにも追い詰められているのか。


 深く息を吸い、吐く。


 落ち着け。冷静に考えろ。


 まず、サヨは動けない。

 サヨに攻撃手段があるとすれば、恐らくトラップ。


 時間停止の弱点——それは、私が物理的影響を受けること。


 ほぼ停止した時間とはいえ、ごくわずかに時間が流れている以上、私もダメージを受ける。


 爆風に突っ込めば吹き飛ぶし、炎に触れれば焼ける。

 サヨのトラップもしかり。


 ……ある。

 サヨの狙いなど関係なく、サヨを倒せる方法が。


 これを使うのは久しぶりだが、果たしてうまくいくだろうか……。


 いや、状況が状況だ。

 迷っている場合ではない。


 私は静かに手を掲げ、指を鳴らした。

 その音は静寂の世界に響き——そして、更なる静寂を呼んだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2025年9月10日、注目度 - 連載中で2位にランクインされました!
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ