世界最強 二話 便利屋
脳に直接響く声の主はこの石像で間違いない。
「お前は誰だ?」
『よくぞ、聞いてくれた。我が名は……我が名は。ない』
さっきまで偉そうだったのに急に元気がない声になった。名前には何か事情があるみたいだ。
『そんな事より、我が僕よ。我の為によくぞここまでやってくれた。下位世界とは言え一億を超える命を献上してくるとはな』
「献上?」
『お陰で今では、この様な形とは言え会話が出来るようになった。褒めて遣わすぞ』
死後に干渉してくるのは悪魔や天使。それか、神ぐらいしかない。こいつは人知を超えた存在という事だ。
文脈から察すると俺に目覚めた力はこいつによって与えられたのだろう。
『そこで褒美として、上位世界への転生を命じよう』
「上位世界への転生?」
『別の世界で新たな人生を始めるということ。そういえば分かるな』
教会の教えで転生については知っている。
だが、上位世界とやらが分からない。
『勿論、お主には引き続き魂を我に献上して貰うがな。ハッハハ』
高笑いがなんか無邪気な子供ぽかったなと思った。
まあ、疑問は多いがこんな何もない場所にいても退屈だ。怪しくはあるが、断る理由はない。
『期待しておるぞ』
瞼が強制的に閉じられ、視界が真っ黒に戻った。
「次は後悔しない人生を送ってやる」
――――――
目を覚ますと、両親らしき男女がベッドの上で俺を抱きかかえ見つめていた。
両親は深刻そうな顔をし、互いに頷いた後、父親が俺を持ち走り出した。
――ッ!?
一瞬で景色が変わり、森の中に移動していた。
意識ははっきりしていた。寝ていたとかそんなもんじゃない。瞬間移動と言っても差し支えない。
「シタリア。こいつだけは絶対に守るからな」
男が泣きながら、森を走り続けた。
前世の記憶があり、物心が付いている俺はハッキリと母親の名前と顔を頭の中に焼き付けた。
なぜなら、この男の表情が俺そっくりだったからだ。何者かに追われて必死に逃げている。母親であるシタリアという女性を置いて逃げたのは相手が格上であるからだろう。
もう、母親とは会えないかもしれない。痛い思いまでして俺を産んでくれた恩は忘れない。
「はあ、はあ。ここまで逃げれば」
息を切らした男が立ち止まった瞬間。ナイフが目の前に刺さった。
「失敗。失敗。まあ、俺の目的はあんたじゃなくてそのガキの生け捕りだからむしろ当たらなくてラッキーとでも思っておこうか」
やけに喋る男が、正面から現れた。
「俺は『聖なる体』の『手』に属している。国の英雄であるあんたが相手という事もあって、張り切っていろいろ仕込ませて貰ったぜ」
「これは魔物寄せの」
複数の獣の咆哮が森に響いた。
「ここに来ることは分かっていたぜ。だから、あんたのスキルでは逃げれねえよ」
「チッ! 戦うしかないか」
「まあ精々頑張れよ。英雄さん」
煩い男は透明になり消えた。その代わりに巨大な獣が俺たちを囲んでいた。
「ふう。こんな事になるとはな。安心しろ。お前の事は俺が絶対に守ってやるからな」
親父が空いた手で剣を抜いた。そして、口を隠すように模様入りの布を巻いた。
「便利屋クロノ。依頼を遂行する」
その目には覇気が宿っていた。
「空間斬り」
剣を振ると離れた場所にいた獣の胴体が真っ二つになった。離れているにも関わらず、あの切れ味。人間技じゃない。
さっきの瞬間移動といい。どうも、俺の父親は特殊な能力を持っているらしい。
その後も親父は人間離れした身のこなしで攻撃を躱し、獣たちを屠って行った。しかも、赤ん坊の俺を気遣いながら。とても、さっきまで逃げ回っていた男とは思えない。
たった数分で、集まった獣たちが死体に変貌した。
「ふう。もう終わりか?」
「流石、伝説の便利屋クロノ。だが、これはあくまで時間稼ぎだ」
消えていた男が現れた。
「お前が相手になってくれるのか?」
「いやいや、今の俺じゃああんたには到底勝てねえよ」
「なら、ここを通して貰おうか」
「残念だが、それは。グフッ!」
男の胸から剣が生えた。
「『手』如きが『脊髄』の命令を無視するとはいい度胸じゃねえかよ」
柄の悪そうな男が出て来た。
「俺は言ったよなぁ。『死ぬ気で足止めしろってな』ぶっ殺すぞ。あァ?」
異質な男を前に親父は俺を地面に優しく置いてから剣を構えた。
「便利屋クロノ。知ってんぜ。依頼達成率は百パーセント。魔物討伐から秘境の探索まで金さえ払えばどんな事でもするらしいなァ。殺人や盗み、運びもなァ!」
男は服を脱ぎ去った。
その体には、無数の傷跡が刻まれていた。
「ワクワクするなァ! オイッ! そんなつえぇ奴と殺し合い出来るなんてよォッ!」
武器を短刀に変えた男が突進してくる。しかし、その速さは人並みで獣を倒した親父には軽く見切れる攻撃だった。
現に短刀を躱し、反撃をしようとしていた。
瞬間、爆発音が発生した。
動かしにくい首で発信源を見てみると、大きな木がへし折れていた。
「ケケッ。一撃で殺してやるからしっかり受け止めろよな」
「なんていう魔力量だ」
「これが『脊髄』の力だ」
風圧によりカウンターに失敗し、よろけてしまっていた。
このまま、指をくわえて戦いを見ている訳にはいかない。万が一を考えて死体を装備した方がいい。《屍 外骨格》を作って、赤ん坊の状態でも戦えるようにしなければ。
全然動かない体を強引に動かし、獣の死体に近づく。前世では人間の死体でしか装備を作れなかったが、今までの会話を聞くにこの獣は魔物とか呼ばれていて何か違うのかもしれない。
必死に体を動かす。大人なら二、三歩で行けるような距離を赤ん坊は這いつくばって時間が掛る。
戦闘は激しさを増し、森の木々がどんどん倒されていっている。
「ガキを庇いながらだと戦いずれえだろ?」
「依頼を遂行するのが便利屋だ」
今の俺は完全な足手まといでしかない。早く死体に触れなくては。
「なァ。どうせなら、こうしてみるのも面白いかもしれねえな」
「止めろ! 子供は」
「殺し合いに綺麗も汚えなんてねえんだよ!」
あと少しで死体に触れる。そんな時に男が俺に向かって突進してきた。
「死ねェッ!」
短刀が俺に当たろうとした瞬間。
「やらせねえよ」
真っ赤な血が地面に飛び散った。
「ハアハア。い、依頼は遂行する」
「ヒュー。普通そこまでやるか?」
親父。クロノが俺を庇って背中から刺されていた。
「ぶ、無事でよ、よかった。すまない。依頼は達成できそうに……」
地面に倒れ、血の池が広がって行く。
「ざまあねぇな。伝説の便利屋クロノも依頼の鎖があれば楽に倒せるもんだな。じゃあ、後はガキを攫って、『脳』に献上すればお終いだな……ってガキは!?」
いきなり謎の存在に転生させられて、生まれ変わったと思ったらいきなりよく分からない抗争に巻き込まれる。踏んだり蹴ったりだったが、そんな中でも俺を守ろうと命を懸けてくれた。
前世では多くの人間を殺した。だが、人間の心がない訳ではない。
次に人生があるなら、義理や人道。筋の通った事をしてみたいと思っていた。
俺は命の恩人が殺されて、黙っているような人間じゃない。
「な、なんだてめえは?」
「俺か? 俺は……」
男が誰何をしてくる。しかし、名乗ろうにもまだ今世の名前が分からないから答えられない。
「ただの殺人鬼だ」
周りの死体は全て回収した。前世で何千万の人間を殺して武器にしてきたが、ここにあった魔物と呼ばれる獣の死体は一体で何十万人の力がある。
そんな死体がたくさんと『手』に所属するとか言っていた透明になれる男も回収している。
屍で体を形成し、成人ぐらいの大きさに水増してなっている。
「《屍剣》《屍星》」
屍で作られた真っ赤な剣と空中に漂う弾。敵もこの異質さに気づいたのか一歩、後退った。
「さあ、殺し合いを始めようか」




