三話 元世界最強の実力
周りの死体を体に纏わせて仮の体を作った。
「殺人鬼ィ? おもしれぇ事をいうじゃねえか!」
「何が可笑しい?」
「教えてやるよ。魔力が全くない癖に面と向かって殺しにくるその度胸が俺は楽しみでたまんねえんだよ」
魔力というものは知らないが、言葉から察するにこいつらが人間離れした動きをする種であることは大方予想が付く。
「俺は『聖なる体』の幹部格である『脊髄』の一人だ。てめえ如きに戦いなんてしねえよ。いつもなら一方的に殺してやる所だが、今の俺は伝説を殺して気分がいい。一発だけなら受けてやってもいいぜ」
持っている短刀を地面に捨て、男は無防備な状態になった。
こっちが武器を持っていないとはいえ、ここまで余裕の対応が出来るという事はこいつは余程自分の力に自信があるのか、もしくは魔力とやら無いという俺の攻撃など取るに足らないと考えているな。
まあ、俺は敵の実力をさっきの戦闘で知っている。だから、一々警戒する必要はない。
《屍 流星》を一発だけ放った。
頭の隣の真っ赤な球体が音を立てずに発射された。
「なにッ!」
驚きの表情を浮かべ、敵は後退った。
「一瞬で俺の腕を吹っ飛ばしやがって……。絶対にぶっ殺してやる!」
「激昂する暇があったなら、防御するべきだったな」
敵が切断した腕を少し見た隙を使い、懐まで近づいた。そして《屍 大剣》を作り、切り上げた。
「舐めるナァ! 俺は『脊髄』。未来予知のスキルで……」
「避けるか。だが、これで終わりだ」
振り上げた状態で武器を作り変える。
「《屍 巨大槌》」
砂埃が舞い上がる。振り下ろした時に命中した手ごたえがあった。
「はあはあ。なんて、つよさだ」
すでに虫の息だが、それでも生きているとは思わなかった。まあ、生きていると言っても勝敗はもう決まっている。
「『翼』か?」
いきなり、質問されたが何を言われているか分からず首を傾げた。
「『始まりの教会』か?」
また知らない名前が出た。もしかして、こいつらが言っている『聖なる体』みたいに組織を聞いているのだろうか?
「俺は何処にも属していない」
「そうか。『脳』に報告しねえと……な」
男が息絶えた。
念のため、死体を回収する。
……殺してしまった。
今回は殺すか殺されるかの戦いだったから、罪悪感はそれほどなかったものの気分はよくない。
どれだけ不快でも、俺にはやる事が残されている。
「早く治療が出来る人の所まで運ばないと」
俺を守って致命傷を負ってしまった親父を治せる人の元まで届けなければいけない。
この世界には魔力やスキルといった俺の知らない力があるらしい。なら、他人を癒す力を持っている人間がいる可能性は大いにある。
負傷者を動かすのはあまりいい事ではないが、この森の中には魔物と呼ばれている大きな獣が住んでいるし、『聖なる体』とやらが近くにいるかもしれない。
ここに一人置いておくのは悪手だろう。
慎重かつ丁寧に親父を背負った。
「ひどい怪我じゃないか!」
「誰だ?」
白衣を着た黒髪の女が俺たちの目の前にいた。
「見ての通り私は医者だ。早く患者を見せてくれ!」
「あ、ああ。分かった」
「背中から一撃だな。主要な臓器がやられている。すぐ治療を開始する!」
医者の女が持っていたバッグを開けた。
「君は私が治療している間に護衛を頼む」
親父の服を切り始めた。医療の事はさっぱりだが、指示は単純明快。邪魔者を排除する。たったそれだけ。
信用は出来ないが、この状況で致命傷を治せる可能性があるのは彼女しかいない。大人しく指示に従うしか選択肢は無かった。
血の匂いに誘われて来た獣を屠って行く。
獣の大半は一撃で倒したが、一部の奴らは耐えて来た。肉だけなら切り裂けても皮膚が鎧のような硬い何かに覆われていたせいで多少手間取ってしまう時もあった。
幸い人間が襲ってくることはなかった。
護衛を始めて、数時間で治療が終わった。
「血管も臓器を完璧に治した。もうじき目を覚ますだろう」
「助かった。ありがとう」
「礼を言うなら、私じゃなくてこうやって出会った運命に言うといい」
確かに偶然この森を通りかかった医者がいなかったら、今頃親父は死んでいた。
「そういえば、こんな所に場所に医者が来ているんだ?」
「あ、うーん。私は調合師もやっていてな。今日は薬草を取りに来ていた」
「そうか。この恩はいつか返す。俺の名前はレイスだ。あなたは?」
「私はメディカ。医者や調合師として小さな店をやっている」
レイス。これは前世の名前で今の名前ではない。この《屍 外骨格》で偽りの体の時はこの名前を使う事にした。
「さて、自己紹介も済んだ。手術は成功したとは言え、万が一の可能性も考えて私の店まで運ぶ。手伝ってくれるな」
「ああ、勿論だ」
親父を背負い、更にメディカの持っていた薬草の入った袋を持ち森を抜けた。
「それにしても、レイスは相当強いが何かで名を上げていたりはするか?」
「いや、俺は無名の旅人だ」
「それだけ強ければ、引く手余多だろうな」
話していて分かったが、メディカは思った事や意見をハッキリ言う性格だ。強い言葉使いからも分かる通り、己の何かに誇りがあるみたいだ。
強い誇りは時に傲慢になってしまうが、メディカの誇りには誰かを見下すようなものは感じない。
好き嫌いが分かれる性格だが、俺にとっては好きな部類に入る。
信用する物証はないが、個人的な感情で判断するなら彼女は十分信用に足る人だ。
「あそこの町に私の診療所がある」
森を抜けてしばらくしてから町が見えて来た。
遠くからでも見える侵入者を防ぐための城壁の大きさや厚さからして、大きな規模の町だと分かる。
「私は町で少々顔が通っていてな。身分証が無くともすんなり通れる」
「そうか。それは助かる」
俺は生まれて数日も経っていないから、身分を証明する物を持っていない。もし、一人だったら正面から町に入れていないだろう。
協力してくれるメディカには感謝しきれない。
だが、一つ疑問に思った。
「なんで、俺たちにそんな肩入れをしてくれるんだ?」
俺とメディカの関係は森で偶然出会った位しかない。成り行きで治療はしてくれたが、町に入るまでここまで便宜を図ってくれるのはあまりにも都合が良すぎる。
恩もあるのでなるべく信用はしたいのだが、相手が人間となると前世の苦い経験から疑ってしまう。
まあ、もし仮に敵だとしても戦うことはしない。
「そんな事か。まず一つに医者として患者を放っておけない。そして、レイス。君に非常に興味があるからだ」
「俺に興味?」
「あの森にいる魔物を一撃で倒していた。あそこの魔物は総じて災害級。一体であの町を半壊させる化け物しかいない」
親父が一撃で倒していたから、そこまで強いとは思わなかった。
「まだ一撃で倒しただけなら、伝説と呼ばれる者たちなら成しえるだろう。しかし、君には魔力が一切ない。まるでこの世の理外の力を内包している。人体を研究する者としては興味深い」
「そうか、いい意味で変態で安心した」
「恩人に向かって変態とは。いや、それ以前に女性に向かって言うのは少し無礼じゃないか? 普通」
言葉では嫌がっているが、声では別に悪い気は起こしていない様だった。
こんな見ず知らずの俺たちを助けてくれるような人が普通でないことは感づいていた。
疑いは消え、町の中に入った。
門番の人達はメディカの顔を見て、すぐに俺たちを通してくれた。彼らからは敬意の眼差しを受けていたメディカはこの町ではかなり地位の高い人なのかもしれない。
もしかしたら、彼女が経営する店は想像以上に大きい可能性もある。
「ここが私の店だ」
それは、想像をはるかに下回る。いや、元々想像していたこじんまりした建物だった。
家族四人でぎりぎり住めそうな程の大きさの店は個人経営だと容易に想像できる。
「ベットは二つあるから好きな方に寝させてくれ。後、薬草を調合するから袋はあそこまで運んで欲しい」
指示通りの場所に荷物を置いてから、親父を寝かせた。
屋内に入って安心したのか、空腹を感じた。
そうだった。屍武器を使っている時には体力を消費してしまうんだった。
本来、赤ん坊の俺は体力が少ない。ただでさえ、そんな状況なのに戦闘をしてしまった。
餓死してしまいそうな程の空腹を自覚してしまいに意識が朦朧としてきた。
ベッドの上で、死体を圧縮してから体の内部に隠す。ちなみに武器にした死体を食べることは出来ない。食べた所で体が拒絶して吐いてしまう。
こうなったら、メディカを全面的に信じ甘える。
大きく息を吸ってから意識を手放した。きっと、大声で泣くだろうから後はメディカの優しさ次第で俺の生死は変わる。




