世界最強は次は旅人へ~でも、行く先々で便利屋として働いています~
俺はただの一般兵だった。しかし、ある日の戦場にてすべてが一変した。
後方に隠れて死体の回収をしていると、突然死体が発光して剣の形になっていたのだ。
当時は何がなんだか分からなかったが、その肉片の刃を握ると力が漲って来たことだけは今でも鮮明に覚えている。
死体から作られた武器は他の死体も吸収し、切れ味も俺に与える力もどんどん増していった。
力を得た俺は前線に行き、多くの敵兵を殺した。そして、その死体を武器に吸収させた。わざわざ、危険を冒してまで戦ったのは、敵兵の死体が少々足りない所で誰も文句は言ってこないからだ。
つまり、更なる力を求めてしまった。
初めて前線で戦った時は冷や汗をかいていたが、徐々に敵を殺す事が容易くなっていった。
戦って戦って、戦い続けて、俺は三大将軍の地位に上り詰めた。軍事に関しては王の次の決定権を持つ役職になった。
貰った勲章の数は五十以上は数えていない。
三大将軍の地位は想像以上で戦争国家だった我が国では、どんな事をしても不問とされる絶対権限を持っていた。
他の二人は王都から指示を出す命令を部下に命じて、自分は安全な場所で権力を使って欲を満たしていた。つまり、働かずして遊び頬けていた。
更なる力を欲していた俺は、何処の戦場だろうが足を運び敵兵を殲滅していた。
敵国からは大層恨まれていたかもしれないが、味方からは『英雄』や『勇者』なんて大層な呼び方をされた。
降伏をする国が増えてきた頃、俺の名は『世界最強』として知れ渡っていた。
俺専用の地位も用意され、領地やらお金やら権力やらを使い切れない程貰った。そして、連日のように求婚の手紙が届いた。
どの女の子も可愛かったり、美しかったりと男にとっては嬉しい事ばっかりだったが、会った女性の誰一人も俺の権力欲しさであって本当の愛は無いと感じてしまった。
誰にも負けない力を得た。そのお陰で欲しい物をなんでも得られるようになった。だが、『愛』だの『絆』などの形の無い物は何一つ手に入れることは出来なくなった。
皮肉にも、すべてを手に入れてしまった俺は欲しい物が手に入らなくなってしまったのだ。
数年後、すべての国のトップが集まった会議が行われたらしい。なぜ、推定なのかと言うと、密会だったからだ。俺には知らされていなかった。
その会議で俺が戦場に行く事を制限する条約が結ばれた。
なぜ、戦う事を抑制されたのかは分からなかった。それにこんな不利な条約に同意したこちらの王の考えもよく分からなかった。
その疑問の答えはすぐに出た。
「お前を国家転覆を図った疑いで捕らえる」
屋敷に三大将軍率いる兵士が来た時には全てを察した。
世界が俺を排除しに掛かっているという事を。
これは後々分かった事だが、俺が結婚をしなかったせいで最愛の人という最高の人質を取れなかったらしい。それで国が俺のコントロールを万が一が効かなくなった時に抑圧が出来ないと怖気付いたという事を知った。
誰かと結婚して子供がいて、安定した生活を望んで慎ましく暮らしていれば、こんな事にはならなかったかもしれない。
俺は一人になった。一応、他国に亡命をしようとしたが、どこも受け入れてくれなかった。
どうやら、世界は俺の事を『戦争好きのヤバい奴』として認識していた。反論の余地もない。弱肉強食の世界とは言え、あまりにも殺し過ぎた。
そして、最終的に俺対世界とかいう局面を迎えた。
朝、森の中で起きると暗殺者が真っ赤なロープで首を吊っていた。これは死体で作った《屍 トラップ》によるものである。
死体を武器に変える力は成長し、多種多様な物に変形する様になった。
とりあえず、死体で作った武器は《屍 武器名》という風に名付けている。もっとかっこいい名前を付けていたが誰かに『ダサい』と言われた辺りでこんな淡泊な名前に変えた。
《屍 トラップ》は殺意のある敵の首に巻き付いて木に登る習性のある蛇っぽい武器である。殺した相手の死体から更に武器を強化する。もう数人程度では大して能力は上がらない。
昼間にも捨て身の兵士が現れる。
ここ最近、ある場所へ誘導されている気がする。俺は兵士が来た方向とは真逆の方向に逃げているのだが、最近は特定の方角からしか来ていないのだ。
そして、俺が向かわされていたのはヘルメスの大草原だった。
戦争で幾度も無く使われた何にもない草原だ。
ヘルメスの大草原に着くと案の定、大量の兵士が並んでいた。一列だけでも数える気を無くす量なのに更に後ろにも大勢並んでいる。最低でも十万はいる。
俺一人を討伐する為にここまでやるとは。むしろ、ここまで来れば笑いが込み上げてしまいそうになる。
武器を展開する。
《屍 巨大槌》先端が軽く人間を超える大きさのハンマー。
《屍 防護服》全身を包み、剣や矢を弾く。名刀でもない限り防護服に傷を付ける事すらできない。
《屍 流星》周りを飛ぶ球体。高速で敵に発射され、金属の鎧だろうと貫通する。
同時に三つの武器を使う。
今まで戦争で対多数の戦い方は大体分かっているが、ここまでの数は難しいかもしれない。
雪崩のように兵士が襲い掛かって来た。
――――――
結論から言おう。勝ってしまった。
死体の山がヘルメスの草原に積み上がっている。一応、これでも手加減はしていた。本気で殺しに来た奴だけ殺して、なんの覚悟もしていない奴はある程度手負いにしてから放置している。
三日間戦い続けたが、俺にダメージを与える強者はいなかった。
剣術や戦術。数ですら今の俺の前では無意味に等しい。唯一対抗できるとすれば、俺みたいに『特別な』能力を身に着けた奴じゃ駄目だ。
悲しい限りだ。力を手に入れて、見捨てられて、今や空虚しか残っていない。
まあ、そう悲観する事ばかりでも無かったかもしれない。
俺を襲った兵士は国籍関係なく編成されていた。一体の化け物を殺す為に人類は一つになれたのだ。
……虚しい。
結局、俺はなんの為に生きたのか分からない。私利私欲のためと言えばそうかもしれないが、俺の心は満たされなかった。
逃亡生活の中でいくつかやりたい事が出来たが、それを叶えるためには既に時は遅かった。居場所が何処にもなかったせいだ。
もし、この戦いで死ねていれば、めでたしめでたしで絵本とかなら終わっているだろう。しかし、俺は生き残ってしまった。
俺の人生は一つの武器のせいで変わってしまった。
「あーあ。次はのんびり旅でもしてみたいもんだな!」
平原のド真ん中で声を上げる。
武器を見つめた時に気づいたが、周りの死体が腐敗し強烈なにおいを出し、草も茶色に枯れていた。
徐々に息苦しくなってきた。何をされたかを気付いた頃にはすべてが手遅れだった。
とどのつまり、毒をばら撒かれた。どういう原理かは分からないが、透明な毒がこの辺りを漂っていることは分かった。
内臓が熱くなってきた。こんなに痛いのは久しぶりだ。
こんな大量殺人兵器を作った学者は天才だろう。いや、それは教育を受けた事がない俺には分からない。
「作ったのは俺と同じ境遇になる同志に違いないな」
相手が天才じゃあなくてもただで殺される気はない。反撃はさせて貰う。
《屍 目》で視力を強化し、何かをばら撒いている集団を見つける。そして、偉そうに指示している奴を探し出した。
「《屍 剣》」
肉片で作られた真っ赤な剣を構える。向こうもこっちに気づいたみたいで我先に逃げ出そうと走りかけていた。
「逃がさねえよ」
世界最強と言われた男の投擲を舐めるな。ただの天才学者様が躱せるようなものではない。
標的の胴体に剣が突き刺さった事を確認してから、俺は吐血し、意識を。生を手放した。
――――――
もしも、死後の世界があるなら俺は地獄の最深部に行くだろう。殺した数だけなら誰にも負けていないはずだからな。
天国やら地獄なんて不確実なものを信じる余裕は生きている内には無かった。
今、俺は真っ黒の世界を漂っている。周りには何もなくあるのは己の体のみ。
この虚無の空間に幽閉され続けるのが罰なら比較的マシな方だろう。ここだけの話、拷問だけは死んでも受けたくはないと前世の時からずっと思っていた。
痛めつけられさえしなければ、前世を恨むことはないだろう。
数日ほど過ぎた。相変わらず何もない場所だが、一つ変化があった。
「なんだ? この像は?」
いつの間にか、黒い空間に見上げる位の大きさがある石像が建っていた。変な紋様やら、動物同士を合成したかのような、例えるならば邪神像のような形をしている。
こんな場所に突如現れた石像を放置していても何も起こらない。既に死んでいるし、ここで何をやっても怖くはない。それにこの石像に興味がある。
試しに触ってみた。
『聞こえるか? 我が僕よ』
突如、脳に声が響いた。




