表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
妹姫は護りたい!〜おひめさまの騎士道〜  作者: エカテリーネ安田
一章 お姫様にならないといけないんですか?
13/59

あなたをきっと【2】




 サロモン達はシェルツ家を出ると、すぐさま馬車に乗り込み、馬を走らせた。

毒々しく何色もの色で光る怪しげな石を馬車の動力に触れさせると、馬の足元を燃やす金色の炎が、ごう、と馬の全身を覆い、驚いた馬達が嘶く。


「どう、どう……! 良い子だから、全力で駆けてくださいよ」


 揺れる馬車の窓から顔を出し、フリートヘルムが声をかけると、主人の声に落ち着きを取り戻した馬達は、力の増した脚力で一気に空を駆け上った。

普段よりも何倍も多く流れ込んでくる精霊の力に慣れないのか、馬達の動きは荒く、馬車は上下左右に大きく揺れる。

どうにか椅子にしがみつきながらも、フリートヘルムは窓から地上に目を凝らした。


 雪化粧した山がぐんぐん近づいて、ジオラマの玩具のようだった木々が、その背の高さや葉の形が分かるようになる。

イチイの森を飛び越え、街道を見つけると、街道沿いに馬車を走らせる。


 しかし、やはりと言うべきか、シェルツ一家以外にもこの街道を使う人は多い。

通り掛けに街道を行く人を見かけると雪崩の危険性を伝えて退避させ、ついでに他の人と行き合えばそれを伝えるように指示しなければならなかったので、フリートヘルム達は思うように進めなかった。

二人は馬を止める度に内心焦りながらも、道ゆく人を見捨てるわけにもいかなかった。


 見たこともない豪奢な馬車に唖然とする村人を早く行くように急かしていると──離れたところで突然どおっと重い音が響いた。


 やはり、と思いながらも心臓が早鐘を打ち、フリートヘルムは馬車を飛ばせた。

雪崩に巻き込まれないよう高度を上げ、雪煙の立つ方向へ突き進む。

すると、一頭の栗毛の馬が引く荷馬車が目に飛び込んだ。


「閣下、あれじゃ!あれがシェルツ家の馬車じゃよ!はやく、早くお助けせねば!」


 サロモンはフリートヘルムの服を引っ掴んで揺さぶる。

 しかし無情にもその荷馬車は、雪の塊に今まさに押し潰されるところで──しかし、その寸前──何が起こったのか、荷馬車に迫る雪が、ピタリと動きを止めた。


「な……!?」


 突然の異変に、サロモンとフリートヘルムは思わずその光景を凝視した。


 雪崩は荷馬車の手前で動きを止めた雪塊に遮られ、後ろを流れていた雪が積み上がるようにして動きを止めていく。


──雪の濁流は、一瞬にして白い壁へと姿を変えた。


 ふとフリートヘルムが視線をずらすと、真白の雪の中に不自然にぽつんと、薔薇色が咲いていた。

雪崩の名残か、細かい雪風にふわふわとした薔薇色が舞う。

 そこに、馬車から女児が飛び出して駆け寄ると、雪の上に座り込む少女に抱きついた。

そこへ亜麻色の髪の男と、それから──きっと母親だろう。薔薇色の髪を揺らしながら、女が加わる。

四人は一塊になって抱き合い、互いの無事を喜んでいた。


 フリートヘルムは、それを目の当たりにして──言葉を失った。

彼が久しく見ていなかった温もりだった。遠い過去に置いてきて、そのまま忘れてしまったものが──不意に思い出されて、瞠目した。

今すぐに目を逸らしたいのに、逸らせない。そんな相反する感情が、フリートヘルムの胸を走る。

花の蜜(けんきゅうたいしょう)を王城へ連れて帰らなければならないのに、どうしてこの光景かぞくを、壊したくないと感じるのだろうか。



「何が起こっておるんじゃ……?」


 思わず、と言った様子でサロモンの口から漏れた疑問に、フリートヘルムは我に返る。


「……間違いなく、これは妖精のなせる技でしょう」


 尋常な事態ではない。学問塔で学んでいない村人は、精霊や妖精の力を多少借りることはできても、大きな雪崩を止めてみせるような──これほどまでの力を"引き出す"事は、できないはずだ。

であれば、この事態を引き起こしたのは、花の蜜に違いない。

 フリートヘルム達が様子を伺っていると、一羽の雄鶏が雪壁の上に瞬きの間に現れる。

 銀の鶏冠に、優美に垂れる長い尾羽。時を告げる雄鶏──時の妖精か、とフリートヘルムは合点がてんがいって──サッと血の気が引いた。

 妖精はその力をただでは貸さない。小さな隣人とのやり取りは、いつだって代償が必要だ。たとえそれが、花の蜜であったとしても。


「このままでは、あの()が──っ」


──もう一刻の猶予もない!

 フリートヘルムは一才の躊躇なく、空を飛ぶ馬車の動力たる精霊石の稼働を──”止めた”。




◆ ◆ ◆






「ナァ、何をくれるんダイ? お嬢ちゃん」


 楽しそうに右に左に首だけを器用に揺らす雄鶏は、マイラの背後から妖精を覗き見るエルフリーデから目を逸らさない。

 彼女は突然問いかけられて、どういう状況かも分からず、ただ困惑した。


「わ、私、何も……分かりません」


「精霊に助けてもらった人間は同等の"お礼"をしてくれなキャならン」


 ピシャリと、言い訳は無用とばかりに雄鶏は告げる。


「時を止めるのはとォっても大変サ。……あァ、久しぶりに銀の尾羽を何本か使っちまって、痛痒い上に寂シィ。元どおり生えてくるまで何年かかるかネェ?」


 チラチラとエルフリーデの様子を伺いながら、雄鶏は溜息を吐く。


「で、でも、私は、何も……持ってなくて……」


「ナァんでも良いんだよォ? 見合うものであれば。小生の尾羽の代わりに"蜜"の、そのカァいらしい桜貝の足の生爪を、使った尾羽の本数分でも、白くてやァらかい小指の一本でも」


 雄鳥の歌うようなおねだりに、ザッと頭から血が引くような気がして、身を固くしたエルフリーデはスヴェンの硬い胸にしがみつく。

スヴェンは丸太のように鍛え上げられた腕で小さく震える自分の娘を守ろうと固く抱きしめた。


「この子は……愛された思い出も、自分自身のことも、全て失ってしまった。もう何も奪わせたりしない。代償なら俺が──」


「ちょっと待った───ッ!!!!」


 スヴェンの振り絞った声は、青年の叫び声と、車輪と地面が衝突するけたたましい音に遮られた。


 金の炎を纏った白馬達は、急な落下に興奮し、すっかり落ち着きをなくして暴れている。

しかしよく躾けられているのか、不満そうに嘶きながらも、そう待たないうちに馬は落ち着きを取り戻し、そうしてようやく馬車の扉が開いた。


「お、お迎えの光がみえたわい……」


「私にも見えた気がします……」


 落下の衝撃で頭をクラクラさせながら馬車から這い出る村長と、烏羽からすば色の髪を乱し、息も絶え絶えな様子で足をプルプル震わせた青年が馬車から降りて──雪道に膝をついた。


「あ、あの、大丈夫ですか?」


 マイラが思わず声をかけると、青年はビッと手を突き出して『しばし待て』のポーズを取ると、息を吸って、吐き、乱れた格好を整えた。


「どうもお騒がせしてしまって、申し訳ございません」


 青年は取り繕うように爽やかな笑みを浮かべる。

真っ直ぐに切り揃えられた黒髪が彼の白く長い指に払われ、サラリと流れる水のように溢れると、それは一層青年の麗姿れいしを際立たせ──端的にいうと、青年は容姿の美麗さに任せて自分の醜態を誤魔化した。


「流石に百メートルほどの垂直落下だと死ぬかと思いましたね。ブレーキは掛けましたけど」


「わ、わしは……こんな絶叫体験するためにこれを設計したんじゃないわい」


「急を要したのですからしかたありません。私だって二度とごめんですよ」


 やいのやいのと言い争う村長と見知らぬ美青年の姿に、先ほどから予想もしない展開に圧倒され続けているシェルツ一家は、もはや言葉も出ない。


「一体なんだィ、アンタ」


 雄鳥の呆れたような声に、青年はハッと思い出したように動きを止めた。

彼は軽く咳払いすると、雄鶏に向かって優雅にお辞儀をする。


「私はフリートヘルム・ドレヴァンツと申します」


 ゆっくりと顔を上げて、青年は微笑む。


「時の妖精よ、この度は"私"の願いを叶えてくださって、誠にありがとうございます」


 青年──フリートヘルムは、チラリとエルフリーデを盗み見る。目が合った彼女がビクリと肩を震わせると、やれやれと肩を竦めて、雄鶏に向かって手を広げた。


「さぁ、取引の時間と致しましょう」




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング

ポチッと応援お願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ