紐無しバンジー、然るに自由落下
これからの職場となる第二課での挨拶を済ませ、運動場で魔法の訓練を行った翌日。
午前六時にしっかり初出勤を果たしたユイだったが、約三十分後にはその姿は南房総上空数百メートル地点にあった。
飛行するティルトローター機後方の開口部に立つユイは、既に換装まで済ませている。
そしてその背中に背負ったパラシュートパックからは、機内の天井へと繋がるアンカーケーブル。
つまりは、自動開傘索方式による空挺降下の直前といったところ。
機内には、やはり換装済みのメイカとサギリ。
「あのっ、メイカさん!これ、本当に、大丈夫なんですか!」
「大丈夫、過去十年間は、空挺降下での事故は、一度も無いから!」
十年以上前には事故があったみたいな言い方じゃないですか、ヤダー。
そもそも空挺降下なんて、練習も無しにぶっつけ本番でやるものではないだろう。
一応、機内で説明を受けはしたが。
「着地の、コツとかって…」
「遅い、さっさと降りてくれる?」
覚悟が決まらず、開口部ギリギリでまごつくユイ。
痺れを切らしたサギリが、そのへっぴり腰を蹴飛ばした。
そうしてユイの身体は勢い良く宙に放たれ、地球の重力の寵愛を一身に受ける。
「ひへっ?う、うぁぁぁぁぁっ」
正に紐無しバンジー、然るに自由落下。
情けない悲鳴を上げながら大空を舞うことおよそ五秒、ガクンと強い衝撃と共に落下速度が急激に減速。
無事に傘体部が開いたらしい。
フーッフーッと荒い息を整えながら、ユイは必死に肩の上にぶら下がるパラシュートを操作するためのブレークコードを両手で掴む。
やっとの思いで操作を、という時には既に森の緑がすぐ眼下まで迫っていた。
「っ!?まっがぁれぇぇぇっ!」
何とか大きくパラシュートを旋回させ、木々の剥げた林冠ギャップへと着地点をずらす。
「ぶべぇっ」
ユイは大きく振られたまま叩き付けられるように剥き出しの地面へ突っ込み、ゴロゴロと転がり突っ伏した。
「ふっ、だっさ」
慣れた様子で隣に着地した元凶が、その醜態を鼻で笑う。
「繧「繝ウ繧ソ縺ョ縺帙>縺ァ縺励g縺?′??っ!!!」
「ちょっ、何、うるさい」
「こ、殺す気か!」
「魔法少女なんだから、その程度じゃ怪我もしないでしょう」
そう言われ始めて気付く。
パラシュートは無事に開いたとはいえ、それなりの勢いで地面に突っ込んだ割に、怪我はおろか痛み特にない。
「いや、にしても蹴り落とすのはない!あり得ない」
「チンタラしてるのが悪い。これが緊急の任務だったら一刻一秒を争うことになるの、分かってる?」
「それは、そうかもだけど」
「大体、命懸けて戦う覚悟を決めて魔防隊に入隊したんじゃないの?この程度でギャーギャー怖がっていて魔獣と戦えるとでも?」
「ぬ、ぐぅ」
と、何も言い返せなくなったユイがぐぅの音を漏らしたところで、少し遅れてメイカが着地する。
「うん、ユイちゃんも初めてにしては上手く降りられたみたいね」
「いや、地面に顔から突っ込んだんですけど……」
「木々に引っ掛からないで、ここに着地出来ただけでも上々よ。パラシュートは外して、その辺りに纏めておきましょうか。後で自衛隊が回収してくれるから」
自衛隊機が着陸出来るなら、何故パラシュートで……
いや、訓練なんだろうけど。
もう少し段階を踏んで欲しいところだ。
「今のうちに軽く説明しておくと、今回の任務は予防討伐。主目的はこの辺りで確認されたライカンの群れの殲滅よ」
「ライカン、ですか?」
「一言でいえば、二足歩行する狼ね。群れは丙種一級に指定される原生魔獣」
「えっと、原生魔獣、ですか?」
丙種一級という危険度の指標は何となく把握しているが、原生云々というのは初耳だ。
危険度以外にも魔獣の区分があるのだろうか。
「あれ、聞いたことない?」
「はい」
そんな疑問に隣のサギリから呆れた視線が飛んでくる。
視線に込められている内心は、そんなことも知らずに入隊したの?といったところか。
「貴方、そんなことも知らずに魔防隊へ入ったの?」
予想的中!模範解答と言っても差し支えないだろう。
正解したところで嬉しくはない。
「えっと、じゃあ魔獣化現象に関しては知っているかしら?」
「はい、それなら。生物が姿形を変えて人間を襲うようになる現象ですよね」
「その通り。そうして魔獣化現象によって発生した魔獣を新生魔獣と呼ぶの。そして不思議なことに新生魔獣は変生した一代に限りの種で、その生殖活動によって産まれ落ちた次代は異なる種、原生魔獣となる」
「ちなみにその原生魔獣が繁殖した場合は…」
「同じ原生魔獣が産まれるわ」
つまり原生魔獣は、新生魔獣によって産み落とされ繁殖、その地に定着してしまった魔獣のことか。
「原生魔獣は基本、新生魔獣に比べて危険度は落ちるけれど、数が多いから生存圏へ出てこないよう定期的に間引く必要があるという訳」
と、話をしているうちにパラシュートを並べ終える。
「今回も主目的はライカンの群れの殲滅だけど、その過程で他の原生魔獣を見つけたら積極的に討伐することが推奨されるわ。例えばあんな風に」
そう視線を向けた先、草木の間の奥の方からは、こちらへ突撃してくる巨大な豚が一頭。
「それじゃあ早速、実戦研修といきましょうか」
「え?いや、そんな急に言われても…って、なゃぁぁぁっ」
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やっと、主人公が魔獣と戦います。




