刀は男の子の浪漫
「ということで、やってまいりました運動場!」
「貴方、誰に向けて話してるの?」
「固いなぁ、サギリンは。こういうのはノリが大切なんですぜ、旦那」
「誰が旦那よ」
昼食を終えた四人の姿は、本部の裏手に併設されている運動場にあった。
分厚いコンクリートの壁にぐるりと囲まれた、楕円形のグラウンド。
随所には訓練用であろう装置も見受けられる。
壁は三階建てくらいの高さがあるものの、サッカー場が余裕で収まりそうな広さのおかげか、閉塞感はそこまで感じない。
「ということで、まずはユイちゃんの魔法から見せて貰える?」
そんなグラウンドの一角で、早速本題に入るメイカ。
「分かりました」
一夜を経て早くも当たり前のモノとして意識することもなくなった、緩やかに身体を巡る魔力。
その源たる魔臓へ意識を集中させれば、魔力の流れは高まり溢れ出したソレが殻のように身体を覆った。
そうして換装を済ませたユイは、魔力を掌へ収束させ、まずは結界片を展開して見せる。
「これが結界の欠片、です」
「欠片ってことは、まだ結界ではないのよね」
「はい、これだけだと凄く脆いので」
結界片はとても障壁として成り立つような強度ではない。
「うわぁ綺麗だねー、ユイユイの魔法」
と、興味津々なイロハが指でツンツンと突いただけで、割れて崩れてしまう程度。
「あっ!ごめん、壊しちゃった……」
「大丈夫。これだけなら、ほとんど魔力も喰わないから」
もう一度結界片を展開し、今度は四枚に複製。
それを正四面体の形に構築する。
「こんな感じで立体の形に組み立てることで、初めて結界として成り立つみたいです」
「それが結界、と。欠片の時より強度があがるって認識で大丈夫?」
「比べ物にならないと思います。あと、結界自体も構築した形状によって強度が変わるみたいで」
「形状によって?」
「例えば…」
四面結界を一度解体し、更に結界片を複製。
十枚の欠片で構築するのは、デルタ十面体と呼ばれる双五角錐型。
「こうすると、多分さっきの四面結界より頑丈です。ただ強度の高い形状程、構築と維持に掛かる魔力と負荷も大きくなります」
「なるほど、面白い性質ね。うん、じゃあ少し試してみましょうか」
「えっと、試すって何を?」
そう聞き返した瞬間、メイカの姿がジジッとぶれ、その装いが一変する。
端麗な着物のようなシャツとラップスカートに、和靴とでも呼ぶべき独特の意匠が施されたブーツサンダル。
和風モダンで華やかな換装だ。
思わず目を奪われるユイを尻目に、メイカは右手で指鉄砲を作りそれを結界へと向けた。
そして、バチンッという大きな音と共に一筋の太い電撃が走る。
っ!?
指向性を持って放たれた放電は、結界に弾かれ霧散。
「確かに中々の強度ね」
「今のって……」
「そう、私の魔法。雷の放出と操作よ」
雷を生み出し操る魔法。
非常に分かりやすく、それでいて間違いなく強力であろう魔法だ。
ユイからすると、少し羨ましくもある。
何せ雷を操るなんて、あまりに格好良い。
「私も試してみて良い!?」
と、ワクワクとした表情でそう詰め寄るイロハ。
良い?と疑問形ではあるが、いつの間にか換装も済ませており、断られるなどとは考えていない準備万端といった様子。
その換装は、お腹の見えるインナーシャツに脛丈のバギーパンツ、 ダボっとしたテックウェアパーカー。
サイバーファッションと呼ばれる類の雰囲気の衣装に、手にはゴテゴテとした固そうなグローブを嵌めていた。
「あー、うん、良いよ」
「よーし、行くよっ」
了承を得たイロハはそう意気込むと拳を大きく振り上げ、その後方で空間がグニャリと歪む。
そして、現れたのは身の丈ほどもありそうな巨大な鉄の拳。
「へ?」
グローブが拳を振り切るのに合わせて、鉄の拳もまた結界を真正面から打ち抜いた。
巨大な物体がぶつかったには似つかわない、リーンッという鈴のような音が幾重にも重なり響く。
「んぐぐぐぐ…やぁっ!」
数秒間の押し合いの後、
あ、これ破られるな。
結界はその質量に耐え切れず崩壊した。
「よーし、どうよ!」
と、イロハが両手を腰に当て胸を張りドヤリと宣言する。
一方のユイは、そんなことより自身のすぐ脇を通り過ぎた鉄の拳に肝を冷やしていた。
その風圧と迫力は、まるで目と鼻の先を猛スピードのトラックが通り過ぎたかのよう。
あんなものが直撃したら交通事故だ。
「ユイユイ、これが一番頑丈な結界?」
その言葉と表情からは、まだ上があるなら試してみたい、という好奇心がありありと滲み出ている。
「勘弁してください」
「何で!?」
検査の際に色々と試した結果として、無理のない負担で最も強度を担保出来そうだったのが、今の双五角錐型だ。
これ以上となると、構築に必要な魔力量も、維持の負担も大きく上がる。
魔力切れが命に関わるとクルミに聞かされたのもあって、ユイは魔力の使い過ぎにはかなり敏感になっていた。
あとは何よりも、もう肝を冷やしたくない。
と、そこに、
「まだ、私が試していないんだけど」
横から不満そうな表情で口を挟むサギリ。
学生服を思わせる雰囲気の可憐なブレザースカートに、編み上げブーツ。
食事の時の我関せずといった態度はどこへやら、こちらもいつの間にか換装済みだ。
「一番、頑丈なのを出して」
「いや、あの勘弁してほしいって…」
今、目の前でイロハの申し出を断ったところを見ていなかったのだろうか。
「早く」
「…はい」
が、有無を言わせぬその圧に結局、屈するユイ。
力が、何者(の圧)にも負けない力が欲しいっ。
そんな訳で、展開した結界片は全部で二十。
先程の二の舞にならぬよう、今度は自分から少し離れた場所に結界を構築する。
結界が形作られてゆくのに合わせ、莫大な魔力の収束に空気が陽炎のように揺らめいた。
その異例とも言える視覚的に感知できる程の魔力放出に、イロハとメイカが関心を露にする。
「これが、今の、限界です」
気を抜けば内側から破裂してしまいそうな、それを全力で押し込めているような感覚だ。
サギリは結界を見据えて「へぇ」と目を細め、右手を前に突き出す。
その掌には、いつの間にか一振りの刀が握られていた。
彼女はソレを構え、大きく息を吐く。
何か、刀が、出てきた!?
突然現れた刀が気になるユイだが、今は結界の維持に手一杯。
何かするならサッサとやって終わりにして欲しいのだが、
「……」
サギリは刀を構え、結界を睨みつけたまま動かない。
「あの、ちょっと、早く」
「…静かに」
そうして辛く長い沈黙の後、サギリの踏み込みと共に、刃の鈍い光が煌めいた。
刹那、ユイは見るまでもなく、自身の結界が真っ二つに両断されたことを知覚する。
それから一瞬遅れて、形を保てなくなった二十面体が、断面から崩れるように消え去った。
結界の維持から解き放たれたユイは、大きく深呼吸をして地面に座り込む。
一方で、見事に結界を両断して見せた筈のサギリも何故か、精魂尽き果てたように膝を付き肩で荒い息をしていた。
「サギリン、無理するからー」
「無理、じゃない、わ」
「にしても、サギリちゃんがここまで魔力を振り絞らないといけないとは、今の形状は相当な強度みたいね」
「そこそこ、でした」
それにしても、
「サギリンの魔法はね、視界内で自分の魔力の及ぶなら何でもバッサリ斬れるんだ。物騒だよねー」
息の上がったサギリに代わり、そう説明しながら笑うイロハ。
先程、彼女の魔法である鉄の拳をスレスレで体感したユイとしては、物騒なのは貴方もですと言いたいところだが、
いや、そもそも魔法自体が物騒な力だったな。
そうクルミから説明を受けたのを思い出す。
今はまだ実感がないが、自分の結界も使いようによっては危険なモノになり得るのだろう、と。
「そういえば、さっきの格好良い刀も魔法で?」
何でも斬れる魔法というのは凄まじいが、ユイとしては魔法行使の際に現れた刀が気になるところ。
如何せん、格好良い。
何なら雷より格好良いかもしれない。
刀というのは何時の時代も、男(元)の子の心を擽る代物だ。
「換装武器よ」
深呼吸を繰り返し、サギリも少し息が落ち着いて来た様子。
受け答えは相変わらず不愛想だが、先程までよりほんの少しトゲトゲしさも抜けたような気がする。
「換装武器?」
「魔法と換装が結びつくと形作られる、個々の魔法少女専用の武装。単なる武器としてじゃなくて、魔法行使の補助具としての性能もあるから、貴方も早く使えるようになることね」
換装と魔法を結び付けるとはなんぞや。
よく分からないが、魔法少女には個々に専用の武器があるらしい。
専用武器というのは、浪漫があって良いことだ。
叶うことなら、自分の換装武器も刀であって欲しい。
ユイがそんなことを考えていると、
「さて、私とサギリちゃんは今後ユイちゃんと同じ班でやっていく訳だし、イロハちゃんとも合同任務で一緒に戦う事もあるだろうから、お互いをもっと良く知るためにも、もう少し色々と試してみましょうか」
と、メイカが良い笑顔で提案する。
何故か若干表情を引き攣らせたサギリとイロハが何か口にしようとするが、
「はい!よろしくお願いします」
時すでに遅し。
ユイの返答をもって、四人は待機時間の終了までたっぷり五時間程、運動場で魔法の訓練に励むこととなった。
もう少し、とは。
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来週は普通に一話のみの投稿になると思います。




