鶏むね肉は下処理が肝心
魔防隊大島本部の二階。
木目調で落ち着いた雰囲気の食堂は昼時ということで賑わっており、対策省の職員や他の課室所属であろう魔法少女の姿も見られる。
その入り口で、ユイは立て看板のメニューと睨めっこをしていた。
第二課事務室での顔合わせを終え、まずは本部内の案内も兼ねて食堂で昼食をという流れだ。
メニューには十種類ほどの料理が並んでいるが、今はガッツリと肉を食べたい気分。
チキン南蛮定食にすべきか、とんかつ定食にすべきか。
「ユイちゃん、決まった?」
そんなメイカの声掛けに腹を決める。
今日はチキン南蛮にしよう、と。
決め手は甘酸っぱくこってりしたタルタルソースだ。
「はい、決めました」
「じゃあ、注文はあそこね」
食堂の奥のカウンターで注文を済ませ、決済端末へ身分証をタッチする。
なんと魔防隊の身分証、この本部と特区内の一部施設においてクレジットカードとして使用可能らしい。
使用額分は自動的に給与から差し引かれるとのこと。
何やらお金持ちにでもなって贅沢をしているようで、少しドキドキする。
ちなみに定職は一律五百円、ワンコイン価格だ。
揚げたてのチキン南蛮に麦ご飯、サラダとみそ汁の乗ったお盆を受け取る。
「ユイユイっ、こっちこっち!」
食堂の一角でそう手を振るのは、これから同じ第二課所属の同僚となる魔法少女、イロハだ。
「ユイユイ?」
「そ、ユイちゃんの呼びかた。私のことも好きに呼んで良いよ!あ、チキン南蛮にしたんだ。美味しいよねー」
ミニショートの髪型に屈託のない人懐っこそうな笑顔は、彼女の社交的な性格が良く表れていた。
「ちなみにサギリちゃんは、サギリンだよ」
「私はその呼び方を許可した覚えはないのだけど」
斜め前の席で不機嫌そうに、けれど同時に何処か諦めも混じっていたような態度で答えるサギリ。
「サギリン…すみません、もう言いません」
と、ユイが思わず呟きを溢した瞬間、飛んできたのは虫程度なら睨み殺せそうな絶対零度の視線と強烈な圧。
即座に謝罪を決め込むことで、何とか難を逃れる。
「親睦を深めるのは良いけれど、まずはご飯にしましょう」
メイカの言葉に四人は「いただきます」と手を合わせ、それぞれの料理に手を付けた。
イロハの注文はビーフシチューの掛かったオムライス、サギリとメイカは二人ともかき揚げの乗った冷たいうどんだ。
先程第二課の事務室にいた残りの二人、ランとアミはそれぞれ昼食の用意があるとのことで、食堂には足を運んでいない。
もしや自分が歓迎されていないのでは?と一抹の不安が過ぎったユイだが、イロハ曰く二人とも普段からあまり食堂は利用していないとのこと。
ちなみに梁嶋室長は悲しきかな当然のように、誰からも誘われず完全にスルーされていた。
ユイも早速、チキン南蛮を口に運ぶ。
パリっとした衣と肉汁溢れる鶏肉が歯ごたえ抜群。
ユイにも馴染み深い香りや食感からしておそらく胸肉であろうが、全くパサついておらずジューシーな味わいだ。
甘酸っぱいタルタルが絡み、ご飯が進むこと進むこと。
「ユイユイも、あたしに敬語は使わなくて良いよ。多分、サギリン、あとアミも同じくらいの歳だろうから」
オムライスをはむはむと食べ進めながら、イロハがそんなことを口にする。
勝手に名前を出され、うどんを啜りながらも何か言いたげな表情を浮かべるサギリだが、
「あら、イロハちゃん。私は年寄りだってことかしら」
彼女が口を開くより早くメイカがそう言って少し意地悪そうな笑みを浮かべた。
「い、嫌だなぁ。そんなこと言ってないですよ、メイカさん。ね、サギリン!」
「ちょ、何で巻き込むのよ」
と、焦る二人を見てご満悦な様子だ。
「フフッ、冗談よ。実際、もう魔法少女としてはロートルもロートルの部類だし。そろそろ引退を考え始める歳だからね」
「またまたー、メイカさんはまだまだやれるじゃないですか」「メイカさんには、私が魔導佐に昇格するところまでは見て頂かないと」
などとワチャワチャと盛り上がる三人。
一方でユイの頭の中を占めていたのは、"魔法少女としてはロートル"という言葉について。
少女なのにロートルとは此れ如何に、と。
たった一文に芸術的な矛盾が含まれている気がするが、流石にここでそれを口にするような空気の読めない人間ではない。
その疑問は心の中に留め置いておく。
「そういえば、まだユイユイの魔法について聞いてなかったよね。どんな魔法を使うの?」
「おr…じ、自分の魔法は、結界?みたいなのを構築して操作する感じで」
そんな中で急に話を振られ、思わず"俺"という一人称を溢しそうになるユイ。
自身の現状を鑑みて咄嗟に言葉を飲み込み、上手いことお茶を濁しながらそう答えた。
「結界って、あの神社とかお寺とかで魔を払う、みたいな?」
やはり皆、結界と聞いて最初に思い浮かべるのは似たようなモノのようだ。
「いや、もっとこう直接的というか。こう三角形の欠片を組み立てて結界を作る感じで」
「三角形を、組み立てて?」
身振り手振りで説明するも、イロハには上手く伝わっていない様子。
そもそも結界という概念が馴染み深いものではなく、明確な定義が為されている訳でもない為、言葉で説明しようとすると難しい。
「まぁその辺りはこの後、実際に見せて貰いましょう」
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主人公が食って喋ってばかりで話が進まないので、もう一話投稿します。
ちなみに鶏むね肉は塩糖水にしばらく漬けてから、しっかり水気をふき取って調理するとパサつきづらく、衣で肉汁が逃げるのを抑えられる揚げ物が特におすすめです。




