おじさんの肩身は狭い
「それではユイさん、私はここで一度失礼致しますが、何かあれば先程お渡しした携帯電話からご連絡ください」
「あ、はい。ありがとうございました」
相変わらずの丁寧さでお辞儀をして、その場を後にする咲。
「じゃあユイちゃんはこっちへどうぞ」
ユイは第二課の事務室へ迎え入れられる。
部屋には白と黒を基調に木目柄を取り入れた内装にデスクチェアが並び、寮室とは異なる無色透明な大窓が快晴の陽光が明るく照らしていた。
一見すれば洗練されたオフィスといった様相。
ただ異質な点は一つだけ、デスクに腰掛けているのがスーツのサラリーマンではなく、制服に身を包んだ魔法少女達であるということ。
「それじゃあ…」
「今日からうちに所属する新人の子ね」
と、梁嶋を押し退け姿を見せたのは、目の透くような明るい青白色の髪をポニーテールに纏めた麗女。
年齢は高校生くらいに見えるが、彼女も魔法少女であろうことを考えれば容姿は当てにはならないだろう。
あれ?何処かで……
ふと、その姿に何処か薄っすらと既視感を覚えるユイ。
が、その答えに辿り着くことは出来ず、
「本日からお世話になります、永留ユイです。よろしくお願いします」
取り敢えず目の前の彼女とこちらに注目する全員へ向けて、自己紹介を済ませる。
「私は松井メイカ、階級は二等魔導佐。よろしくね」
そう名前を聞いたところで、ユイは先程の既視感の正体に辿り着いた。
あ、松井先生だ。
髪色や制服でピンと来なかったが、彼女は病院で主治医だった松井彩華とよく似ている。
「あの、松井さんってお姉さんとかいたり……」
「あら、もしかして病院で彩華と?」
やはり、関係があったらしい。
「はい、お世話になりました」
「フフッ、あの子が助けになったなら良かったわ」
メイカはそう言って嬉しそうに笑い、それからスッと唇に人差し指を当てて見せた。
「でも、魔法少女の個人情報に繋がるような話は、あまり軽率に口にしないように気を付けてね」
「え、あ、すみません!」
そうだ、家族構成というのは個人情報の最たるもの。
あまりに軽率な言動だったことを自覚し、慌てて頭を下げる。
「この事務所内ではそこまで気にしなくても大丈夫だけれど、外では何処に耳があるか分からないから。あと、魔防隊ではお互いを呼ぶ時も苗字はNGだから、名前で呼んで貰えると助かるかな」
「はい、分かりました。メイカさん」
「よろしい。ちなみに彩華は私の姉じゃなくて、妹よ」
!?
姉妹であることは合っていたが、関係は逆だったらしい。
となると目の前の彼女の年齢は……
なんてことを考えたところで、酷く悪寒のする圧を感じユイは思考を打ち切る。
「あの、メイカちゃん。そういう魔防隊の話は、今から僕がしようとしていたところなんだけど」
そこへ手持無沙汰になったのか、困ったように口を挟む室長の梁嶋。
「室長に任せると話だけ長引かせた挙句、重要な点を伝え忘れたりするじゃない。あぁそうそうユイちゃん、さっき室長が魔法少女じゃなくて、ただのおじさんなのが不思議って顔していたでしょう」
が、そう一蹴され少し凹んだような声音で「ただのおじさんって…」と呟いた。
確かに先程迎えに出て来た梁嶋を見て、ユイが意外に思ったのは事実だ。
魔防隊が魔法少女による実力組織である以上、その隊員も基本的には全員、魔法少女で構成されていると思い込んでいたため。
まぁ元男のユイとしては完全に女性だけの職場より、一人でも男性もいる方が有り難いが。
「魔防隊では慣例として、各課室の室長に魔獣対策省本庁の職員が就くことになっているの。まぁ何か問題が起きた際の体の良い生贄ってところ。戦力となる魔法少女のクビを切る訳にはいかないから」
「いや、一応僕も色々と情報を纏めたり、任務ごとに誰が一番適任かを判断したりやっているんだけど」
「そういうことで室長と言っても名ばかりだから、かしこまる必要はないわ。普段は使い走りにでもして良いから」
そんなメイカの言葉に、ユイは何となくこの第二課における梁嶋の立場に察しが付く。
女所帯において少数派の男というのは、肩身の狭いもの。
特に現場に出て戦う魔法少女に対して、この事務室が主な仕事場になるであろう室長ともなれば尚更だ。
会ったばかりだが、同じ男性(だった者)として思わず同情心が沸く。
頑張れ、梁嶋室長。
意気消沈の梁嶋に、心の中で声援を送るユイ。
空気を読んで口には出さないが。
「さて、魔防隊の活動は二人班か三人班を組むのが基本の形。ユイちゃんは私の下について貰うことになるわ。私の班はユイちゃんを加えて三人班ね。もう一人は彼女、サギリちゃん」
メイカに呼ばれ、濡羽色の黒髪を肩甲骨あたりまで伸ばした少女が、半ば渋々といった様子でユイの前まで歩み出た。
「二等魔導尉の悉夜サギリ。足だけは引っ張らないで頂戴」
サギリのそんないきなりな挨拶に、ユイは思わず面食らう。
「あ、はい。頑張ります。出来るだけ。えっと、サギリさん」
今まで戦いなんてしたことがない中でどれだけ役に立てるかは怪しいが、努力義務といったところだろうか。
「さん、は辞めて」
「えっと、サギリちゃん」
「何か気持ち悪い」
「じゃあ、どうしろと!?」
名前を呼ぶことすら許されないらしい。
「うん、二人とも仲良くやっていけそうね」
笑顔でそう言い放つメイカに、何処が!?と目を剥くユイだが、メイカは気にせず説明を続ける。
「第二課の所属班は私達を含め全部で三つ、まずあっちの…「加我ランですわ!階級は三等魔導佐ですの、どうぞよしなに」
と、立ち上がり胸を張って名乗りを上げたのは、金髪縦ロールのお嬢様。
決まった、と自信満々な笑みを浮かべながら器用にカーテシーをして見せた。
「それから、こちらの二人が、私の班のイロハさんとアミさんですわ」
「二等魔導尉の白銀イロハだよ。よろしくね」
「さ、三等魔導尉の軽逆アミです。よろしくお願いします」
どうも、あちらもユイ達と同じ三人班のよう。
「…って感じね。あとの二人は任務が長引いているみたいだから、戻ってきたら紹介するわ」
そして今は留守にしている二人班を合わせ、この第二課に所属する魔法少女は現在七人いるらしい。
ちなみに梁島はもう口を挟むことを諦めたのか、後ろでしゅんと静かにしている。
何とも哀愁を感じる姿だ。
「さて、ここまでで何か聞いておきたいころはあるかしら?」
「えっと、じゃあ、その、皆さん髪って染めている感じですか?」
この部屋に入ってから、ユイが一番気になっていたこと。
皆、凄い髪色だなぁ、と。
そんな質問に、メイカは思わずといった様子で笑みを溢した。
「ン、フフッ。あぁごめんね、まさか最初に気にするのがそこだとは思わなくて。こう見えて髪は地毛よ、皆ね。ユイちゃんは換装ってもうしたことある?」
「はい。魔法の検査で一回」
「その時、髪色が変わったでしょう?換装を繰り返すと、段々それが定着して戻らなくなるの」
となると黒髪のサギリはまだ新人、ということだろうか。
そんな視線に気付いたのか、
「私は換装した時の髪色がコレよ」
彼女は酷く不機嫌そうにそう口を開く。
「いや、特に何も、言ってないです」
「視線で分かる。舐めないで」
「…すみません」
助けて下さい、メイカさん。仲良く出来る気配がありません!
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