転校初日・二時限目休み時間
結論から言うと、俺は授業に遅刻した。羽柴は走れば間に合うと言ったが、それは半分本当で半分嘘だった。
体力測定で50メートル走を平均タイムで走る俺と、途中から後ろ姿が見えなくなるほど俊足の羽柴では到着時間が異なるのは当然で、転校初日から授業に遅れる失態をした俺は教師に叱責を受けるはずだった。
「トイレにいました」
俺の名前のことで事情を察した教師が哀れみの目を向けて、「無理しないように」と慰めてくれた。名前に救われたのは初めてだ。
「ごめんごめん」
「それは何に対しての謝罪だ?」
「えっと、ごめん」
二時限目が終わって非常階段に行くと、すでに羽柴がいて顔を合わせるやいなや謝ってきた。
俺は怒っていないが、羽柴には不機嫌そうに見えるのだろう。手を合わせて頭を下げる羽柴を見下ろして溜め息をついた。
そして羽柴の後ろにいる坊主頭の巨体に視線を向けた。
俺が来たことに気づいているだろうが、背中を向けて座ったまま何も言わない。
「あ、小山は今早弁中。朝練の日はここで早弁するんだ」
「そうか。この学校は部活に入る必要があったな。羽柴は軽音楽部か?」
「俺はコーラス部」
「バンドをやっているんだろ?」
「ああ、バンドメンバーはバイト先で知り合った人たちで全員が年上。コーラス部に入ったのは歌の基礎を学ぶためと週二しか活動しないから」
「なるほど」
「織田は決めてるのか?」
「いや、だから参考に聞こうと思って」
「前の学校は?」
「帰宅部だった」
「趣味は? 好きなことや興味あることはない?」
「……尋問みたいだな」
俺が睨むと羽柴は慌てたように頭を振って否定した。必死に言い訳している。猿のおもちゃみたいで面白い。
一方、小山は重箱並の弁当をかきこんでいる最中だ。短い休み時間で食べきれる量ではない。
半分残して昼に食べようと思わないのか、見ているだけで胸やけする。
「織田、聞いてないだろ?」
「ああ。それより小山は運動部なのか?」
「俺の扱い雑」
「ひくほおふは」
「何を言っているのか分からん」
「小山は陸上部のやり投選手で全国大会に常連出場してる凄えやつ。昼練もしてるから教室から見えるぞ」
「格闘技をしているのかと思った」
「この体格だもんな」
「なぜ農高に入ったんだ?」
ここへ引っ越す前に一通りの高校を調べたとき、スポーツ強豪校もあった。県内外から特待生が集められ、寮生活を送りながら世界を目指す。小山ならば通えたはずだ。
「俺は馬術部に入るために農高を選んだ。が、中三の三学期くらいから急に成長期がきて、体験入部で乗馬できる馬がいなかった」
空になった弁当箱を片づけながら、小山は心底悔しそうな表情で言った。口の端に米粒ついてるぞ。
「けど、全国大会で優勝したら、おまえ専用のデカい馬を入れてくれるって聞いたぜ」
「ああ、校長が約束してくれた。だからインハイは絶対に優勝する!!」
凄まじい気迫だ。全身から熱気がほとばしっている。思わずたじろぐと、小山が巨体を震わせて快活に笑った。
「織田信長を驚かせたこと、試合の励みになる!」
「オリタだ。間違えるな」
「織田、俺は小山信茂という。よろしく頼む」




