転校初日・一時限目休み時間
転校生の俺が逃げ隠れできる場所なんて限られている。
好奇心丸出しで追いかけてくるクラスメイトたちをかわし、全速力で走ってたどり着いた非常階段の踊り場で、俺はピンク頭と鉢合わせした。
「おい! 逃げんなって!」
「なぜここにいる?」
「だってここ俺の場所だから」
「そうか。邪魔したな」
「待て待て! 追い出すつもりねえから」
ピンク頭に腕をつかまれて、俺は足を止めた。意外と力が強い。
「立ったままだと見つかるぞ。座れよ」
「それで?」
「何が?」
「俺を引き留めたのには理由があるだろ?」
「別に」
「そうか」
教室で初めて見た時は、その派手な外見から絶対に関わりたくないと思ったが、実はまともなのかもしれない。
俺は二段上の階段に腰を下ろして息をついた。
遠くで賑やかな声が聞こえる。ここだけ切り離されたように静かで、少しだけ肌寒い。吹きさらしの非常階段では春の日差しはまだ弱い。
「ここ静かだろ? 音楽作るのに最適なんだ」
「作曲しているのか?」
「俺、バンドマンだから。ライブする時は来てくれよ」
「気が向いたらな」
「ははは、織田は面白えな」
「初めて言われた。えっと、」
「羽柴だ。よろしく」
「ああ」
「ところで信長って誰がつけたんだ?」
このタイミングで聞くのか。抜け目ないやつだ。
俺は羽柴を見下ろして目を細めた。
「祖父と母だ」
「どういうこと?」
「祖父は信長にしたかったらしいが、母が信長にした」
キラキラネームが流行する中で生まれた俺は、歴史オタクの祖父と異世界ラノベ好きの母のせいで居たたまれない名前になった。
幼い頃は問題なかったが、小学校高学年になって歴史の授業が始まると一斉にいじられる対象となった。
それが原因で中学時代は多少荒れたが、祖父が亡くなったあと両親は離婚し、ここへ引っ越してきたことで吹っ切れた。
「他には?」
「何が?」
「俺に聞きたいことがあるんだろ?」
「いや、知りたかったことの答えが聞けたから十分」
「そうか」
そういえばホームルームで聞かれた時に答えていなかった。抜け目ないが筋は通す男のようだ。
不意に羽柴が立ち上がって背筋を伸ばした。
「いいことを教えてやる。チャイムが鳴り始めてすぐに走れば、次の授業に間に合うぜ」
「それはありがたい情報だ」
俺を振り返って、ニヤリと笑った羽柴が駆け出すと同時にチャイムが鳴った。




