↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
嘘告されるらしいので、楽しんでみることにした  作者: ユタニ
第二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
36/40

36.それぞれの気持ち


デュート社からの帰り、馬車に乗り込んだリオネルは緩みそうになる口元を手で覆った。

二度三度息を吐いてから手の下で事実を確認するようにゆっくりと呟く。


「あのイヤリング、持っててくれてるんだ」

ドレスや靴と共に貰ってくれと押し付けたのは自分だ。

デイジーは贈り物を売り払ったりするような人ではないし、持っていて当たり前なのだが嬉しかった。


それに持っているとしても、実家の奥深くに保管していると思っていたのだ。わざわざ王都に持ってきているなんて、おまけに大切そうに出してきたなんて、どうしたってにやけてしまう。


「しかも、付けるんだ」

直に肌に付けるなんて、自分を少しは想ってくれているんじゃないだろうか……。

そう考えてからリオネルははっとした。


(思い上がりはよそう。女の子って別れたら他人らしいし)

ゆるゆると首を振る。


自分はすっきりと振られたのだ。

デイジーは優しいから、他人だと思うほどに無関心にはなってないと信じたいが、想われてはいないだろう。もし想ってくれてるなら王都に戻ってきた時に知らせるくらいはすると思う。


(嫌われてはいないと捉えておこう)

それくらいがいい。

嫌いな男に贈られたイヤリングなら王都に持ってこない。ましてや身に付けたりなんかしない。だから嫌われていないのは間違いない。


(俺の顔は好みらしいし)

それは嘘告する前に聞いた事実だ。


(やっぱり、好きになってもらえたのは顔だけだったのかなあ)

そう考えて遠い目になるリオネル。


デイジーはリオネルのすることにいちいち顔を赤らめてドキドキしてくれていたけれど、あれは異性に不慣れだったからなのだと、今になって思う。


リオネルにドキドキしてくれていたんじゃない、男に優しくされる耐性がなかったのだ。

デイジーが自分に対して魅力を感じていたのは、結局顔だけだったのではないだろうか。


因みにこの“顔だけだったのでは”についてはデイジーに振られた後、何度も考えている事柄だ。考えるたびにけっこう落ち込んでもいる。

リオネルはがしがしと頭をかいた。


「はあ……」

リオネルはデイジーの前向きなところ、へこたれないところ、真っ直ぐなところ、理屈っぽいところ、分かりやすいところ、ずれてるところ、それらが全部好きだ。

輝くような芯の強さにもとても惹かれた。


それに比べて自分はどうだろう?


嘘告で付き合っている間、リオネルはデイジーといると居心地のよさを感じていたけれど、デイジーはどうだったのだろうか?

リオネルに合わせてくれていたのかもしれない。


デイジーは告白が嘘だと知っていたのだから、演じているリオネルに(実際は初期から演技ではなくなっていたのだが)付き合ってくれていたのではないかと思うのだ。


「…………」

久しぶりに深く落ち込むリオネル。

卒業パーティーをすっぽかされて振られた時はかなり荒れて落ち込んだ。

その後、デイジーの実家でプロポーズをして振られてからはこうして自己嫌悪に陥りながら静かに落ち込んでいる。


(いや、落ち込んでる場合じゃないからな。諦めないって決めたんだろ。顔だけでも好かれててよかったじゃないか)

リオネルは発想を転換した。デイジーを見習って前を向く。


落ち込んでいる場合ではない。好きな女の子はこうしている間もどんどんと自分の道を歩いているのだ。

フランネル家にデイジーが家庭教師として通うことになれば好機だ。これを逃さないようにしなければ。

こうなったら叔母にはデイジーと仲良くなってもらって、デイジーの近況を聞き出してもらおう。

その近況を教えてもらうくらいならしてもいいよな、と心の中で呟く。


(俺は俺で、胸を張って会えるようにならないと。仕事、頑張ろ)

薬師塔の仕事は望んで就いた仕事だ。

これまでも真摯に働いていたが、失恋のショックを紛らわせるためにただ業務をこなしていただけのところはある。

これからはもっと能動的に取り組もうとリオネルは決めた。





❋❋❋


「うーむ」

リオネルがそっとデュート社を訪れた数日後、デイジーは自室で一人、机に座って唸っていた。

机上に広げられているのは二枚の用紙。一通の手紙と家庭教師派遣の要請の写しだ。


デイジーはとりあえず、手紙の方を手に取った。

それはフリージアからのお茶会への招待だった。デイジーは王都に戻ってきたことをバルトークへ知らせたのだが、どこでどうなったのかフリージアから返事と共にお茶会への招待がきたのだ。


茶会と言っても、参加者はデイジーとユーリとバルトークの三人らしく気楽な会でもちろん出席なのだが、問題は服をどうするかである。


フリージアはユヒム伯爵家の一人娘で、お茶会は伯爵家で行われる。

働く女性が増え、商人が台頭しだしている今、街中でしっかりしたドレスを着る女性は減ったが、伯爵家への招待となればデイドレスあたりを着ていくのが普通だろう。

でもデイジーはドレスはリオネルから貰ったものしか持っていない。あれは夜会向きである。


「平服でいいって、書いてあるけどほんとかなあ」

招待状には服装は気にしなくてよいとあるが、貴族特有の言い回しかもしれない。おまけにアンダーラインまで引いてあるのだ。裏があるのだろうか。


「うーん、でも……」

デイジーは真っ赤になってぷるぷる震えるフリージアを思い出す。

ほとんど話したことはないが、表裏はなさそうだ。このアンダーラインは善意からだと解釈するのが適当だろう。何よりユーリとバルトークも来る。

ユーリはともかく、バルトークは気軽な格好に違いない。


「うん、堂々とワンピースで行くか」

決めてしまうとすっきりして、デイジーは参加する旨の返事をしたためた。


「さて……」

フリージアへの返事に封をしてから、家庭教師派遣の要請の方を眺める。


こちらは先ほどクララから渡された。家庭教師としてデイジーを希望している家があるから、話を受けるか検討するようにと言われている。


生徒となるのはソニア・フランネルとラファエル・フランネルの姉弟。

ソニアは七歳、ラファエルは五歳だ。

デイジーが今受け持っている生徒の最年少は十歳なので、年齢が大幅に若い。


ただ、ソニアはかなり早熟な女の子らしく、授業は彼女を中心に行ってほしいと書いてある。ラファエルはおまけのようだ。

クララは授業の枠は一枠で二人同時になるが、料金は二人分取れるのでいい話だと言っていた。


「七歳と五歳かあ」

果たして自分に教えられるのだろうか。


(でも、まあ、初回はお試しだしな)

初回の一回だけなら料金は発生しない。

生徒側も教師側も相性が悪いな、となれば断れるようにもなっている。


やってみてもいいかな、と思う。やってみなくては分からない。

デイジーは生徒が七歳と五歳だというのは気にしないことにした。


でも、問題はもう一つあるのだ。


クララが「気にするかもしれないから伝えておくわね」と前置きして伝えてきたのは、フランネル家とグランツ家が親戚だということだった。夫人同士が姉妹らしい。


「…………」

デイジーの頭の中に久しぶりに金髪に緑の目の男が登場してくる。

デイジーをドキドキさせて、世界をキラキラにしてお姫様にしてくれた人だ。

あの雨の日、馬車に駆けつけたリオネルを思い出すと今でも胸はきゅんきゅんしてしまう。


(いかん、いかん)

デイジーはぶんぶんと首を横に振った。

自分はリオネルを振った身なのである、こんな風に感傷に浸るのは間違っている。


プロポーズを断る選択をしたことは後悔していない。デイジーは自分で自分の人生を取り戻したかった。誰かと共に生きることを考えるのはそれからだと思った。

負債を抱えたまま、結婚の申し出を受けることはできない。リオネルに限らず誰にでもそうしただろうし、リオネルに対しては特に嫌だった。


プロポーズの前、リオネルとレイリーとミシェルからあの腑に落ちるわけのない提案を受けた時、デイジーは本当に悲しかった。

自分は好きな人に金で買われそうになったのだ。あのまま事が運んでいたら、自分の気持ちは一生自由になれなかっただろう。


だから提案に激怒したのも、その後のプロポーズを断ったのにも後悔はない。

それはデイジーの人生では必要なことだった。


リオネルのことは嫌いになったわけではないし、嘘告で付き合っていた日々は今でも大切な思い出である。

ただ、思い出して切なくなってしまうのは仕方ないことだけれど、振った以上は馴れ馴れしくするつもりはなかった。そんな女になるのは嫌だ。

だから王都に戻ることになった時も、手紙は出さなかった。


いつかはリオネルとまた会いたいなとは思う。

寄りを戻したいとかではなく、どこかで偶然出会ってお互いの生活なんかを穏やかに話したいのだ。


リオネルが結婚していたりすれば、それにお祝いを言い「また、どこかで」と言い合いたい。

そんな風になれればいいと思う。


今はまだ、リオネルが誰かと結婚することを考えると自分勝手にも胸が痛むけれど、いつか出会う時はそれもなくなっているだろう。

頭の中のリオネルがやんわりと退場していく。


「よし!」

デイジーは気合を入れて、再び用紙を見た。


クララは今回のフランネル家からの指名にグランツ家は関係していないと言っていた。フランネル家の夫人がデイジーの評判を聞いて是非にとなったらしい。

デイジーの気が進まないのであれば断ってもいいとも言ってくれているが、それはフランネル夫人に悪い気がした。


「…………受けてみるか」

しばらく考えてからデイジーはフランネル家の話を受けることに決めた。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
デイジーのまっすぐなところが大好き! 普通はねぇ。苦労したからコロっと言っちゃうところを激怒しちゃうくらい自らの矜持を持ってるデイジーは本当にカッコいい! ユーリの次にかっこいい!笑 次がバルトークか…
再開嬉しく、楽しく読ませてもらってます。 デイジーが健気で可愛いっすよね 借金返済頑張って!
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。