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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて

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活火激発のインベーダー:フルスロットル

正直に言って、シルヴィア・ゴールドバーグは退屈していた。そして落胆もしていた。
遅延戦術に続く遅延戦術、それに気づいたのは名前隠し(ノーネーム)の奇妙な動きと、シルヴィアがダイブするまでの時点でもやってこない魚臣 慧の姿であった。

(なんらかのアクシデントがあったんでしょうけど、ねぇ……)

ゲームの実力的には歯牙にも掛けないレベルの、しかしある点からは凄まじい強敵(ライバル)である夏目 恵の慣れないヒールプレイも今思えば時間を稼ぐためのパフォーマンスだったのだろう。それ自体に不満があるわけではない、わざわざこの仕事を受けたのは慧との再戦を望む面もあるのだから。シルヴィアの心を沈める落胆の最大の要因は、今現在対戦中のプレイヤーにこそあった。

シルヴィア・ゴールドバーグは客観的な評価として最強である。それは机上のスペックを競うものではなく、実際に対戦してあらゆる強敵達を鎧袖一触で捩じ伏せてきたからこその嘘偽りのない真実である。そして慧を初めとして、シルヴィアを苦戦させたプレイヤーというのは両手で数えられるほどだが確かに存在する。
だがその中にカースドプリズンを使って己に挑んだ者はいなかった。ミーティアスにとってカースドプリズンとは不倶戴天の宿敵であり、そして何より最大のライバルでもあるのだ。誰よりも巧く、強くミーティアスを扱うシルヴィアだからこそ、カースドプリズンを相手に手を抜くことを許容しない。それ(・・)を選ぶということは、シルヴィアに、ミーティアスに対しての全力の宣戦布告なのだから。

だが悲しきかな、ギャラクシア・ヒーローズ:カオスにおいてカースドプリズンの性能はミーティアスに対して不利としか言いようがない。それがシルヴィアの操るミーティアスであればその相性は絶対的なものに近くなる。ある条件さえ満たせればその相性は変動するのだが、少なくともシルヴィアが相手をしてきた数多のカースドプリズン達の中にその条件を満たせた者はいなかった。

名無しの誰かさん(Ms.ジェーン・ドゥ)がそれなりにやる(・・)から期待してたんだけどね……)

もしや、と期待したMr.ジョン・ドゥの方はただの虚仮威しであったらしい。さぁどう処理してくれようか、果たしてケイはどんなアイデアで自分に挑んでくるのか……

自分に相対できる悪役(ヴィラン)への期待は既に心の奥底へ、プロゲーマーとしてこの次の試合へと思いが移ろいかけていたシルヴィアは、それ(・・)に気付いた。逃げ惑うNPC達、その中には痛めつけられた警官達も含まれており、他のそれとは違うヘルメットが彼らが何者で、何を奪われたのかを物語っていた。

「あら、着替えは終わったの?」

「待たせたな」

警察が使用する白を主としたバイク、鎧のように纏ったそれの意匠にあるフロントカウルの数から五台程を取り込んだのだろう。肩、足、腕……あらゆる場所にタイヤがくっついていることを除けばさながら純白の重騎士にも見えるカースドプリズンがゆっくりと、だが確実に歩みを進めてこちらへと近づいてきていた。その姿にシルヴィアは心の中で感嘆のため息を漏らす。

従来のギャラクシア・ヒーローズではコロシアム型のバトルフィールドであったが故に、キャラクターとしての魅力を十全に表現できない事が多かった。例えばただ爆弾をばら撒くだけのキャラであったクロックファイア、例えば取り込める外装が三種類しかなかったカースドプリズン。だがこのゲームはその制限が取り払われた、まるで本当にコミックの世界に入ってしまったかのようなリアリティ。

「さ、始めましょうか」

「ああ、一つだけ言っておきたい事があるんだ」

「?」

「なんつったかな……そうそう。」

カースドプリズンは肌を一部たりとも見せないほど、(牢獄)に閉じ込められている。だが確かにシルヴィアは、ミーティアスはその姿に不敵な笑みを見た。

「キック、ユア、アス」

その意味は「俺はお前をぶちのめす」。

「上等!」

大地を蹴り、駆ける。壁を走り、宙を踏みしめ、時にスピンを、バックステップを入れて加速。そしてガラ空きの背後に蹴りを……

「え?」

足を掴まれた。














足を掴んだ。半分は勘に頼ったギャンブルではあったが、どうやら今回は乱数の女神が俺を助けてくれたらしい。

「ウェェルカァァァァム!!」

ミーティアスが速さに特化した攻撃タイプであるとすればカースドプリズンはパワーに特化した攻撃タイプだ。本来であればそれに加えて尋常ならざるタフネスもあるはずなのだが、格ゲー故に体力を無尽蔵にすることはできず結果的に「火力は高いが取り回しが難しいので結果的に弱い」というキャラになってしまったのだろう。
だがそれは逆に言えばパワーだけは原作に忠実な設定がされているということだ。白バイ五台を取り込んだ高機動カースドプリズンとなった俺は1ラウンド目の初期装備と同様に足に装備されたタイヤを互いに逆回転させることで超信地旋回、身体ごと回転させることで背後から俺を蹴とばさんとした飛び蹴り、その足首を横から掴む。

そしてそのままフル出力で超信地旋回を続行、背中から羽の如く伸びたマフラーが獣の唸り声のような轟音を立てて煙を吐き出す。今の俺には乱数の女神と物理エンジンの神が手を貸してくれている、全米一位がなにするものぞ、だ。
高機動型カースドプリズンは最速であり、最遅のモードだ。なにせ多少のパーツを省いているとはいえバイク五台分の重量が身体にくっついているのだ、足を使って走ることすらできない。まるでダンベルを足にくっつけたかのような重い足取りで歩くことはできるが、こんな状態では普通は戦うことなどできない。
だがバイク五台分のエンジンを搭載しているこのモードは、精密性の少ない単純な動きであれば驚異的な速度を発揮する。例えば脚部のタイヤを回すことに全エネルギーを集中させれば……

「お星様になりやがれえええええええええええ!!」

一般人なら頭がもげかねないレベルのジャイアントスイングすら可能になる。勢いよく放り投げられたミーティアスの身体がビルのフロントドアを突き破ってビルの中へと流星の如く突っ込んでいく。ただそれは本人の意思ではなくより大きな力によるもの、という点で普段のミーティアスとは異なるのだろうが。

「ふふふ、くくくくく………」

いいねいいね、凄くいい。野球でいうならホームランを量産する大砲バッター、サッカーで言うならハットトリックを易々と達成するファンタジスタ、競馬で言うなら三馬身以上引き離して単独ゴールを果たす名馬。そんなプロゲーマーを俺が、今、全力でぶん投げたのだ。待ってろ、今もシケた面を浮かべているか確かめてやる。

「ふはははははははははははははぁぁぁぁぁぁぁぁ!! うおっと」

「げっ!?」

意気揚々とビルへと突入した俺だったが、瞬間粉塵の中から飛び出したミーティアスと目があう。ここで補足すると、現在俺は腕がゴタゴタしている関係上、両腕を広げるような姿勢で「走行」しており、どうも向こうはこちらが豪速で向かってきたのが想定外だったらしく、とっさに俺との直撃を避けるように脇からすり抜けるように避けようとして、そしてこちらは逃がすものかと腕の位置を調整して。

「ハグ失敗だな! うははははははははは!」

「ふぐっ!?」

結果的に互いに高速で接近した加速度を維持したまま俺がミーティアスにラリアットを食らわせる形となった。そしてその隙を見逃すようなテンションはしていない、タイヤをスリップさせ、その場でアイススケートのように無理やり身体を反転させる。
そして凄まじい激突のエネルギーが首で炸裂したためか、空中で逆宙返りをするかのように回転するミーティアスにショルダータックルをお見舞いする。今の俺の肩には白バイのタイヤが装着されている。ギャリギャリと唸りを上げて回転するそれに人体が触れればどうなるかなんて言わなくても分かるだろう? 分からない奴も安心しろ、今から実演してやる。

「はーっはっはっはっはぁ! 喜べ壁ドンだぞぉ!!」

ビルから飛び出した俺と、俺に押し出される形のミーティアスは向かいに建てられていたビルの壁面へと激突する。ビルの壁と、ミーティアスと、回転するタイヤ……随分と物騒なサンドイッチだが遠慮するな、HPが0になるまでたんと召し上がれ。
ミーティアスの体力がゴリゴリと削れていく、流石にこのまま0まで削り切れるとは思っちゃいないが、削ることができるなら限界までその体力を削らせてもらう。

「離れ……ろっ!」

ミーティアスの蹴りが俺の腹へと入り、殺人サンドイッチが具によって無理やり解除させられる。そのままミーティアスは三度の跳躍を経て自らが作った距離を自ら詰めて加速された回し蹴りを俺の延髄へと叩き込んだ。だが甘い、最早てめーとの戦いは対人戦とは考えない。対人間大のモンスターとして想定する!

()輪走行!」

「うわ気持ち悪い!」

失礼な、俺はただ……そう、ただ身体の半面だけを使ったブリッジのような姿勢で身体を捻り、それにより左肩と左足のタイヤを直線状に並べて即興のバイクを形成しただけだ。この形態は回し蹴りの回避に位置取り、そして起き上がりを攻撃に転用するという非常に理にかなった戦術なんだぞ。見た目は涅槃のポーズで爆走する変態そのものだが。
身体をえび反りにして涅槃ポーズを意図的に倒すことでバイクで言うドリフトを再現し、遠心力を利用して無理やり身体を起立させる。俺へのカウンター回し蹴りで奴は今動けない、着地までのその数秒と数フレームが大きな隙となる、往生しやがれ。
左半身走りから獣のような四足走行にチェンジした俺はそのまま獣が吠えるが如くエンジンを鳴らして爆進。着地した瞬間のミーティアスへとフロントタックルで激突する。ミーティアスにこのタックルを受け止めるだけのSTRはなく、そしてここまであからさまな有利を奪取できれば如何なカースドプリズン使いとてコンボを叩き込むことが出来る……!

「これは1ラウンド目の分! これはダシに使われた消防車の分! そしてこれが……っ! 焼肉の分だぁぁぁぁぁ!!」

タイヤによって加速された地面を抉るような蹴りを、全身を竜巻のように回転させて加速と遠心力で凶器と化した腕によるパンチを、壁際に追い詰め瓦礫ごと被害者を巻き込んだタックルを。カースドプリズンのコンボはその全てが大ぶりで、そして高火力だ。
「何故今焼肉の話が!?」とでも言いたげなミーティアスがコンボの終了と共に勢いよく大通りを吹き飛んでいく。少々エンジンを酷使しすぎたらしく、熱を持った俺の全身から熱気が陽炎のように空気を歪めていた。

「さぁ来い全米一(ゼンイチ)、ぶちのめしてやる!」

俺の感情に呼応するかのように全身のエンジンが咆哮を上げ、マフラーからは炎混じりの煙を吐き出す。十メートル以上吹っ飛んでいったため、起き上がったミーティアスがどんな顔をしているかを伺うことはできない。だが直感的に、奴は笑っているような気がした。

そろそろ来そうだが……
涅槃のポーズで爆走する変態……まさかそんな主人公がいるわけ、ハハハ

高機動カースドプリズンは白く塗装した轟く侵略さんをイメージしていただければわかりやすいと思います。
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