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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて

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気炎万丈のハイスピーダー:トルクバースト

間違えてインベントリアの方に投稿してしまった……ご迷惑おかけしました
俺の格ゲー経験は大きく分けて三つのクソゲーによって構成されている。
一つ目は言わずもがな「便秘」ことベルセルク・オンライン・パッション。人としての形態を放棄して人外の戦いを繰り返す魔境で俺は人としてのプライドを捨てた戦いを会得した。というか会得するのが最低限のスタートラインなのでむしろ率先して人間性を削ぎ落としていた、と言うべきか。


二つ目はアニマルファイト・オンライン……通称「ゴリライオンライン」。プレイヤーが動物となってワイルドな戦いを繰り広げる……と言うコンセプトのゲームなのだが、コントローラー式の旧文明的なゲームならともかくフルダイブで人間の身体を捨てるゲームのくせに操作性が劣悪の一言に尽きる、という酷さ。それになにより数十種類の操作可能キャラクターがいるくせにその九割九分九厘が「ライオンの下位互換」というバランス調整の悪さ。
結局アプデで下方修正を受けてなおライオンの最強の座は揺るがず、環境は猫パンチでハメ技が出来るライオンとライオンに対してだけ妙に強いローキックゴリラで溢れかえったというなんともアレなゲームだ。百獣の王補正だろうか、だが何故ゴリラ。
俺はこのゴリライオンで獣の戦い方を会得した。いやこれどこで役に立つんだよと当時は苦笑いしていたものだが、今だからこそ言える。結構役に立った。


そして三つ目。そのゲームはあまりに突飛すぎるゲームシステム、人間の善意を踏み躙ってぐちゃぐちゃの肉片にしたものを土に蒔いて耕したような世紀末……いや、幕末(・・)っぷりから「エリートぼっち専用ゲーム」とまで言われた怪作、その名を辻斬・狂想曲(カプリッチオ):オンライン、通称「幕末」。箱庭型のオープンワールドでプレイヤー、NPCを問わず兎にも角にも「斬れば斬るほどハイスコア」という非常にシンプルなゲームだ。
プレイヤーは刀一本だけ持たされて幕末江戸をモチーフとしたオープンフィールドに放り込まれる、出迎えるのは新規プレイヤーを出待ち狩りせんと目論む先輩からの熱い洗礼だ。具体的に言うと先輩方が飽きるまで根切りにされ続けたプレイヤーを次に待ち受けるのはNPC辻斬り達による静かなる夜襲、具体的に言うと朝まで続く。
そうして心折れることなく弱者として狩られ続けながらも時に弱者が集まり格上を天誅(袋叩き)、だいたい一週間くらいで復活する幕臣を天誅(袋叩き)、報酬の分配でもめるので仲間を天誅(共食い)、時に何の罪もない町娘で天誅(経験値稼ぎ)していくうちにプレイヤー達はいつしか自分と自分の得物以外が信じられなくなり、気づけばかつて自分をリスキルした先輩方と一緒に新規プレイヤーのスポーン地点で出待ちするようになっている。そういうゲームだ。

その幕末っぷりばかりが注目されがちなゲームだが、実のところこのゲームから学ぶものは結構多かった。特に後のクソゲー攻略で役に立ったのが拍子の間隙を突くテクニックだ。NPCには明確に隙が存在する、それはプログラミングされた行動と行動の隙間であったり、何かの動作をしている最中であったり。プレイヤーであったなら尚更に気が抜けた瞬間に隙が生まれる。
言うなれば音楽における休符のようなものだ。明確に緊張に途切れが生まれるその瞬間に肉薄、相手が対応するよりも早く刀を抜き辻斬り、時に辻斬られる。自分以外の全てが実質敵、というゲームはユナイトラウンズのように他にもあるが、より一瞬の攻防に重きを置いたこのゲームで俺の対人スキルは磨かれたと言ってもいい。



この「拍子ずらし」こそがPvPにおける極めて重要なファクターであると俺は考えている。フェイントやディレイ、後の先も大きなカテゴリで言えばこれに含まれるし、幕末で磨かれた不意打ちのスキルも同様だ。シルヴィア・ゴールドバーグは俺と同じで相手にリズム(・・・)を押し付けるタイプだ、爆音でリズムが叩き込まれるものだから大抵のプレイヤーはその音量に飲み込まれてボコられる。先ほどの俺のようにな。
これは推測だがカッツォや、他の善戦したプレイヤー達は多分シルヴィア・ゴールドバーグが押し付けてくる爆音リズムを研究してそれをカウンターする戦術へとシフトしたのだと思う。間違いではない、間違いではないのだが未だシルヴィア・ゴールドバーグの不敗記録が破られていないことが事実である以上、正解でもないということになる。

シルヴィア・ゴールドバーグの強みは彼女の持つ拍子、リズムが常に更新されているということだ。それはさながら土壇場で覚醒するヒーローように、もしくはさらにギアを上げた車のように、リズムが変わるのだ。つまりそれまで保たせていたカウンターの組み立てを一からやり直さなければならないということであり、大抵はここでシルヴィア・ゴールドバーグのリズムに追いつけなくなって負ける。であればシルヴィア・ゴールドバーグを攻略するにはどうすればいいのか、ここで格ゲーにおける基本が活きてくる。格ゲーとは即ち選択肢の収束だ、相手に取らせる行動を狭めてこちらの攻撃を押し付ける。
シルヴィア・ゴールドバーグへの対策の最善はカウンターじゃない、後の先ならぬ先の後(・・・)だ。先に選択肢を叩きつけた上で選んだ方にカウンターを叩き込む、どこからどのタイミングで攻撃が来るかわからないから厄介なのだ、飛び回る鳥は鳥籠の中に入れてしまえばいい。速すぎる流星を捕まえるには後手ではなく先手に回らなければならないんだ。

「く……っ!」

「頑張れ俺の三半規管キーック!」

超信地旋回を酷使することで片足を浮かせ、フィギュアスケートのキャメルスピンのような姿勢で回転しながら蹴りを放つ。ゴリライオンラインにおいてライオンにのみ一方的に有利が取れるゴリラのゲージ技の一つであったが、この蹴り技はとにかく対処が面倒臭い。なにせ羽むき出しの扇風機のようなものだ、うかつに近づけば体力が削れてしまう。

「く、厄介な……何者よ貴方……!」

「いわゆる傭兵だよ、金と飯で雇われた……な!」

唸る剛脚がミーティアスを打ち据え、何度目とも分からぬ吹き飛ばしにミーティアスが宙を舞う。こちらも主に三半規管に少なくないダメージこそ受けているが、最早どちらが有利かは言うまでもあるまい。体幹のブレは頭を振って何とかする。

「貰うぜラウンド! ぶっ飛べ!」

全身から生えたマフラーから炎が噴き出し、フロントカウルに付いたライトが点灯する。咆哮を上げて壁際に追い詰められたミーティアスへと猛進するカースドプリズン。崩れた体勢からミーティアスが逃げるには時間が足りず、奴に与えられた選択肢は迎撃か横に転がることでの回避のみ。

「いいわ、このラウンドはプレゼントしたげる」

そして奴は迎撃を選んだ。

「でも勝つのはいつだってヒーロー、そうでしょ私の宿敵(カースドプリズン)

「ここはコミックじゃねぇ、ゲームだ」

激突。元より大質量の激突を速さはあるが耐久に欠けるキャラクターがノーダメージで受け切れるわけがなく、それでも成功したカウンターによりカースドプリズンの体力が削れるもミーティアスの体力が0となる。

奴が砕け消える直前に浮かべていた肉食獣のような笑みは、次のラウンドを苛烈さを予感させるに十分なものであった……ハッ、知ったことか。このまま土ペロさせてやるから覚悟しておけ。












『ラウンドを返したぁーっ! 顔隠し(ノーフェイス)選手、1ラウンド目とは別人のような、実況が困難な動きでシルヴィア選手をノックアウトしました!』

『いや、凄い試合でしたね……白バイを取り込んで機動力を確保したのは分かりますが、大振りな動きで繊細な調整を無理矢理通しているような……』

『これは是非お話しを……あ、魚臣選手来ていらしたんですね!』

「ははは、酷いなぁ……皆さん、どうもー」

困ったように眉を下げながらも、柔らかな笑みでカメラへと手を振るカッツォに、仮面の下でペンシルゴンはうへぇと口を半開きにする。
人のことを言えるような身ではないが、随分と小綺麗な化けの皮(・・・・)を被っているものだ。同じセリフをペンシルゴンかサンラクが言ったなら、その口から吐き出されていたのは恐らく毒だっただろう。

『先程顔隠し(ノーフェイス)選手は自身を傭兵と名乗っていましたが、どういうことなんでしょうか?』

「んー、そこの名無しの権兵衛もそうですけど……まぁ、僕の友人ですね。ちょっとウチの他メンバーに予定が入ってしまったんで急遽助っ人として、ね」

「女性に権兵衛は酷くない?」

「ごめんごめん、じゃあ権兵衛子(ごんべこ)で」

サラッと毒を吐きやがったこの野郎。思わず拳が飛びそうになったのを堪え、ペンシルゴンは「はははこやつめ」と表面を取り繕う。
何故か夏目がハラハラとした顔でペンシルゴンの仮面と手を交互に見ているが、何がそんなに気になるのだろうかとペンシルゴンは首を傾げる。まさか無意識的に握り拳に力を込めて今にも殴りかからんとしていた、とは本人には思いもよらないのだ。

『それにしても、随分と凄まじい試合を見てたお二人ですが……もしやプロゲーマーの方なんでしょうか?』

「それも含めてシークレット、ですね。その方が謎感が増すじゃないですか?」

この場に意識のあるサンラクがいたならば、思わず「化けの皮被りすぎだろ!」と叫んでいたかもしれない豹変ぶりであったが、サンラクは今第三ラウンドを始めようとしているところである。

『もしかしたら、今まで誰も成したことのない快挙を達成してしまうかもしれませんね……』

「いやいや、いやいやいや、あいつが勝てるなら僕でも勝てますよ……なにせ奴相手でも僕は勝率七割確保してますから」

初見同士の戦いだとほぼ確実に負けるくせに。その言葉を胸の内に秘めたのはペンシルゴンのせめてもの武士の情けであった。
果たして絶賛大暴走中のサンラクは、当初の「カッツォへのパス」を覚えているだろうか?

第三ラウンドが始まる。
わーい! クソゲーの設定考えるのたーのしー!

世紀末円卓:一応製作側は「プレイヤー同士の協力」を想定して作っていた、鉛筆の食い物にされた
幕末:そもそも製作側が「プレイヤー同士のバトロワ」を想定して作りやがった、変態辻斬りが天誅連打
ゴリライオン:やけに足技にキレのあるゴリラと猫パンチでハメるライオンがサバンナで暴れている
+注意+
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