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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて

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半裸が飲む国産のエナドリは、薄い


「っはー……来ちゃったなぁ……来ちゃったよ……」

「む? サンラクではないか、多分俺の体内感覚が狂ってないのであるならば今は夜だぞ? もしや夜行性か?」

「ようアラバ、俺は俺のやる気が燃え上がる時間が活動時間なんだ、昼夜関係ナッシングってな」

「そ、そうか……」

他のメンツは……別の家屋に潜伏こそしているがログインはしていなさそうだな、エムルは寝ている。この家屋は俺、アラバ、エムルの二人と一羽が拠点としている。主にベッドの数が全員セーブするには足りないという理由で別々の家屋にプレイヤーがばらけている。故に他のプレイヤーがログインしているかどうかはちょっとわかりかねる。

「……まぁ、エムルは起こさなくていっか。おうアラバ、ちょっくら夜の探検に行ってくる」

「君はアレだな、寝ているか駆け回っているかのどちらかしかしないのか? 起きてる間は動いてないと死ぬとかそういうアレなのか?」

「誰がマグロだ、フカヒレ毟ってスープにしてやろうか。まぁちょいと遊んでくるだけだよ」

本格的な攻略は無理だからな、封将に特攻かましてもいいが今回は色々試しつつルルイアスの探索がメインだ。遠慮なく死ぬつもりなのでNPCを連れて行くわけにもいかない。
屋根の穴から外へと出て、屋根伝いに夜のルルイアス探索の始まりだ。海底に逆さまに位置するルルイアスは謎光源で光を確保しているので昼も夜もへったくれもないのだが、昼と夜で出現エネミーが変わるなんてよくあることだ。

「っほぉー……こりゃまたファンタジックな光景だことで」

昼間が「半魚人(ゾンビ)彷徨う冒涜の都市」だとするなら、今はさながら「魚たちの楽園と化したかつての都市」という言葉こそふさわしい。宙を泳ぐ魚、魚、魚。まさしく大魚群と呼ぶべき魚たちの賑わいはまず現実では見られない光景だ。腐敗した半魚人は新鮮な魚類から作り出される……つまり昼間は街を埋め尽くすほどに存在していた半魚人たちの本来の姿こそがあの大魚群なのだろう。
父の趣味故にそこまで釣りに興味のない俺でも魚の名前や姿にはある程度の理解がある。だからこそ中を泳ぐ魚の一匹一匹が現実に存在する魚類に似た特徴を持ち、そしてそれらとは決定的に異なるデザインであることに何度目かもわからない驚きの感情を得る。別に魚のデザインくらい現実の魚をそのまんま持ってきたって誰も怒らないだろうに、なぜこう重箱の隅を顕微鏡で覗き込むくらい細かく作り込むのやら。

「つっても、半漁人がいないから夜は楽勝、とはいかないわけか……」

さて問題です。魚が群れを作る理由とは何でしょうか? 正解は簡単だ、くじ引きの中身は多ければ多いほど当たり(自分)を引かれる可能性が遠のくから。

「昼間はゾンビパニック、夜間はモンスターパニックってわけね」

巨影が魚群へと襲い掛かる。縦長とはいえ電車ほどはある巨大な顎門が開かれ、一つの大きな塊となった魚の大群の一部をごっそりと抉り取る。特急列車のごとき早さに長さ、そして巨大でありながらどこか神秘を内包する優美を保ち続けるその姿は、ま昼間に大激闘を繰り広げたアルクトゥス・レガレクスそのものであった。
だがそれだけであったのなら「おっ、ボーナスモンスターやんけ!」とでも考え嬉々として喧嘩を売っていただろう。そんなアホ思考の俺が「モンスターパニック」と形容するに足る理由とは。

その答えはやはり上空(水中)にこそある。ルルイアスの中では摂理が反転するが、それ以前に物理的に全てが反転している。だからこそ、深海のそこから浮上するかのように都市へと入り込んだ存在は深海から上空へと入りきった時点で上に落ちる(・・・・・)。身体を捻るように、さながらつい先ほどカッツォと戦ったとき、溶鉄弾を回避した俺のように身体を錐揉み回転させながら下から上へ落ちてきたそれは、美しい「翼」を広げて虹帯の龍王魚へと飛び掛る。
奇襲者の身より噴き出すはこの場においてあまりに不釣り合いのはずの輝き。水中という世界とは正反対の性質故に、水の中での存在の維持を許されないはずのそれ……この一面が青い都市においてなお際立つ「蒼」い炎を纏い、大きく広げた翼のようにも見える胸鰭を力強く動かす様は、先ほどまでこの場における頂点であったアルクトゥス・レガレクスからいとも容易く「頂点」の地位を奪い去った。

「おいおい……ギガリュウグウノツカイ越えのモンスターが出現するかもしれないとか、昼のほうが安全じゃねーか」

胸鰭からブレードのように、羽毛のように生えた水晶体がアルクトゥス・レガレクスの身体を打ち据える。言葉にすれば単純な攻撃に巨体に見合う体力を備えたはずのアルクトゥス・レガレクスが悲鳴じみた咆哮をあげて身体を悶えさせる。
アルクトゥス・レガレクスの泳ぎが美しさを強く感じさせるものだとすれば、襲撃者のそれは力強さをこそ尊ぶ「強者」の泳ぎだ。遠目に見ている俺ですら、その力強いターンに風圧を受けたかのように錯覚する。轟と家屋を揺るがしながら、アルクトゥス・レガレクスに比べれば小さいがそれでも大型トラックほどもある巨体が突き進む。
まるで見えざる巨人の腕がアンダースローでフルスイングしたかのような、豪快なUターンによって再び上へと泳ぐ襲撃者の顎門が開かれる。悶え、苦しみ、それでも生物的な本能に従い捕食者の牙より逃れようとするアルクトゥス・レガレクス。だが最高速度になれば電車ほどの速度を出せるその巨体はその場から迅速に逃げ出すという点において悲しいほどに瞬発力が欠如していた。

牙が食らいつく。燃え盛る蒼炎は飾りなどでは断じてなく、牙に肉を裂かれ、蒼炎に身を焼かれるアルクトゥス・レガレクスの明確な悲鳴がルルイアス全土に響き渡る。その巨体を襲撃者へと絡みつかせ、抵抗せんとするアルクトゥス・レガレクスであったが、驚くべきことにその巨体を巻きつかせ締め上げて……それでも襲撃者の膂力は虹帯を上回っていた。
俺程度なら百人同時に締め上げ潰してしまえるような莫大なSTRがあの巻きつきには内包されている、だというのに襲撃者はアルクトゥス・レガレクスに締め付けられたまま、あまつさえ速度を落とすことなく泳いですらいるのだ。もはやこれは対等な敵同士の戦いではなく、捕食者が餌を仕留めるまでの作業でしかない。
襲撃者の翼が光を放つ。水晶のエッジのようなそれが放つ光は身体の上半分を覆う炎の外套とはまた別種の、荒々しくも暗い深海を照らす温もりのあった炎とは全く異なる「王」の意向に逆らう者を塵の一つさえ存在を許さない冷酷な殺意。古来よりそれを人は神の御業であると畏れてきた、超高速フレーム攻撃の上に直撃すればほぼ即死攻撃というリアルチート技。

すなわち人それを「雷」と呼ぶ。

水晶体の翼がスパークを帯びる。蓄積と増幅、落雷の電力は規模にもよるが数億ボルトにまで到達するというがさすがにモンスター一匹でそこまでの火力は出せないだろう。そんな当たり前すら肯定しきれない莫大量の数字が襲撃者に雷鳴の翼を授ける。システム的な行動か、それともシステムが再現した「本能」による警鐘か。アルクトゥス・レガレクスが襲撃者にしがみついていた身体を解いて逃走を図る、だが奴は勘違いをしている。この狩りは最初から最後まで何も変わっていない。
奴がこの反転都市に入った時点で狩人は襲撃者であり、獲物はアルクトゥス・レガレクスである。そして今の今まで捕まっていたのはアルクトゥス・レガレクスであり、捕まえていたのは襲撃者であるという事実は、一度たりとも覆ってはいないのだ。

その蒼炎が襲撃者の血潮であるのなら、その身から放つ雷撃もまた蒼く。確かにタイマンで倒したとはいえその巨体の存在感を損なうことのなかったアルクトゥス・レガレクスが実に無様に身をくねらせ、悪足搔きを繰り返すもどうにもならないから悪あがきと呼ぶのであり、そして死神の鎌が振り下ろされる。
雷の翼の輝きが最高潮に達し、ルルイアスを照らす青水晶の光が放電の光に上書きされた。襲撃者を中心に球体状に広がる「致死圏内」はルルイアスの一部と運悪く逃げ遅れた魚類を巻き込み炸裂し、喰らって試してみる気すら起きない極大ダメージを孕んだ蒼雷の嵐として辺り一帯へと撒き散らしたのだ。

「………三十秒、二秒、五秒、短いな」

遍くモンスターはすなわちプレイヤーが相対すべきであり、相対可能なエネミーである。それはエムルのような友好的なモンスターであっても否定はできず、あの襲撃者……水晶の翼を持つ炎の鯱であっても例外ではない。であるなら俺がすべきことはギガリュウグウノツカイを瞬殺した力に恐れおののくことではなく、その力をいかに攻略するかを追求することだ。
遍くエリアはすなわちプレイヤーが攻略すべきであり、攻略可能なダンジョンである。それはルルイアスのような怪物のお膝元であっても例外ではない。であるなら俺がすべきことは理不尽なリセット能力に攻略を諦めることではなく、その理不尽をいかに踏破するかを検証することだ。

やりたいこと、やるべきこと、やった方がいいこと。どれから手をつければいいかわからない、そんな時のスマートな解決方法を特別にお見せしてやろう。オーディエンスがいないから妥協してお前にだよ二属性シャチ。

「このゲーム唯一の不満点があるとすれば、グロ表現に規制が入ってるせいでモンスターの捕食モーションが微妙ってことだな」

ポリゴンを咀嚼する姿はリアリティが飛び抜けたシャンフロだからこそ余計に滑稽に見える。二属性シャチのそんな姿を嘲笑い、地面に落ちてきたいくつかのドロップアイテムをこれ見よがしに掠め盗る。さぁどうするダブルタイプ、ご馳走の食べかすとはいえ不遜な小虫がかっさらっていったぞ? そしてそいつは不敬にもこの海底生態系において頂点に位置する存在にあまつさえ敵意すら向けている、クターニッドはピラミッドに入れていい存在じゃないから除外な。

「気炎万丈を物理的にアピールしやがって、そりゃこっちも同じだっての……!」

別にこいつを倒すために挑発をしたわけではない。俺には確かめたいことがあってそのためには「莫大な破壊力を行使できる存在」が必要なんだ。

だからこそ俺は、怯えることなくこの逆かさ空から俺を見下ろす海底の王へ喧嘩を売った。今ならなんとオマケで挑発コマンドもつけちゃう! ドロップアイテムあざーっす!!
稚拙な画力ではありますが設定集的作品である「設定鍵インベントリア:シャンフロの諸々」の方に二属性シャチことアトランティクス・レプノルカの設定画的なものを掲載しております。
拙作の文章表現の一助となれば幸いです、今後とも宜しくお願いします。


ちなみに主人公がカウントしていた「三十秒、二秒、五秒」はそれぞれ
雷撃のチャージ時間
攻撃モーションからダメージ判定が発生するまでの空白時間
ダメージ判定が働いている攻撃時間

です
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