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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて

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秒速百メートルの殺意

深淵のクターニッドは設定面からして他のユニークモンスターとは隔絶した能力を持っていると言っていい。
限定的とは言え己の「死」すらをも含んだ世界そのものの時を止めたウェザエモンや、夜闇と一体化して無尽とも思える分身を作り出すリュカオーンがユニークモンスターとして力不足、というわけではない。

だがクターニッドという存在はまるで動画サイトで気になる場面を見返すかのような気軽さで破壊された街を元に戻す。電源のオンオフを切り替えるように容易く生死を、存在そのものを変容させてしまう。
強い弱いではなくただただ理不尽、格ゲーキャラが制限時間以上の戦いを許されないように、RPGのラスボスがその役割から逃げられないように……ゲームというシステムそのものに干渉するかのようなどうしようもない理不尽、それこそがユニークモンスター深淵のクターニッドだ。

だがそれはあくまでもスペックだけを見た限定的な絶望だ。シャングリラ・フロンティアがゲームであり、そしてクターニッドとの戦いがシナリオとして存在する以上抜け道が必ず存在する。
謎解きゲームは嫌いじゃない、世の中には「扉を開ける為に別のタワーにある鍵を持ってこい(閉じ込めた後に教える)」なんてクソゲーも存在するが、このシナリオがそうでないことを切に願うとして、だ。

「ちょおーっと調べたいことがあったんだよなぁ」

二属性シャチのご飯、ついでに俺の懐をあっためるアイテムと成り果てたアルクトゥス・レガレクス……先ほどの個体ではない昼にタイマンを張った個体との戦闘の際、俺はクターニッドというエネミーに与えられた強大な現実改変能力をその目で見ることになった。
成る程、確かに凄い。だがゲームである以上フィールドリセットというものはそう特異なものではない、極論適当な家屋に入ってもう一度外に出ればフィールドの全てが修復されるようなゲームはクソ、凡、良を問わずままあるものだ。

であればクエスチョン1、深淵のクターニッドによるフィールドリセットの発動条件とは?
そしてクエスチョン2、この都市は一体どれほどの規模まで破壊することが可能なのか?
最後にクエスチョン3、果たして「封将」とやらはどれだけ強いのか?

「徹底的に破壊の限りを尽くしてやる……二属性シャチがな!!」

屋根を飛び移り、二属性シャチとの距離を維持しながらひたすらにちょこまかと……そう、思わず叩き潰したくなるような絶妙のウザさを演出して二属性シャチを引き連れて俺が走る先は、四体の封将がいるこの都市の四隅にある塔の一つだ。
背後でバヂバヂと嫌な音が響く、慌てて走る速度を上げて屋根から飛び降りるとすぐ背後で激しいスパークと建物が崩壊する音が響き、背中を張り手で叩かれたように錯覚する。

「おっ、ととと……危ねぇ!」

崩れ落ちた瓦礫が土砂の流れとなって着地地点の道を汚す、目まぐるしく不安定な変動を繰り返す足場に着地。そして背後から迫る大質量の気配にスキル各種を起動し再跳躍、壁と土砂を足場に再び屋根の上へと舞い戻る。
直後、ただ雪崩(なだ)れて覆いかぶさるだけで人を殺し得る質量の土砂を、まるでプリンのように掻っ捌きながら俺がいた場所を二属性シャチの胸鰭から生えた水晶羽が通過する。

「………凄いな」

二属性シャチの火力にではない、噛まれようが叩かれようが感電させられようが一撃でお陀仏することは確定なのだから今更土砂を真っ二つにした程度で驚いていられるか。
驚いたのは今の回避挙動を完璧にこなした俺自身にだ。正直に言うと、不安定な足場をノンストップで駆け抜けて壁を蹴って屋根に再跳躍という一連の動作は無理ではないかと自分では思っていた、だが出来た。
一秒ごとに変動する瓦礫の中から足場たり得る状態の瓦礫を見抜き、踏み込み壁を蹴り屋根に手を掛け一気に登り切る……土壇場の出たとこ勝負にしてはあまりに理想的な動きを俺は可能としたのだ。

「流石は業務用とまであだ名される最新型と言うべきか……」

本当の業務用は完全なベッド型でレントゲン撮影機のような仰々しい代物であるらしいが、先代機となった自宅のヘッドギア型と比べればやはりパフォーマンスには確たる差がある。
現実はゲームと違い昨日今日で劇的に動きが良くなることは稀だ、俺がその「稀」をつかむようなことをしていない以上、この動きの秘訣はやはり機体に因るものだろう。

ただでさえリアル以上に動くアバターの挙動がさらに滑らかになっているし、思考が発した命令に対する挙動のレスポンスも良くなっている。世界がよりクリアに見える気がするのも気のせいではなく画質向上もされているのだろうか? 成る程サイズを大きくしただけのことはある。
これならプロならざる俺でも米国最強チームとかいう明後日の……ああ、日付跨いだから明日か、明日の対戦でも対抗できるかもしれない。いや、よくよく考えたら向こうも条件は同じなのだから大差はなかった。

「見えた、確かモルドの話じゃクリオネっぽい奴がいる……だったか?」

下手に刺激して何が起こるかわからないということで遠目から観察しただけで手は出してないらしいが、試さないことには何も実証できない。

「愚者」の神秘(アルカナム)のお陰でスキルをぶん回しているとはいえ、ノータイムで連打できるわけではない。距離的に一度リキャストを挟まないといけないわけだが……しゃーなしだ、ちょいとばかし煽りじゃなくて喧嘩を売ってみようか。

奴がギガリュウグウノツカイと戦っている間、そして今に至る逃走の間を含めて結構な情報量を確保することができた。
まず大前提としてあの二属性シャチを真正面切って倒すのは極めて困難だと言うことだ。ギガリュウグウノツカイですら毒によるスリップダメージがあったからこそソロ討伐が出来たようなもので、なんの干渉も入らない戦闘であればもっと苦戦していただろう。

身体の上半分をすっぽり包んでしまっているあの炎は見てくれだけのものではなくダメージ判定がある、ダメージ判定というのは何もプレイヤーの体力を削るだけのものではない。
武器や防具には耐久がある、いかに傑剣への憧刃(デュクスラム)が高い耐久を叶える効果を持っているとしても直接ダメージを与え続ければ破損は免れない、アレは「クリティカルで耐久が減らない」のであって「破損しない」というわけではないのだから。

上半分が狙えない以上攻撃する部位は自然と身体の下半分になるわけだが、先程の土砂切りでも分かる通り奴は非常にアクロバティックな動きをする。
接近を誘発したとして攻撃をぶつけることができる回数は……まぁ、良くて二回か三回。それがレイ氏のような大剣による攻撃ならばある程度の火力は見込めるかもしれないが、俺の火力では焼け石に水だ。

であれば攻撃回数を増やせばいつかは倒せるかもしれない、だがアレを相手に長時間戦闘はなかなかに辛いものがある。同じく強敵という意味では金晶独蠍戦の方が不利な条件下で戦っていたわけだが、アレは最終的に水晶群蠍を利用して体力を大幅に削ることが出来たし、何より奴は空を飛ばなかった。

「だったらフィールドを味方につけるしかあるまい……!!」

道に沿うように建築された家屋の数々だが、なにも長屋のように家屋同士が隙間なく並んでいるわけではない。人が通れる程度の隙間があるし、崩落で隙間そのものが埋まるも隙間を埋めた瓦礫自体が道となっている場所もある。
気分はモグラ叩きのモグラ側。潜伏と出現、挑発と逃走を絡めてリキャストタイムの時間を稼ぎ、そして目的地へとじわりじわりと接近していく。
二属性シャチはちょこまかと逃げ隠れする俺への苛立ちを隠そうともせずにやったらめったらに街並みを破壊し、そして時折出現する小虫()へと怒りの突撃を仕掛ける。

「ハッ! 三十秒前から準備させてくれる技なんぞ当たるもんかよ!」

あの放電攻撃はおよそ三十秒のチャージを必要とする、チャージ中でも普通に行動できるという点は脅威であるがあからさまに水晶羽にスパークを纏っていれば誰だって放電攻撃が来ることは分かる。
そしてチャージの後に放たれる二属性シャチを中心とした雷霆の球体は結構な範囲ではあるが二、三度見れば把握もできるというもの、二属性シャチとの距離を詰められないよう立ち回りに注意しながらあわよくば誘導を……

「……違う」

身体の上半分を覆う炎が通常時とは比べ物にならない燃え上がりを見せている、胸鰭を這い回っていた電流が二属性シャチ本体に吸収されていく。
この時点で二属性シャチが初見行動を取ると断定、インベントリアエスケープの用意をしつつ位置調整を開始する。いやだって、身体にエネルギーを溜めてする事なんて十中八九ビームだろ。露骨に二属性シャチ側も距離を離しているし。

「よーし……ちゃんと狙いを定めろよ……? そうそう、わざわざ高いところに登ってアピールしてるんだ、外さずにまっすぐ俺を狙えよ……?」

背後には封将がいるらしい塔、前方には空中で静止し頭部付近を輝かせる二属性シャチ、そしてそれらに挟まれるようにして俺。
位置取りは上々、わがままを言えばもう少し上に位置取りたかったが、流石に動きが向上しても出来ない事はある。
さぁここからは反射神経と勘と乱数ではない天運に頼る運ゲーの時間だ。二属性シャチの初見行動が一体どんなものでどれくらいの速度でいつ来るのか、初見でそれらを全て把握するのは不可能である以上は文字通り「見てから避ける」芸当が要求される。それが出来ないなら勘で躱す、それでもダメならあとは天に祈る。

「こういう時双眼鏡とかそういうアイテムが欲しいな……」

ええと、遠目ではっきりとは見えないが……水晶羽が電灯みたいに光っている、放電攻撃の時も光ってはいたがそれは水晶羽の外側をスパークが纏われていたからだ、今は水晶体の内側から発光している。
そして最も大きな変化は身体の上半分を覆っていた蒼炎が消えかかっている、と言っていいほどにその勢いを弱めている事。蒼炎が剥がれ露出したそれは恐らく奴の……頭蓋、か? 下半分に比べて随分と小さく見えるのは皮膚と筋肉の分が炎となっているためか。
遠目から見ても分かるほどに発光するそれは、放電など比べ物にならない火力を内包して……

光っ

「うぉぉあぁっ!!?」

ば、バカヤロー! こういうのは普通チャージが終わったらなんらかの合図的なエフェクトがモーションがあるモンだろう!! 即ブッパとか卑怯だろうが!!

「くっ……【転送:格納空間(エンタートラベル)】!!」

回避、そう回避自体は成功した。恐ろしい速度で飛来したレーザーの如きそれの直撃という最悪の事態は避けることが出来た、だがその余波だけですら俺の身体は風に吹かれる枯葉よりも容易く吹き飛び、格納空間に転移した俺はその勢いを格納空間内を転がるようにスライドすることで何とか減衰させることに成功した。

「くっそ……そらそうだよな、あんな砲台じみた攻撃なら普通は照準から逃げるように走り続けるのが普通か……くそっ」

ステータスを確認すれば、残り体力は……4。余波ならばフル体力で一発は耐えられる、と……当然というかなんというか、直撃したら死ぬな。
念のため握っていた武器を放り投げ慌てて回復を試みるが、こういう時に限って乱数というものは悪い方に傾き続ける。本来の二倍の消費でようやく体力をフルで回復することはできた……恩恵に全力で乗っかっている身分で言えた事じゃないが、こういう時は神秘(アルカナム)が煩わしく感じる。

「く……兎にも角にも戻らなければ何も始まらないか」

格納空間から現実空間へと転移、空中に転移することは分かっていたので直前の記憶を引っ張り出して方角を把握、身体を捻ってあの攻撃による成果を確認する。

「チッ……破壊不可能オブジェクトか? それとも大家(クターニッド)がご丁寧に直したか……」

視線の先、そこには無傷の塔が二属性シャチの攻撃などなかったかのように屹立していた。
格納空間に逃げ込んでいたのが痛いな、壊れなかったのか壊れたが直されたのかが確認できなかった。とりあえず着地してここからの行動、を……あ。

空を掻き分ける音が真上から響く、まるで空気の大槌が上から俺を圧し潰すかのような圧迫感。その存在を忘れていたわけではないが、もう一つの事実を俺は忘れていた。
見上げた先には炎の上顎と肉と骨の下顎を組み合わせた顎門を大きく、大きく開いたモンスターの姿が。この感覚はどこかで覚えがある、デジャヴってやつだ……ああそうだ、水晶群蠍だ。
あいつら修正で転移逃げしても待ち構えるようになったんだったか、そういえば修正項目は「一部モンスター」とは書かれていたが別に水晶群蠍だけとは書かれてなかった、まさか結構な数のモンスターが転移逃げ対策されている……?

「まぁいい、何事もトライアンドエラーだ」

百回エラーを叩き出しても一回の結果を出せればそれら全ては無駄ではない。セーブポイントを確保している以上、ここでアルクトゥス・レガレクスというメインディッシュの後のデザートがわりにムシャムシャされてもリスポーンするだけだ。
ああそうだ二属性シャチ、言っておくが俺のボディは甘くないからデザートとしては失格の部類だ。

「残念だったな」

「普通そこでバカにするように笑うことはないと思うぞ……っ!!」

「うおっ!?」

腕が肩から抜けてしまうような強烈な牽引、そして二属性シャチの顎門が、レーザーの余波なのか何故か真っ二つに抉れている道路が、手ブレしまくった写真のように縦に長く長く引き伸ばされて……

「って、アラバか!?」

「君というやつは……何をどう間違えたら深海の王にケンカを売ることになるのだ! あの人魚共とてもう少し賢いぞ!」

極めて真っ当な叱責をしながら俺を掴んで空を泳ぐ(・・・・)のは、鮫と人を足して二で割ったような人なのかモンスターなのかも分からないNPC。

なるほど、どうやら俺は今空を飛んでいるらしい。

鳥だけに?
ただの破壊不可能オブジェクトではない
ただ「破壊されない」という反転効果でもない
そしてイベント二つ平行描写なのでこの章はきっと長引く!

影分身の術とか覚えたい……
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