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シャングリラ・フロンティア〜クソゲーハンター、神ゲーに挑まんとす〜 作者:硬梨菜

見上げた空、広がる海、深淵の都市を駆けて

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果たしてどちらが寄り道か

『あーっ! ミーティアスのコンボが入ったァーッ!』

なんだ今のは、アムドラヴァの対応は完璧だった。空中からの蹴りに対してガード、なおも接近を図るミーティアスに対して掴み攻撃で牽制し、威力こそ高いが隙の大きい技を安全策を取ってガードしようとして……ガードが成立するよりも先にミーティアスが攻撃を当てた。

『いや、今の……まさかガードの隙間に差し込んだ? ははは、あれ本当に人間技なんですか? 来るとわかっててもあれをできる人はそうそういないでしょう……』

解説の声が言う通り、アレは反応速度でどうこうできるものではない。それこそ台本通りに進む展開を最初から知っていなければ出来ないような、曲芸と呼ぶ事すら生ぬるいあまりに致命的な一刺し。
アレは駄目だ、仮にあの場で戦っていたアムドラヴァの中身が俺だったとしても、こうも見事に差し込まれてはどうしようもない。

『アムドラヴァが跳ね上げられていくゥ! そしてミーティアスのゲージはマックス! 来るか? 来るか……来たぁぁぁっ! ミーティアスの超必がぶっ込まれるぅ! KOォォォォォッ! 「K(ケイ)」ですら勝てないっ! 強すぎる、あまりに強すぎるぞ絶対王者シルヴィィィィッ!!』

そこからは語るまでもなく、一切のミスなくフルコンボを当てきり、超必殺の飛び蹴りを叩き込み……フィニッシュ。体力の半分を削られてはいるものの、完勝といって差し支えないレベルの圧倒だ。俺は開いたサイト……「K vs Silvi」と題名付けられた動画を閉じつつ、カッツォの奴が言った言葉が真実であることを実感する。

「テクニック自体は真似できそうだけど……先読みが極まりすぎてて意味わかんねー……」

一年前に録画されたものだというカッツォの奴と、シルヴィアなんたならかーらの戦いは、1ラウンド目をシルヴィアが先取し、続く2ラウンド目をカッツォが取り返す。
そして3ラウンド目、カッツォのアムドラヴァが体力を七割残した状態でシルヴィアのミーティアスの体力を半分まで削り……そこでいきなりミーティアスの動きが化けた。
それまでどちらといえば戦局を予想して戦っていたのはカッツォの方であったというのにその瞬間から、シルヴィアの動きが加速したのだ。
常時パリィ成功補正でも付いているかのようにカッツォの攻撃を捌き切り、前作でも備えていたスリップダメージを与える溶岩の腕への攻撃によるHP管理は計算機でも使ったのかというレベルだ。
そして何よりあのガード抜き、グーでパーを貫通するような力技を最速、最適、最高のパフォーマンスで通す。理想乱数引く為に何回くらい追記したんですか? ぶっつけ本番? ははは、ふざけろ。

「ていうか調べたらあいつ公式戦だけで零勝八敗一分……フルボッコにされてんじゃん」

それでも勝ちを諦めてないあたり、筋金入りの負けず嫌いだなあいつ。思えば俺が「便秘」にやってきたあいつをフルボッコにした時も、わざわざパッケージ版を買ってまでリベンジに来たしなぁ……ああいう闘争心がプロゲーマーには必要な大前提なのかもしれないな。
まぁ結局のところ俺たちの役割はカッツォvsシルヴィアのマッチングを成立させること、言うなれば前座も前座だ。であれば俺が調べ、対策するべきは三人のマッチョの方だ。三匹の子豚みたいだな……随分と汗臭そうな。

「さぁ、一夜漬けで対策を立てるとしようか!!」





四十五分で挫折した。





「あぁー……どーっすっかなぁ……」

現在俺はガスマスクを外してホテルの外に存在する二十四時間経営、徹夜と夜食調達の心強い味方ことコンビニへと赴いていた。さすがにコンビニにガスマスクをつけて行けばカッツォに呼ばれた俺が警察を呼ばれるというギャグみたいな謎連鎖をすることになりかねない。
予想外の発見をしたために急遽夜更かしの可能性が出てきたため、エナジードリンクの補給を行うためと……なんというかチープ&ジャンクなコンビニの空気が吸いたくなったのだ。あのホテル、友達の家にゲームやりにいくような感覚で泊まる場所じゃないよ。

「流石に海外製エナドリはないか……まぁ、二本飲み(ダブルチャージ)すればカフェイン充填200%でいい感じにキマるだろうし今日は大人しめに一本にして……んー、でも二本開けると尿意問題がなぁ……」

ある意味で短期決戦用の奥の手だな、本来はタンク一本でいいのに物資不足やらなんやらで下位互換のパーツを多量積み込むことで出力を補う、ってロボ系の胸熱展開っぽくて俺は好きだなぁ……尿意(リミット)が早まるところまで再現しなくていいんだが。
本当であれば適当にプロゲーマーチーム「スターレイン」の選手たちのプレイ動画を見ておおよそのスタイルやおそらく使ってくるであろうキャラの対策、自身が使うキャラの練習やシステム的な検証の諸々などやることは結構あったのだが……あの新型フルダイブシステムを何の気なしにいじっていたところ、見つけてしまったのだ。

そう、「シャングリラ・フロンティア」のダウンロード版を……!!

そもそもシャングリラ・フロンティアはセーブデータを一つしか作ることができない。それはシャンフロ世界そのものと言っていいサーバーにユーザー情報が保存され、それを認証するためにユーザーの持つフルダイブシステムの機体コード、さらにユーザーそのものの肉体情報認証、タイプ式のパスワードの三つを参照して初めてユーザーはシャンフロ世界におけるもう一人の自分として振る舞うことができる。だが例えばフルダイブシステムがなんらかのアクシデントで破損してしまった場合、他システムでログインするための手段がある。

……ご大層な言葉を並べているが、要するにシャンフロというゲームはある程度の条件を達成すれば自分のものではないシステム下でも自データで遊ぶことができる、というわけで。それすなわち三日ほどログインできないと割り切っていたシャンフロに思いがけずログインできるということで。

俺自身が所有するフルダイブシステム、ホテルにある最新型(ついでに最高額)のモデルの一個前のそれは別に破損しているわけではないので今回は平和的な別機体ログインを行う。自身のハードとリンクした携帯端末を中継ポイントとして対象システムに接続、機体コードを継承させた上でパスワード認証を行う。簡単に言えば携帯端末を接続して何分か待てばいいだけなので携帯端末は部屋に置いてきてある。
今回の滞在が終わる時に逆の手順をすれば良いので後々に問題が発生することもない。なんの問題もなくシャンフロがプレイできる、プレイできてしまうのだ。

「衝動的にシャンフロをプレイする準備をしてしまったからな……」

一応スターレインのマッチョ三連星の動画は見たし、どうせ明日は本格的な練習をするのだから今晩くらいは……ね?
そんな言い訳を誰に言うでもなく心の中で五周くらいループさせていると、ふと深夜のコンビニに場違いなほどはつらつとした声が響く。とは言ってもこの場にいるのは深夜シフトなのだろう眠たげな目の女性店員と、俺と、声の元凶たる人物しかいない。

「コーヒー! クロ! 濃イノヲイッパイ出シテ!」

なんだそのいかがわしいオーダーは、とはさすがに見ず知らずの他人に声を出してツッコミを入れることはできない。これがペンシルゴンの口から出た言葉であったなら容赦なくツッコミを入れた上で煽るところなんだが……
そう考えながらエナドリを携えレジに向かった俺が見たものは、引きつった笑顔の女性店員と何故かドヤ顔で胸を張る金髪の女性であった。とはいえ、帽子を目深にかぶり、サングラスまでした「私は身元を知られたくない」とアピールの激しい不審者ファッションであったが、それを装着している素体のAPPが高いので不思議と似合っている、そんな印象を抱かせる金髪の外国人。

「あー、ええと……コーヒーは大体全部黒いんです、けど……」

「?? コーヒー、黒クテ、濃ユイノ、ドピュット?」

「ブラックの部分は無理に日本語にしなくてもいいんじゃ……」

しまった、いろいろ耐えかねて声に出してしまった。この不審者ファッションの言葉遣いがあんまりにもあんまりすぎて的外れな返答をしていた女性店員も、俺の言葉で彼女が「ブラックコーヒーを濃いめで出してくれ」と言っていることに気づいたのか、俺へと目礼を向けるとコーヒーサーバーへと駆けていった。つまり限定的条件であるとはいえ俺と不審者ファッションが二人きりの状況になる。

「アー……感謝! アザッスー?」

「いえいえお気になさらず、ノープログレムユアウェルカム?」

日本人であれば高確率で習得可能な特殊スキル「社交辞令スマイル」を起動し、日本人ではなかなか見ないコミュニケーション(ちから)の高さで俺へと話しかけてきた不審者ファッションへと返答する。なんというかものすごく典型的な「エセ日本語を使う外国人」だ、妙にいかがわしい単語をチョイスするあたりが特に。

「ム、私モソノメーカー、オキニ! デモコッチノ、濃ユイクナイ……?」

「(「薄い」って単語を知らないのだろうか……)そっすね、カフェイン少なめですねー」

「お、お待たせしました……えーと、ブラックコーヒーです。ええとお会計……」

「OK! コノ瞬間ヲ待ッテタンダー!」

待ち時間一分もなかったろ、早いなお前の起死回生。世の中には黙っていた方が美徳なこともあるんです、なんだかやたらキラキラしたカードで支払いを済ませたらしい不審者ファッションは俺と女性店員にひらひらと手を振ると、店を出て行った……後に残るは日本人的感性を持つ俺と店員。

「……なんか、ザ・テンションが高い外国人でしたね」

「あはは……あ、商品お預かりします」

「あ、支払いは現金で」









足取りは軽く、比較的星の見える夜空の下で彼女は笑う。笑いながら駆けていく。
ああわかっている、わかっているのだ。本来はこんなことをすべきではない。同じシリーズとはいえ従来のコロシアム式とは全く別のシステムによって成り立つあのゲームを慣らすためにこのような寄り道をするべきではないと。
だがそれはそれ、これはこれ。かつてはゲーム業界ですら世界を牽引していた母なるUSAをたったい一作でぶっちぎりでぶち抜いたゲームタイトル……本業の忙しさと、ラグを嫌う個人的主義故に触ることのなかった理想郷の開拓。

日本にせっかく来たのであるなら触ってみたいと思うのがゲーマーというもの、公式戦で唯一引き分けを勝ち取り、己が公的にライバルと言ってはばからない「彼」への対策に燃える仲間たちには申し訳ないが、少しだけ寄り道をさせて欲しい。

明日から頑張ります、だから今晩だけは……ね? そんな風に心の中で言い訳をしながら、彼女……シルヴィア・ゴールドバーグはホテルのエレベーターへと乗り込み、スイートルームのある最上階へと導くボタンを押す。

『あら? さっきのボーイもこのホテルに宿泊してたんだね……彼も明後日の「お祭り(フェス)」に来るのかな?』

エレベータの扉が閉まる直前、欠伸をしながらホテルへと入ってきた親切な少年を僅かに視界に捉え……数秒後にはまだ見ぬ理想郷(シャングリラ)への期待にその記憶は押し流されていったのだった。





その日、混沌の街をほっぽり出して理想郷へと旅立つ者が二人。
実際のところカフェインの含有量でぶっちぎってるのは玉露らしいので、作中で一番カフェインキメてるのはヒロインちゃんだったりします

主人公「私のカフェイン力は53万です」
ヒロイン「(玉露をおかわりして)100万パワー+100万パワーで200万パワー!! いつもの2倍の濃度が加わり、200万×2の400万パワー!! そして、いつもの3倍の三煎出しを加えれば、400万×3の ユニーク自発しまくりマン!お前をうわまわる1200万カフェインパワーだーっ!!」

なお実際はタンニンがなんやかんやでモンエナとかの方がカフェインキマるらしいです
+注意+
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