二十四、できること
一応ね、とセディ兄様が漏らします。
「考えはしたんだ。二人は関係がなく、自分へと目が向かないように殺されたのかともね。でも、他の財務部の文官たちには毒を使えるほど近くにいなかったんだ。体内にどこから毒が入ったのかわかっていないし、かなりの量の毒を使われたみたいですぐに心臓が止まったようだ」
「……苦しむ時間が短かったのであれば良かった、と言ってよいのでしょうか……勤務中ではないのですか?」
財務部の様子は存じませんが、外務部のような仕事場であれば、いくつかの部屋へ分かれて机を並べてありました。軍部も二宮は同じような感じになっています。
「申し合わせたように今は来年の予算編成のための申請中でね」
「え?もう申請するのですか」
「半年前から三カ月前までが申請期間なんだ。そして三カ月前から一カ月前までが編成期間、最後の一カ月で再調整っていう、財務部あげての大仕事だよ」
「申請中だと近くにいないのですか?」
「みんな自分のところにたくさん予算が欲しいからね。でかい金額書いて諸費用としかなかったりね」
「あぁ……わたくしならその部所は予算無しにいたします」
「まぁ、それだと下っ端が困るから文官が各部所を回って詳細を聞いて、実際に見てくるんだ」
わたくしは頷き、話を進めてもらいます。こういうことは書物には書いてありませんから、わたくしは人が死んでしまっていることを少し忘れてしまいました。実際の政治や経済についてこんなにも兄様が話してくださることはまずありません。今までは自分で本や資料を探したり、どなたか先生となってくださる方を探すように言われるだけだったのです。これは事件が解決したら次兄様にでもおうかがいしましょう。
「そこで、吹き矢は一本だけ無くなっていたんだが、第二の事件が起こる。つまり吹き矢ではなかったんだ。竜ではなく普通の馬に、短剣のようなもので突き刺された後があった。この馬は死んでしまっている。毒はヘビ毒だったから、竜の子に使われていたものと同じだと思われる」
「突き刺されたのはどこですか?」
「わき腹の背に近いところだそうだ。小さめの牝馬だったから、心臓に近いところには低くて刺し辛かったのかも知れない。残念ながら吹き矢のように武器が残されてはなかったよ」
前や後ろだと刺した瞬間に蹴られてしまいますから、鞍が置かれるあたりを狙ったのでしょう。馬を知っているとなると、市井の辻馬車屋や馬商人、後は貴族の御者か貴族その人であると思われます。
「次は同じ普通の馬で牡馬だった。ただ、かなり大きめだ。首をかっ切られていて嘶きが響いたために警戒中の騎士が駆け付けたけれど間に合わなかった。首の切り傷はさほど深くは無かったから致命傷じゃない。やはりヘビ毒だった。どうも量と濃さが変わったらしい。切り口から滴っていた毒が粘っていたらしい」
「騎士は誰も見ていないのですね?」
「二人一組で動くが、二人とも見なかったと言っている。馬を見付けてからすぐに周囲を探したが人影を見なかったと」
他には、と言いたくなるのを堪えます。わたくしに捜査の情報を公開するのであれば、行き詰まっているのだろうことはわかりました。機密情報隊からも規制されていてきっと話せないこともあるでしょう。
しかし、今聞いた情報だけでは何もわかりません。じっと兄様を見つめましたが目を反らされます。
「もう無いのですね」
「ごめんダリア」
書斎机の奥に座る父へと向き直しますが、目が合うと首を振られました。
今回の第一王子のご命令は、一言でした。テーブルの上の開いたまま置いてある紙を手に取ると、かさり、と音を立てました。
「何かないか、との仰せでしたわね」
父も兄様も何も言いません。この発言は間違いではなさそうです。
「ヘビ毒は小さな動物でなければすぐには死にいたりません。馬を狙ったと考えるのは難しいですよね、数頭殺したところで軍部は痛くも痒くもありません。たぶん馬でその毒の量を確認しているのでしょう」
まだ黙っています。書斎にはわたくししかいないみたいではないですか。
「人ほどの大きさの動物はそうそう身近にはおりません。人よりも大きいのは馬か狼、国を渡る鳥くらいでしょうか。しかし鳥は羽の大きさが大きいだけで身体は人よりもずっと細いです。狼はいつも人と一緒にいるか、数頭ずつでくっついて群れていますので一頭でいるところを狙うのは難しいですね。他が騒ぎだしてしまいますから」
隣の兄様は完全に俯いてしまいました。そんなに気になさらなくてもよろしいですのに。わたくしがこのまま第一王子と婚姻を結べば、それこそ常に危険なのです。
「馬で試してみて、そろそろ人で試すか、本命に手を下したいでしょう」
誰が本命なのかはさておき、犯人にお誘いをかけてみましょう。
「わたくしが囮になります。女性であり、弱く、馬のお世話をしていれば囮とは気付きにくいでしょう」
ごめん、とまた兄様が言いました。ため息をつくしかありません。
言わせた癖に。




