二十五、第四の事件
三つの事件は、ほんの一週間のうちに起こっています。このことからあまり忍耐強い相手ではないのでしょう。それとも複数人でおこなっているのでしょうか。あまり事件の間隔が短いと騎士たちの警戒が厳しくて捕まってしまいそうですけれど。それとも撹乱するつもりでしょうか。
「どう思われます?プランセッス」
ぶるん、と言われてもよくわかりません。さすがに竜はわたくしの言うことがわかっても、わたくしは竜の言うことがわかりませんもの、仕方がありません。
わたくしはプランセッスかクラウンと一緒に普通の馬の世話をするようになりました。続けて普通の馬が狙われたからです。普通の馬も美しく賢いので、わたくしと一緒に来る竜たちの言うことを聞いてお世話がしやすいように移動したり大人しくしていてくれます。お世話をしていると囮だと忘れてしまいそうです。近くには必ず暗殺隊の皆さまが隠れていてくださっているらしいので安心しているということもあるのです。
「よし、掃除は終わりましたわ」
プランセッスと厩舎を出ます。わたくしが通っている間はこちらの厩務員の皆さまにはお休みをしていただいています。大切な馬が殺された後ですから皆さまは離れたくないとおっしゃいましたが、囮であるわたくしに巻き込まれてはいけません。厩務員の管理者である軍務大臣と宰相様から登城を禁止されてしまいました。早く解決しないと厩務員の皆さまもご心配でしょう。
「呼んでくださいな」
外の運動場でそれぞれ遊んでいる馬たちにプランセッスがぶるぶると呼びかけます。それだけですぐに反応して駆け足で厩舎へと勝手に入ってくれるのです。これを見た厩務員の皆さまは魔法だと驚き、竜騎士隊に竜の派遣について依頼してもらえないかと警備騎士へと詰めよっておりました。確かに大きな音で鼻を鳴らすわけではないので、運動場のすべての馬が帰ってくるのは不思議です。これは生態の一つとして報告をしなければなりませんね。
「全頭帰ったかしら」
ぶるるる、とプランセッスが首を横へと振ります。
「いないの?」
プランセッスは縦に首を振ります。ほんの少しの異常でも気にしなければなりません。さすがに声まで届くような位置に暗殺隊の方はいないでしょうから声をあげます。
「おかしいわ!帰っていない馬がいるなんて!プランセッス!探しにいきましょう!」
これだけ叫べばすぐに何人かの暗殺隊の方は捜索してくださるでしょう。
わたくしはわたくしで囮として動き回ります。帰っていないのに嘶きなどは聞こえません。ただ運動場から出ていったのは確かなようです。普通の馬の運動場は竜のそれよりも狭いので首を巡らすだけで端から端まで見回せるのです。わたくしは早足で運動場の向こう側の林へ行こうとしましたが。
「……プランセッス?」
わたくしのエプロンの紐を喰わえて止められました。艶めく黒い目を見返すと、ふぅ、と鼻息がわたくしにかかります。ふっと身体が浮き上がります。
「え、あ、いやあぁぁ!!」
ぽーんと宙に放り投げられました。そしてプランセッスの背に落ちました。地面に落ちそうで必死に鬣にしがみつきます。いえ、実際には大きく飛んだわけではなくて、竜の頭より上に飛んだのでわたくしには高く感じたのです。そもそも宙に浮いたのははじめてです。恐る恐る身体を起こし、座る位置を修正します。そこでスカートがめくれ上がっていることに気が付いて顔の熱を感じながらスカートを直します。もういいかとでも言うように、ぶる、と鳴かれました。わたくしは竜の首へとしがみつきます。
風のように一瞬で運動場の向こう側へと跳ねます。わたくしでは遅すぎてプランセッスは我慢ができなかったのでしょう。林の奥へとずんずん進んでいきます。ここは王城の真裏になります。後ろ側は山になっていますので、足を踏み入れるのは騎士の訓練ぐらいでしょうか。
「どこなのかわかるのですか?」
ちらと背のわたくしに視線を送りました。口を閉じます。敵に気付かれてしまう、ということでしょう。道なき道を行き、わたくしにはもうどこにいるのかがわかりません。とっくに木々に隠れてしまって王城が見えていません。
プランセッスが速度を落としました。蹄で下草を踏むのも慎重になっています。音を立てないようにしているようです。わたくしも息を殺し、前を見ます。
ひゅっと悲鳴を飲み込みました。目の前に赤茶色の馬が倒れ、時々尻尾が揺れます。
「おろしてくださいなプランセッス」
しかし、プランセッスは首を横へ振ります。仕方なくわたくしは上から見て馬の様子を観察します。まだ息はあるようですが駄目でしょう。暗殺隊の方はどちらにいらっしゃるのでしょう。
早く、わたくしが襲われないでしょうか。




