二十三、捜査協力
わたくしは父が差し出す封筒を見つめます。そこには火を吹く竜の蝋封がされています。
「これは、第一王子からですか?」
「竜襲撃についての捜査の責任者である第一王子からだ」
何故か父は頷かずに言い直しました。恋文と擬装せずに、正式に公式文書としてお仕事を持ってきたのですね。はじめからそうしていればわたくしも失恋の衝撃を和らげることができましたのに、ひどいですわ。
「わたくし、関わってもよいのでしょうか」
一応、申しておきます。
ソファーには暗殺隊のセディ兄様が座っています。今回のことはすぐに諜報部によって情報規制がされました。事故であれば申告する者が現れる、もしくは挙動不審な者が現れるでしょうが、第二、第三の事件が起きているとのことを、着替えに帰ってきた時にシス兄様がこぼしていました。
やはり吹き矢に毒を使われており、毒を抜きましたが子馬はしばらくは歩行が困難になるということです。必死に傷口を舐めていた母馬のチェルシーも毒をもらったそうですが舐めとったのが少量だということと大人の竜であるため毒に負けなかったとのことです。嘶いていたチェルシーを思うと胸が痛みます。
事件のために、シス兄様をはじめ他の兄様方もほとんど屋敷へ帰ってきていません。そんな中、セディ兄様がわたくしをつれて父の書斎へ来たことで、何かあると考えましたがまたお手紙ですか。
「ダリアの力が必要だそうだ」
どこか疲れたような父には申し訳のないことですが、わたくしには渡りに船でした。竜のお世話をしているわたくしには、もう竜は恐ろしい存在ではないのです。賢くも美しい竜たちに害をなす者を許せません。しかし守られるしかないわたくしには捜査に関わることができません。それが関われるのです。わたくしにも竜たちを守ることができるのです。
「こっちにおいでダリア」
「えぇ、兄様」
お手紙を受け取ってセディ兄様の隣へ座ります。兄様が差し出した小刀を受け取り、差し込んで蝋封を剥がします。小刀をお返しし、封筒から取り出した紙を広げました。ざっと目を通してからため息を落とします。
「……あの方、お手紙はお嫌いなのかしら」
「え?見せて」
紙を広げたまま、横の兄様へと手渡します。兄様は眉をひそめました。
「何なのあの人、やる気ないの?」
書いてあるのは一行と署名だけです。
「犯人を捕まえるために何かないか、って」
「それが手紙の内容か?」
困惑したような父へと二人で頷きます。開き直ったのでしょう。以前のお手紙よりもずっと簡潔に書かれています。取り繕わないのか、それさえもできないほど切迫しているのか、わかりにくいですね。それに、今さら期待もいたしません。勝手にわたくしが傷付くだけです。
「父上、いったいどんな理由で第一王子の婚約をご了承になったのかはお聞きしません。ですからそんな顔をなさらないでください、わたくしが惨めな思いをいたします」
「あ、あぁ、悪い」
父は困惑を隠さずにいます。その反応に兄様がいらだっておりますから、本当にお止めください。わたくしは兄様に向き直り、話をしてくださるようにと頷きます。兄様も呼吸を整えてから話はじめてくださいました。
「まずは、ダリアが見付けた子馬の話だね。吹き矢には毒が塗られていた。その毒はヘビのものだ」
「まぁ!痺れ毒ではありませんか!」
ヘビの毒は噛まれて身体に入ると、噛まれたところから痺れがはじまります。鼠など身体の小さな動物は一瞬で全身が痺れ、心臓も止まり、死んでしまいます。人でも対処が遅ければ毒が回って死んでしまいます。
「そうだ。子馬の毒はすぐに母馬が舐めとった上にどうやら少量だったらしい。吹き矢は王城の武器庫の物だった。武器庫はそもそも存在を隠されているから、盗まれることがないと考えていた。管理している財務部の怠慢だと言われても仕方がないだろうな」
「いつ盗まれたのかは……」
「一月前の確認ではあったらしい。これは財務部、内務部、諜報部の三部合同で行うから不正は少ない。ただ、それ以外の日は財務部が入り口に交代で常駐している。有事はいつ起こるかわからんからな」
「それで財務部に責任が」
わたくしは納得して頷きます。しかし、兄様は首を振りました。
「それだけじゃない。財務部の武器庫管理者の確認をはじめたところ、二人亡くなった。二人ともヘビ毒で勤務中にね」
それは、犯人によって殺されたとしか言いようがない出来事です。そして吹き矢の紛失についてはその亡くなった二人が疑われることでしょう。子馬の怪我どころか人が死んでしまっている事実に背筋が寒くなりました。




