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異世界の神子は、逆ハーを望まない  作者: 一花八華
第一部
25/32

21

夜の戸張がおり、辺りは静けさに包まれている。開け放たれた窓からは、風が入り込み 所在なくカーテンが揺れ動く。


遠くの方で、ホーホーと木菟の鳴く声がする。


ーギシ


簡易なベッドと燭台。小さなテーブルと一客の椅子に鏡面が置かれただけの、小さな部屋。そのベッドの上で 2つの影が身動みじろぎした。






「…ヴォルフ?」


私は、両の腕を力強く大きな手でベッドに縫い止められていた。

私の問いかけに、ヴォルフは応えない。


暗がりの中、懸命にヴォルフの表情を伺う。



いつの間にか、窓辺から月の光が差し込み。僅かにその姿を写しだしていた。


アッシュグレーの髪が、さわさわと風に撫でらている。金と銀の瞳は、爛々と熱を帯び獲物を捕らえ、欲情的な色を灯す。獣の耳をピンと立て、銀色の美しい毛並みを湛える尻尾は、感情の高鳴りと共鳴し揺れている。


「…なぁ。なんで…此処にきた…」


苦しみと熱を帯びた声に…ぞくりと何かが走る。


「なぁ。わかってんの?…こんな夜中に…男の部屋なんか…きて。」


「…それはっ!」


わからないような歳ではないけど…ただ、何となく…ヴォルフとそんな事にならない…そんな風に思っていた…。


「俺なら、こんな事しないとでも…思った?」


私の瞳を覗き込みながら、くつくつとヴォルフは喉を鳴らす。


「ねぇ?なんで聞かないの?俺のこの姿。おかしいと思わないのか?」



「俺…獣人なんだよね。それも凶暴な狼の。あーあ。折角隠してたのに…お嬢さんったら。俺のテリトリーに入ってきちゃうんだもんなー。」


「騙してて悪ぃね。バレちまったら、もう…優しくなんてしてあげれねーけど?」


お嬢さんが悪いんだから。仕方ねーよな。


そう呟くと、ヴォルフは私の首元に顔を埋めてきた。


「ヤバいな…あんたの匂い…ほんとヤバい。」


「理性が飛びそう。」



「あんたが欲しい。」


「ーんんっ!?」


ヴォルフの熱い舌が、私の首筋をなぞった。


ぞくりと甘い痺れが、脳に伝わる。


「あー。神子様って奴は甘いんだな。…他の女と違う。」


耳元でそう呟き、かぷりと甘く噛みしだく。


「魔王城になんて、連れて行かず。このまま俺が浚っちまおうか。」


「なぁ。異世界の神子様。」


「魔王城なんか行くの止めて。このまま俺の女になりなよ。その方があんたも幸せだって。」


「ほんとは…行きたくないんだろ?」


艶を滲ませた声色で、ゆっくり囁き、視線を絡ませてくる。そうしてそのまま顔を寄せ、唇が重なりかける…。


「ーねぇ。ヴォルフ…。」


「ん。止めてっていうの?その言葉…逆効果だって知ってる?」


軽薄な笑いを浮かべ、ヴォルフが私を見つめる。

それは、自分自身に向けているようで…胸が締め付けられた。



ー悲しい。





「ーっ…なんで…そんな眼で見るんだ…。」



それは、ヴォルフが苦しそうな目をしてるからだよ…。そんな気持ちが胸に宿る。





「ー帰れ。」


縫い止めていた手を緩め、ヴォルフが私から身を離した。


「早く自分の部屋に帰れ。ー俺の気が…変わらないうちに。」


苦々しく告げられる言葉に、拒絶の色を感じる。



「ヴォルフ…貴方、何を隠しているの?」


「あ?言っただろ。狼の獣人だって。俺は悪ーい狼なんだよ。ぼんやりしてると、お嬢さんなんて、頭から爪先まで…俺に食べられちゃうよ?」


だから、早く帰った帰った。っと背中を押される。


「そういう事じゃなくて…」


ヴォルフ…隠してるよね?もっと他の事。他のたくさんの事を。


「私…知りたいの。ヴォルフの事…知りたくて来たの。」


顔をあげ、じっと見つめる。


「知りたいなら…教えてくれるって…そう言ったよね?ヴォルフ。」


貴方が知りたい。貴方の事が知りたいのよ。



ベタベタと絡んで、軽薄な態度で飄々と人を手玉にとるくせに…肝心な所で距離を置いてくる。本音を隠し、拒絶してくる癖に…熱を帯びた視線で求めてくる。


わからない。

わからないよ。

ヴォルフ。


貴方が何を抱えてるのか。

貴方が私に何を求めているのか。


「私…ヴォルフの事が知りたい。だから、ここに来たの。だめだった?」


こんな気持ち初めてなの。


「ねぇ。教えてよ。」


縋るように、言葉を零した。



「お嬢さん…あんた…そんなんだから…」



気付けば、ヴォルフの腕の中にいた。



「あんた…そんなんだから…俺みたいな…悪い狼に狙われるんだよ…。」


「あーあ。まいったな…。本当に…。」



「全部は…まだ言えない。…きっとあんたは…俺を軽蔑し拒絶する。」


「それでも…聞きたいか?」



抱き締められた腕から、微かな震えが伝わってきた。


私は黙ったまま…ヴォルフの胸元でコクリと頷いた。

アルファポリスで先行投稿中です。

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