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異世界の神子は、逆ハーを望まない  作者: 一花八華
第一部
26/32

22~瞳が宿す闇~

「この眼は…呪われているんだ。」


銀色の右目に眼帯を付けながら、ヴォルフが言った。


「…いや。呪われてるのは俺自身か…」


自嘲気味に笑い、私から目を背ける。


「呪われてる?」


そんなに綺麗な瞳なのに。


「ーバケモノ。」

「え?」

「バケモノなんだよ。俺は…。俺は入れ物で、他者の魔力を奪っていく媒体が、この右目。」


「普段は、こうやって抑えているが…。靠が外れれば、#他人__ヒト__#を襲う獣に成り果てる。」


窓辺の縁に腰掛け、外を見やるヴォルフ。月に照らされたその姿には、先ほどの獣の耳や尻尾が消えていた。


「バケモノ…って。ヴォルフは、ヴォルフでしょう?襲うって…誰かを殺したりそんなこと…」


「2人。」


「え?」


「2人殺したんだ。」


私の方を見つめ、笑いながら話すヴォルフ。





沈黙が流れる。

ヒトを殺した。


なんて答えていいのかわからない。


護衛騎士だもの。

仕事によっては…命を奪う。奪われる。そんな立場にいるのだとわかっている。


わかってはいるけれど…命のやり取りなんてした事も見た事もない、平和な世界で生きてきた私には、現実味を帯びなくて…何処か遠くの方で、その言葉を聞いていた。


そんな私の様子に、ヴォルフが言葉を付け足す。


「ああ、敵兵とか悪党とか仕事上仕方なく…とかじゃない。無抵抗な善良な人間の命を奪ってるから。」



「何の罪もない。心優しいヒトの命を…俺はこの右目で喰らった。」


トンっ…と人差し指で右目を衝く。



「それも…俺が望んで。」


「嘘。」


理解が追い付かなくて、口から否定の言葉が零れる。


「嘘じゃない。」


固まる私に近づき、ヴォルフが私の頬をそのひんやりとした指でなぞる。


「嘘なんかついて…どうするんだ?」


悲し気に揺れる金の瞳。


「愛されれば……奪う…そういった呪いなんだ。コレは…。」


「だから、誰も愛せない。」


そう呟く。切なさと懇願の交じる表情で見つめながら…苦し気に吐き出される。



「あんたなら…神子のあんたなら……死なないかも…そう思った。」


「だから、近付いて試して見ようと思ったんだよ。」


「俺も誰かに…愛されても……いいのか。知りたかったんだ。」


顎にかけられていた指は、私から離れ虚空を滑る。



「利用してやろうと思って近づいたんだ。」


「悪ぃね。お嬢さん。」



薄ら笑いを浮かべ、私の肩を掴む。



「なぁ。お嬢さん。もしかしてあんた。俺の事好きになってんの?」


その言葉に、ビクリと肩が震える。

ーなんて返していいのか…言葉がでてこない。



「ーってんなわけねーか。」



クスクスと笑い。顔を近付けてきた。

軽薄そうな表情を顔に浮かべて。



「あんたバカだよね。ちょっと優しくして、構ってやっただけなのに。こんなにコロッと落ちるなんて…」



唇が触れ合いそうな距離。

ヴォルフの吐息が、唇の上をなぞっていく。


「ほんとバカだな。…俺の事知りたいだなんて。真っ直ぐな瞳で見つめてきて。疑うって事を覚えないとダメだよ?お嬢さん。」


「そんな風に隙ばかりだと…悪ーーーい狼に…食べられちゃうよ?」


更に近づくヴォルフとの距離に、どうして良いかわからない。




「ーんっ!」


生暖かな感触に唇が塞がれた。



「んっんんっ」


ーくちゅ。じゅばっ。水音を立て、吸われる。



「ーぷはっ。ね?こんな風に。」


唇の上を、ぺろりと舐められる。



「ーやっ!!」


ードン!


思わずヴォルフの肩を突きとばしてしまう。



「ーはは。やっぱ無理か。」


混乱する私に、ヴォルフは渇いた笑いを落とす。



「まぁ。俺は、本当に悪い狼だからさ。お嬢さんも…あんま俺に関わらない方がいいよ。お互いの為にも。」


へらっと笑い、私を扉の向こうへと促す。


「ーヴォルフ…私…」


「なに?このまま続けていいの?受け入れてくれんの?…俺の為に…死んでくれんの?」



突き放す様な冷たい声に、背筋が氷つく。



「ーね。無理だから。俺もあんたを愛せそうにないし。…俺の事を知ろうだなんて止めてくれよ。」



「迷惑だ。」




ーバタン。



その言葉を残し、ヴォルフは扉の向こうに消えた。




一人残された私は…ただその場に立ち竦む事しかできなかった。

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