表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界の神子は、逆ハーを望まない  作者: 一花八華
第一部
23/32

19

海から吹いていた筈の風が、ぱたりと止み。

辺りは、静けさと共に暗闇が広がっていく。


私は、皆から少し離れ、一人岩場に腰をかけ海を見つめている。


海面には、大きな月の光が淡く波間を照らしあげ、その青白い光を見つめていると、神秘的でいて…近寄ると飲み込まれてしまう怖さを感じ、ぶるりと肌に寒気が走る。


ーふぁさ。


「夜の海は、冷えるから。」


そう言って、ヴォルフが私にストールを羽織らせた。


「お嬢さんに、風邪をひかれたら…他の二人が何かと煩いしね。」


そう言って私の隣に腰を下ろす。

普段あげている髪を、無造作に下ろし、ぼんやりと遠くを見つめるその横顔は、危うい色気を孕んでいて…何故か胸の鼓動が早くなる。


銀糸の髪が、月の光を受けてキラキラと溢れ落ち…思わず息を飲んだ。


「ん?」


何?そんなに見つめて。っと目を細め、ヴォルフが伺うような視線を私に向ける。


「惚れちゃった?」

「ーっな!?」


顎に手を宛て、不適に笑うその顔。なんだか悔しい。


「そんな事、あるわけないじゃない!」

「あらま。残念。」


私が即座に否定すると、ヴォルフは、愉しげにくつくつと喉を鳴らす。


「…流石女好きね。ストールとか、いつの間に用意してたのよ。」


ストールにしろ、やり取りにしろ…手慣れ過ぎていて、胸の辺りがムカムカする。


「怒らせちゃった?こんな事するのは、お嬢さんだけにだよ。ーって言って欲しい?」

「別に、貴方の特別になんてなったら、大変そうだから遠慮するわ。」


他の女性に、いわれのない嫉妬を向けられても困るもの。


「確かに。俺の特別は…キツイと思うよ。」

「俺の愛は、重いから。」


そう笑って私から目を反らす。一瞬、金色の左目が、哀しげに揺れた気がして、思わずヴォルフの手を掴んでいた。


「ん?」

「…ヴォルフ。貴方って…何者なの?」


ずっと気になっていた事。飄々として、神出鬼没。女好きでだらしない。口が上手くて、手も早い。その癖、瞳だけは真剣な色を宿し、熱を孕んで見つめてきたかと思うと、哀しみで揺らいで目を反らす。


チャラい色男かと思えば、貴族御用達のお店の常連で、所作が無駄に綺麗だし…。


「俺の事…気になる?」


気に…なる。…気になって…いる。

気が付けば、ヴォルフの事を考え、目で追っている…かもしれない。


気にしちゃいけない。気になっちゃいけない。


ヴォルフはダメだ。と本能が警告してくる。この男は、危険な雄男だ…。だから、捕まってはいけないーっと。


掴んだ手を、握り返され…肩がビクリと跳ね上がる。


「知りたい?…俺の事?」


覗き込まれ、その瞳が私を捕らえる。


「教えて…あげようか?お嬢さんだけに。」


吐息のかかる距離で囁かれ、ゾクリと背筋が震える。


ダメだ。この瞳に見つめられると…逃げれそうにない。


きゅっと目を閉じ、身を強張らせると


ーバコッ!!


至近距離で、無遠慮に頭を叩く音が響いた。


「ーった!!」


「何をするんだ!?セシル!」


非難めいたヴォルフの声に、腕を胸の前で組み、不機嫌さを顕にしたセシル君が、私とヴォルフを見下ろしていた。


「ーそれは、こっちのセリフなんだけど?」


今、ミコトに迫ってたよね?っと目を細めヴォルフを睨み付ける。


「目に入って、不快なんだけど。手当たり次第、口説くのやめなよ。」

「魅力的な女性がいるなら、チャンスがあれば口説くべきだと、俺は思うけどな。」

「そういう軽い態度が、ムカつくんだけど?他の女みたいに、軽い気持ちでミコトにちょっかい出すのは止めなよ。」

「へぇ?軽い気持ちじゃなきゃ…いいのか?」

「あんたが、本気で向き合う気があるなら…ね。」

「…。」


沈黙が、夜の海に溶ける。


ーはぁ。っとため息が溢れた。


「興が剃れた。お嬢さん。この続きは、またいつか…。」


そう言って、ヴォルフが立ち上がり、離れる。


「ヴォルフ?」

「俺の事…知りたければ。いつでも教えてあげるよ。」


「ただし。ベッドの上でね。」


振り向き様に、口角をニッとあげ茶化し去る。


「何なの…あいつ…。」


握られていた手に、ヴォルフの微熱が残っている。困惑する私の頬を、セシル君のひんやりとした手が、ムギュッと挟んだ。


「ねぇ。少し目を離したらこれなの?」

「え?」

「ミコトは、隙がありすぎるって言ってるんだけど。」

「はぁ。」

「危機管理無さすぎ!ヴォルフは、危ないって前に言ったよね?僕。それとも何?ヴォルフとそーいう関係になりたいの?僕、邪魔だった?」

「いや、そういうわけじゃないんだけど…その。ごめんなさい。」


セシル君の気迫に、たじろぐ。待って。私なんで叱られてるんだろう?


「あまり心配かけないでよね。僕だって付きっきりで側にいられるわけじゃないんだから。あんたに何かあったら…その…皆困るし!傷付いて泣くのは、あんたなんだからね。」


面倒見の良いセシル君は、弟もとい兄的ポジションにもなりつつある。

弟であり、兄であり、先生…。本当に頭が上がらないです。


「その。…いつもありがとうね。」


世話の焼ける姉でごめんね。って呟いたら、ミコトは、僕の姉じゃない!ってすごく…すごーく怒られた。ソウデスヨネ。こんな頼りないのが姉とか、嫌だよね。


宿への帰り道。

深いため息を吐くセシル君の頭を、ルドルフさんが、ポンポンと宥めるように撫でていた。


私も撫でたいなぁ…と見つめたら、凄い顔で睨まれたので、断念した。


いつか…セシル君の柔らかな髪を、私も撫で撫でしてみたいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ