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悪役令嬢後宮物語  作者: 涼風
にねんめ
225/280

主日の朝


 降臨祭(レ・アルメニ・アースト)の前半は、午前中にリディルと、ナーシャへの贈り物を探して出店を巡り、お昼にはランチスペースで他の側室たちと合流、会話して交流を深めつつ、午後はランチを一緒に食べた側室たちも交えて、出店をゆったり見て回るというスケジュールで、のんびりと過ぎていった。時間に余裕があったから、ナーシャへの贈り物もリディルと一緒に満足いくまで選べたし、昨年と同じようにディアナへのプレゼントもこっそり買うことができて。一緒に回りながら、リディルが気に入っていたものもこっそりリサーチし、取り置いてくれるよう、お店にお願いもできたので、シェイラとしては概ね満足のいく、出店巡りだったと感じている。

 ちなみに、今年は側室へ月々支払われる品質保持費の払い先が変更され、三分の一が実家、残り三分の二は側室個人へ支払われることになったため、昨年に比べ、シェイラの懐はかなり暖かい。側室によっては、必要経費を残して実家へ仕送っている者もいる(リディルが代表例)が、あの叔父にお金を渡したところでろくな使い方をしないのは分かり切っているので、シェイラは全額、手元で貯金だ。何度か金を無心する手紙が来た気もするけれど、読んで燃やしてそのまま忘れた。

 そんなわけで、昨年に比べ、懐にかなりの余裕があるシェイラは、買いたいものを前に値段を聞いて涙を飲むような悲しい思いをすることもなく、リディルと二人、楽しい日々を過ごすことができた。とはいえ、無駄遣いはすることなく、堅実な買い物を心がけたので、「お祭りでくらい、羽目をお外しになってもよろしいのに」とリディルに呆れられたが。


 そして――迎えた、25日の礼拝日。


「シェイラ様……! とてもお綺麗です!」

「えぇ、本当に。まるで、雪の精霊のようですわ」

「褒めすぎよ、マリカ、レイ。……でも、ありがとうね」


 今年の礼拝用にとレイとマリカが選んでくれたのは、薄水色の生地に細かいレースを重ねた、シンプルながらも品の良いもの。薄いレースが薄水色の生地に被る様は、レイが言う通り、ドレスに雪が降り積もっているかのようだ。目立つ装飾はほとんどなく、準正装用ドレスとはいえ茶会へ着ていくのには躊躇するだろうけれど、礼拝といった厳かな場へ赴くに、これ以上の衣装はないだろう。


(そういうことが分かるようになったのも、正妃教育のお陰よね……)


 正妃ともなれば、式典などで着用する衣装は全て国が用意するものだけれど、己が纏う服装にどういった意味があり、場に相応しいものかどうかを理解して着るか着ないかでは、振る舞いに明らかな差が出てくる。王宮の衣装係ももちろん一人ではなく、デザイナーからお針子といった作業員から、出来上がった衣装を管理する侍女女官、ドレスに合わせた宝飾品や衣装小物を用意する部署まで、関わる人員は多岐に渡るわけで。万が一、その中の誰かがミスをする、あるいは悪意をもって関わるだけで、貴族たちから後ろ指差される事態へ陥りかねないのだ。自衛のためにも、いざというとき下の者を守るためにも、纏う衣装の〝意味〟を知っておくことは大切なことであると、シェイラは方々から教わった。

 化粧もまた、ドレスに合わせて控えめに施してもらい、ドレッサーの前で最終確認をしてから、シェイラは軽やかに立ち上がった。


「では、行ってきますね」

「はい、シェイラ様!」

「いってらっしゃいませ」


 綺麗な礼で送り出してくれた二人に微笑んで、シェイラは自室を後にする。昨年もそうだったが、側室が集う臨時の礼拝室には、侍女を連れて行かないことが暗黙のマナーなのだ。おそらくは、王都の神殿が貴族の集うものと平民の集うものとで何となく分かれている影響だろう。側室たちばかりの礼拝室に、仕える立場の女官侍女までも集うべきではない、という。


(そんなこと言い出したら、身分的に紙一重な私たちはどうなるんだ、って話だけれど)


 側室、というだけで、綺麗に整えられた礼拝室で、朝一番に王都の偉い神官様から徳のあるお言葉を頂戴できるのだ。シェイラの実家、カレルド男爵家の家格だけを考えれば、たぶん社会的身分はマリカとどっこいどっこいのはずなのに。そう考えると、身分なんてものも案外適当な概念だな、と思う。


(ディーと出逢って、正妃を目指すようになって、色々と勉強をして、だからこそ思うことなのかしらね)


 昨年のシェイラは、後宮の礼拝が〝側室〟と〝女官侍女〟で分かれていることなど、深く考えてすらいなかった。そこに気付き、どうしてなのかを考えられるようになった今は、昨年の同じ頃より、少しは成長できているはず。……そう、信じたい。


「まぁ、シェイラ様」


 昨年と同じく、臨時礼拝室の開室と同時に室内へ滑り込んだシェイラは、次いでやってきた側室に声をかけられ、自然な動作で振り向く。あまり目立たないが優しい顔立ちの彼女とは、何度か言葉を交わしたことがあった。

 立ち上がり、礼を執る。


「おはようございます、アナベラ様。昨年もでしたが、お早いですね」

「シェイラ様こそ。去年も確か、真っ先にいらっしゃってましたでしょう?」

「えぇ。礼拝が始まる前の、この静かな時間に、己の胸の内と向き合えればと思いまして」

「ご立派ですこと」


 微笑んで頷いてくれる令嬢の名は、アナベラ・サングライ。サングライ伯爵家の一人娘で、歳は確か、ライア、ヨランダの一つ二つ上だったと記憶している。貴族令嬢としてはそろそろ〝嫁(い)き遅れ〟と揶揄される歳へ差し掛かり、実際、現後宮で最年長であるという話も耳にするが、当人が気にしている様子はない。サングライ伯爵家そのものは建国前から続く名家であり、昔から変わらぬ保守寄り中立という安定した政治的立場のもと、堅実な領地運営を行なっている、エルグランド貴族らしい〝貴族〟。その一人娘であるアナベラも、出過ぎず、かといって引き過ぎることもなく、ほどほどに社交界で名を知られた存在であった。彼女は一人娘だから、いずれは婿を取って家を継ぐのだろうと思われていたところ、気づいたら後宮入りしており、彼女を知る誰もが驚いたという。

 そんなアナベラは、後宮にてリリアーヌから誘われつつも彼女のサロンへは足を向けず、新興貴族への嫌がらせには明確な拒絶と嫌悪感を示し、後宮にて浮きかけていたところ、新たにやって来たディアナを見込んで、実家とは関係なく『紅薔薇派』へ参入した胆力の持ち主であったりする。動機はもちろんリリアーヌの勢力を牽制するためで、その後、『名付き』の三人が密かに『中立派』を立ち上げた際は、その理念に賛同し、隠れ中立派として、協力してくれてもいた。例の側室一斉健診にて、ライアとヨランダが信を置き助力を願った側室の一人でもある。

 一年前は〝優しい方〟程度の認識しかなかったアナベラへ、シェイラは親しみを込めた笑顔を向けた。


「アナベラ様は、いつも礼拝の際、これほどお早くいらっしゃるのですか?」

「えぇ。わたくしの実家、サングライ伯爵家は、先祖代々、アルメニア教を信仰しておりまして。家にも簡易な礼拝堂があり、毎週末、お祈りを捧げることが日課でした。特に主日の礼拝は夜明けから神ごとに供物を捧げて拝礼しておりますの。その習慣からか、礼拝時間まで部屋でじっとしていることがどうしても落ち着かなくて」

「……神ごとに拝礼、ですか?」

「今ではあまり、知られておりませんけれど。アルメニア教は神話に則り、多くの神を祀っておりますゆえ、主日の礼拝は夜明けから日没まで、それぞれ定められた時間に定められた供物を、特定の神へ捧げて拝礼する祭日だったのですよ」

「あぁ、だから今の礼拝は、王国のどの神殿でも、始まる時間が同じなのですね。察するに、私どもが礼拝している時間は、アメノス神へ祈りを捧げるとき、なのではありませんか?」

「まぁ、驚きました。シェイラ様は、ご理解が早くていらっしゃいます」


 シェイラは生まれも育ちも王都だけれど、父がカレルド男爵であった頃は、年に何度かカレルド領へ行く機会があり、領地で年越ししたこともあった。その際はもちろんカレルド領の神殿で礼拝したが、領地の神官が日時計でかなり神経質に時間を確認していたことが、子ども心に不思議だったのだ。今、アナベラから話を聞いて、当時の謎が腑に落ちた。

 そんな説明をつらつら語ると、アナベラは大きく頷いた。


「そういうことです。ちなみに余談ですが、エルグランド王国の国教となってからのアルメニア教はアメノス神を主神としておりますが、実のところ、アルメニア教に〝主〟となる神はいらっしゃいません。神話の中で、アメノスの登場率が最も高いことは確かですが」

「そうなのですか?」

「本当にアメノスが主神でしたら、礼拝時間が午前中の、これほど中途半端な時間に設定されているのは、妙だと思いません?」

「……確かに」

「現在に伝わっておりますアルメニア教は、アメノスが〝主神〟として違和感ないよう、彼の残念エピソードがかなり省かれているか、マイルドになっているのです。我が家には、ギアル帝国時代に書かれたアルメニア神話集が残っておりますけれど、そこに記されているアメノス神は、大変に面白い〝神様〟ですよ」

「面白いんですか? アメノス神が?」


 アルメニア神話で語られる、全知全能の光の神、アメノス。農耕の神トゥルヌスを父に、豊穣の神リィアを母に持ち、人類繁栄の礎となった神とされている。強き父と優しき母、賢き兄と愛しき妹に恵まれて過ごした少年時代、争いの根源とされた神々によって父を喪い、やがて長じた彼は父の仇を討ってその無念を晴らし、妹と数多くの女神を娶り、人間世界の守護神たる神々の父となった。現在に伝わるアルメニア神話は、その多くがアメノスの活躍を綴ったものと言っても過言ではない。以前、ディアナの部屋にあったアルメニア神話集を暇潰しに読んだカイは、「アメノスがどんだけ凄いかばっかり書かれてて、中盤以降飽きてきた。もうちょい緩急付けた方が読み物としてのクオリティは上がるんじゃない?」と大真面目な感想を述べ、「神話に読み物としてのクオリティは要らないのよ、たぶん」とディアナに返されていたらしい。

 孝行息子であり、愛嬌ある弟であり、良き兄であり、悪を討つ英雄であり、頼れる夫であり、導(しるべ)たる父親であったと神話内で礼賛されているアメノス神に〝面白い〟という形容詞は、シェイラの中からは出て来ないが。


「はい、面白いです。アメノスの浮気エピソードなんか、特に笑えますよ。ちょっとした浮気が正妻のジュピアにバレ、泡を食って逃げて、結局捕まって土下座で言い訳するんですけど」

「えっ」

「その言い訳が、『他の女性を味わうたびに、君の素晴らしさが再認識できるんだ。君が妻である幸福を噛み締めるために、僕は他の女性を抱くんだよ』です」

「……浮気の言い訳の中でも、最低の部類では?」

「ですよね? もちろん、結婚と母性の神である正妻ジュピアは、そんな言い訳を聞き入れはしません。『他の女を抱かなきゃ妻の素晴らしさが分からないような男は、非常食くらいの役にしか立たないわね』と返して、藁縄でアメノスをぐるぐる巻きにした後、本当に軒下に吊るして干物にしちゃうんです」

「……今すごく、ジュピア神に好感を抱きました」

「そんな残念エピソードが、アメノスに関しては、山のようにあるんですよ。父親としてもあんまり褒められなくて、実の娘との間に子どもを作ったりとか、気に入った女神を息子の嫁にしたは良いけど、結局自分でも手を出しちゃったり」

「ええぇ……?」

「その度激怒するジュピアと逃げるアメノスの追いかけっこまでがセットですね」

「私の中のアメノス神像が、音を立てて崩れてます……」


 別にシェイラはアメノス神に傾倒する信者ではないけれど、今まで完全無欠のヒーローのように思っていた存在が、実のところ女にだらしないダメ男だったと聞かされたら、一気に印象が塗り替えられてしまうのは、仕方のないことだろう。よく考えたら、アメノスの子とされている神々は数多く存在する中で、ジュピアを母に持つ神はそう多くない。裏返せば、他のほとんどはジュピア以外の女神たちが産んだわけで、つまりその分、アメノスは浮気を繰り返していたことになる。

 シェイラの感想に声をたてて笑ったアナベラは、礼拝で持つに相応しい光が散ったような模様の扇をはらりと広げた。


「アメノスを擁護するわけではありませんけれど、ギアル帝国時代のアルメニア神話集は、アメノスや彼の子どもたちの冒険活躍譚と、神々の残念小話が良い具合に混ざり合っていて、大変に面白い読み物ですのよ。今は残念エピソードばかりお話ししましたから、イメージが悪くなってしまったかもしれませんが、アメノス神が文句なしに格好良い冒険譚の後に浮気小話とジュピアへの土下座が出てきたら、『英雄も家に帰ればただの人なんだな』と微笑ましく思えます」

「それは……何となく分かります」

「ギアル帝国が吸収される形でエルグランド王国と合併し、アルメニア教が王国の国教となった際、大衆に受け入れられやすいよう、神話や礼拝習慣などが今の形に整えられていったと聞きます。改編されていないアルメニア神話集はかなりの巻数がありますし、神ごとに違う供物や拝礼方法などもややこしいですから、帝国時代のままでしたら、今の時代まで宗教として生き残りはしなかったでしょう。分かり易い部分だけを抜粋して整え直したからこそ、この時代まで人々に親しまれていることは理解しておりますが、個人的には、ちょっと残念でもありますね」

「残念ですか?」

「――アルメニア神話は、とても面白い物語ですから。それがあまり知られていないのは、アルメニア神話を愛するものとして、残念なのです」

「……そういった気持ちでしたら、とてもよく分かりますわ」


 多くの人から、愛する〝誰か〟が誤解され、真の姿を見てもらえていない場面に遭遇するたび、響かないことなど承知で叫びたくなる。


 ――あのひとは、あなたが思っているような人じゃない。優しくて、温かくて、時にこちらが不安になるほど、困ってしまうほど、お人好しな人なの。

 よく知りもしないくせに、見た目だけで、噂だけで、あのひとを語らないで。

 ちゃんと、あのひと自身を見て――


 言ったところで、噂を信じ、自らを正しいと信じきっている人に伝わることはほとんどない。多くの人は、仕入れた噂で真実を知った気になって、その後で本人と接しても、〝噂〟を通したバイアスでしか、判断できないから。

 それでも、伝えたいと願うのなら――。


「……アナベラ様。ギアル帝国時代のアルメニア神話集は、当然ながら、ギアル帝国語で書かれていますよね?」


 少し考えて尋ねると、扇の向こうでアナベラも真面目に頷いた。


「えぇ、その通りです」

「ギアル帝国語で書かれたアルメニア神話集を、エルグランド語に訳すことは可能ですか?」

「そうですね。我が家にはギアル語を読める人間が複数おりますから、お時間さえ頂ければ可能ですわ」

「でしたら、一度、ギアル帝国時代の、改編されていない『アルメニア神話集』を、エルグランド語に訳してみてください。そして、訳したものを後宮へ寄贈して頂けませんか?」

「え、えぇ。寄贈は構いませんが……?」

「私が読んでみて、面白ければ、〝お友だち〟へ伝えます。そうして後宮で『アルメニア神話集』が流行れば、貴族へ、やがては市井へ、面白い〝物語〟として広まるかもしれません」

「……確かに。本当は面白いのにと愚痴る暇があるのなら、その面白さを人々へ広める策を考えて実行する方が、何十倍も建設的ですわね」

「はい」


 そう、百聞は一見にしかず。面白いものなら、その面白さがダイレクトに伝わるよう、工夫すれば良いのだ。幸いにして、『アルメニア神話集』はクレスター家のような、本当は面白いものがつまらなく見える謎フィルターなど、存在していないのだから。


「しかし、改編前の『アルメニア神話集』は、本当に膨大なのです。読書が好きな方は良いですが、あまり好まれない方は読み進めるのが大変かもしれません」

「であれば、まずはアナベラ様の思う面白ポイントをまとめた小冊子的なものを作ってみては? それを読んで興味が湧いた方に訳した本を貸し出せば、途中で脱落することはないと思います」

「――とても良いアイディアですわ、シェイラ様」


 いつの間にか並んで座り、熱心に会話する二人を、後からやって来た側室たちがチラチラ、気にしたように眺めている。シェイラとアナベラが挨拶プラスアルファの雑談を交わす仲であることは周知の事実でも、ここまで真剣に話し込んだことはないから、意外な組み合わせのように思われているのだろう。


「――おはようございます、アナベラ様、シェイラ様」

「……おはよう、ございます」


 そこへ現れたのは、リディルと、彼女に連れられて来たらしい、ナーシャ。

 最後に会ったときとは見違えて元気な様子のナーシャに、内心だけでほっと胸を撫で下ろし、シェイラは明るく笑って立ち上がった。


「おはようございます、ナーシャ様、リディル様。良き朝ですね」

「――っ、えぇ、まことに」

「アメノス神が世界を祝福しておいでだと、よく分かる晴空ですわね。――ところで、シェイラ様はアナベラ様と何のお話を?」


 久々に出てきたナーシャへ注目が集まらないよう、すぐさま会話を周囲の興味の対象へスイッチするリディルは、さすがの会話妙手である。ありがたく乗っかり、シェイラは大きく頷いた。


「博識なアナベラ様から、アルメニア神話集の『原典』についてお伺いしていましたの。私たちが知るアルメニア神話集は、アルメニア教が大勢へ親しまれるよう重要なお話を抜粋したもので、『原典』には他にも興味深いエピソードがたくさん載っているのですって」

「それは興味深いお話ですこと。私も読んでみたいわ」

「はい、私も気になります」

「まぁ、本当ですか? シェイラ様からもリクエストされたところでしたので、近々、『原典』の翻訳作業に入ろうかと思っていましたの」


 アナベラは、ナーシャの〝体調〟について知らないはずだが、偶然か意図的にか、リディルの広げた会話の風呂敷に自ら乗って来てくれた。ナーシャも、ややぎこちないながら会話に加わってくれて、ところどころで感じる視線から、彼女の気持ちの変化が窺える。


(……ディーの言っていた通り、ナーシャ様のお心が〝追いついた〟のかしら)


 だとしたら――今こそ、手を伸ばすときなのかもしれない。


「アナベラ様が好きなお話は何ですか?」

「そうですね……アメノス神のエピソードも秀逸ですが、わたくしは黄泉の神、イザノスの物語が好きでして」

「まぁ、イザノス神?」


 アナベラと、リディル、ナーシャの会話は、途切れることなく弾んでいる。周囲からは〝いつもと変わらない仲良し三人組に、今日は流れでアナベラが加わった図〟に見えるはずだ。ずっとシェイラとアナベラが話していたこともあってか、周囲からナーシャは、さほど穿った目で見られていない。


 礼拝が始まる直前、『名付き』の四人が礼拝室に足を踏み入れるまで、シェイラは三人との会話を楽しんだ。

 ……こちらを遠巻きにしている『牡丹派』側室たちから刺さる、〝身分を弁えず、後宮内で勢力を拡大しつつある、目障りな女〟を見る目に、気付かないフリをして。


前からちょくちょくお名前の出ていたアナベラさんのお目見えでした。

この物語においてはサブキャラの彼女ですが、ある意味で欠かせない、〝この世界〟のキーパーソンの一人です。

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