第5話:駆除
「とまぁ、ここまで、今起きてることについて話してきたわけですが、ここからは、このMaliceの駆除についてです」
「データの解析もできないのに、駆除ができると…?」
「これは、実際に見ていただくのが早い」
ヨシカワは、自身の左側の壁にあるスクリーンの電源を入れ、ある女性キャラクタ―の後ろ姿の映像を映した。腰までまっすぐ伸びた美しい金髪だった。
「先ほどお話ししたMaliceと接触した1人目の女性、アイリさんです」
「この人が…」
アイリは、自身の背丈ほどの槍を背負っていた。
「この映像は、アイリさんの協力が得られてから3か月後、Maliceによるものとみられる12度目のプレイログの異常が観測された後すぐに、アイリさんに現場へ急行してもらった際の映像です。アイリさんの見つめる先の存在に見覚えがあるかと思います」
「……」
“短い”銀髪の女性キャラクターが存在していた。
「私が見た時と外見が違いますが……。あれは、Maliceなんですか?」
「そうです」
映像の中のアイリとヨシカワが会話する。
『じゃぁ、ヨシカワさーん、いつも通りいきますよー。』
『ええ、お願いします。くれぐれも油断せずに。』
『はいはーい。』
映像の中でアイリとヨシカワの会話が交わされた後、アイリは背負った槍を抜いた。穂先をMaliceに向け、腰を低く構える。Maliceとの距離は約10メートル離れ、アイリの存在に気が付いていないMaliceに動きは無い。
『では、いきまーす。』
アイリは、穂先をMaliceに向けたまま、槍を体の後ろに引き、力を貯めるそぶりを見せた後、叫んだ。
『ライトニングスピア!』
しなやかに体が反発、全ての力が穂先に集まり、Maliceとの距離を刹那に詰める一閃の突きが放たれた。Maliceは反応する間もなく、アイリの槍に貫かれ、胸から腰の中に、巨大な空洞を作った。
『やりましたか!』
『ちょっと、ヨシカワさん!それ言うのやめてよ!』
Maliceは、ゆっくりと攻撃の主に対して向き直りつつ、自信の体に空いた穴に手をかざす。手に紫色の光の粒子が集まり、欠損した部分を即座に修復する。
『ヨシカワさん、それいわゆる敵が生きていることを確認する生存フラグですから。もう2度と言わないでください。』
『生存フラグ?よくわかりませんが、とにかく、やはり通常のスキル攻撃では効果がないようですな。アイリさん、申し訳ないですが、この前のあれをお願いできますかね。』
『了解しましたー。』
アイリは、後ろへ大きくステップし、Maliceから距離をとった。槍を体の正面に持ち、目を閉じる。
『シーズ』
アイリがそう呟くと、淡い若草色の光の粒子が彼女の周りに生じ、手中の槍全体に纏い始める。アイリは目を開き、十分な光が集積したことを確認すると、改めて右半身を引くとともに体全体を低く構え、穂先をMaliceへ向け、唱える。
『では、もう一度…ライトニングスピア!』
峡谷を流れる川のようにしなやかに流れ、力強く弾ける彼女の動きに美しさを感じた。ただ、美しさに心を震わせる暇もなく、2者の間を横一線の黄金色の雷が駆け抜け、先ほどの恐ろしいほどの威力を思い出せと言わんばかりにMaliceの体に大穴をあけた。為すすべなくアイリの攻撃を受けた銀髪の女性は、自己修復能力を行使するにみられたが、先ほどと違って、しばらくしても動きはない。
『決まったね。』
『では、アイリさん、とどめをお願いできますか。』
『りょーかいです。』
アイリは、体の重心を下げる。右足に全体重を集中させ、弾く。淡い若草色の光を纏う槍を持つアイリは、さながら流星のように光の軌跡を残して、Maliceとの距離を瞬時に詰める。アイリが移動した線に沿って、体を震わす重い音がとどろき、ほぼ同時に生じた圧力波が草木を激しくかき鳴らす。Maliceは、距離の遠いほんの小さな点であったはずの存在が、突然存在感を増して視界の大半を埋めた現象に反応ができないまま、彼女の連続した高速の突きを受ける。
ひと瞬きほどの、ほんの一瞬での決着だった。体中に穴が開き、1つの生命体としての機能を維持できなくなったMaliceは、紫色の粒子を立ち昇らせて自己崩壊を始め、空気中に霧散していった。
『ヨシカワさんー。終わりましたよー。』
アイリは、ヨシカワに呼び掛けた後、張り詰めた緊張を解くため、胸いっぱいに空気を吸い込み、大きなため息をついた
『ご苦労様でした。アイリさん。前回同様、非常にスムーズな駆除ですな。見ている側としては、とても安心できますわ。』
『なんか上手になっちゃったね。』
結果は満更でもないといったように軽めの笑顔を浮かべ、槍を背負いなおしたアイリの姿を最後に、映像は終了した。
ヨシカワが映像の内容と趣旨を説明しようと口を開く前に、ヨシカワに向き直って呟いた。
「若草色の流星だ。綺麗だ」
「ええ?」
なぜ星には、赤、青、白といった色が存在して、緑系統色はないのかと疑問を抱いた。もし、創造主が存在しているとすれば、アイリを唯一の存在たらしめるため、あえてその色を使わなかったのだという仮説を真剣に思料した。史上初の若草色の流星、それがアイリに対するファースト・インプレッションだった。




