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VRMMO「Malice」―銀髪少女の悪意  作者: Hon_S
第一章:プロローグ ~リセット&リスタート~
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第4話:実態

「っとその前に、一度休憩でもいれませんか。突拍子もない話で、聞くだけでも疲れたでしょう。」

「そうですね……」

「休憩がてらにちょっと私はお手洗いに。ついでに飲み物でも買ってきますが、何か欲しいものはありますかね?」

「あ…えっと、ありがとうございます。冷たいお茶でもいただけたら、助かります」


ヨシカワが席を立ち、部屋を出ていく。


自分が想定していたより事態は重大だった。

それに、ヨシカワの脅しめいた発言と、急な親しみやすさにかき乱されて正直なところ動揺している。

ただ、人一倍キャラクターに愛情を注いできたし、簡単には諦めきれないという強い意志もあった。


加えていえば、ただのゲームはずなのに死のリスクが生じるという

前代未聞の事象にも、いささか好奇心が抑えられずにいる。


一応、話を整理すると、死のリスクがあるけど、ぜひ協力してほしい。協力しないなら、お金と引き換えにキャラ再生は諦めてくれ、か。


うーん。やっぱり、協力する内容を聞かないとなんともいえないな


「どうも、お待たせしました。」

「いえいえ。」


ヨシカワが冷たいお茶と自分用のチェリーコークを机の上に置く。


「ささ、どうぞ。」

「どうもありがとうございます。…チェリーコークがお好きなんですね」

「この薬っぽい味がどうにもたまりません。疲れた時にはこれです。」


ゴクリ、とそれぞれが喉を鳴らす。


「さて、本題ですね。Maliceの存在と、それによる影響。それから最後にその駆除について話します。」


ヨシカワは、A4用紙1枚にまとめられた文書をテーブルの上で少し滑らせつつ、俺の手元に置く


「まず、端的にいいますとMaliceはバグです。バグですが、ただのバグではなく、ゲーム内に存在する有機生命体ではないかと考えられているんですわ。つまり、我々人間と同じように生命を持っている。ま、VRMMO<Malice>の中だけでの話ですが。」


出かかった質問を抑えて、黙ってうなずく。


「我々がMaliceの存在に気が付いたのは、サービス開始から半年後。ジュンさんと同じように、ある女性からアカウントが凍結されたとお問い合わせに連絡があったんですわ。その時は我々も、単純にシステムのエラーが原因で、単純にアカウントの凍結を解除をすれば元通りになると思ったんですわ。しかし驚いたことに、その女性キャラクターデータは、修正不可能な形になっとったんです。バックアップデータが適用できなくなってましたわ。」

「……」

「ロールバックができないなら、現在のデータを直接改変できるよう社内認可を得たんですわ。ただ…」

「ただ……?」

「彼女のキャラクターがもつデータが圧倒的に多量、かつ、そもそもデータを識別可能な形に可視化することすらできなかった。つまり、データをいじることすらできなかったんですわ。」


ヨシカワは、肩を落とし、続けた。


「で……。我々もそれ以降お手上げ状態。それから半年間、この件に対処するために特別に招聘されたシステムリスク専門委員会がデータ解析を続けていますが、ほとんど成果はありませんな。」

「……その女性プレイヤーは、今どうなさっているんですか。」

「その方は精力的に我々の研究を手伝ってくれてますよ。大好きな<Malice>の危機ですからー!ってな具合で。」

「そうですか…」


内心ショックだったろうにな。

その人だってこれまでかけてきた時間や情熱が自分のせいではないのにゼロになってしまったのだ。

それにもかかわらず精力的に手伝いをしているなんて尊敬ものだ。


「そして……ここからお伝えするのは、最高機密度の情報です。心して聞いてくださいな。」


ここからが本題、とヨシカワが前のめる。


「実は我々が認識していないだけで、データのゆがみは既に起きていたんですわ。先ほどお話ししたのは2度目の被害ケースです。今でも悔やまれますが……実は2度目の事件の1か月前に20代の女性プレイヤーが、『Malice』をプレイ中に亡くなったんですわ。」

「なっ…!?」

「驚かれるのも無理はありません。死因は、脳へ過度な情報が与えられたことにともなう脳の麻痺。それにともなう身体機能の停止です。システムリスク委員会の調査では、亡くなられる直前に、短時間に解析不能な超大量なデータの送受信がみられたとのことです。」

「まさか、その大量のデータの送受信が、脳の麻痺を引き起こしたと……?」

「ええ。」


ヨシカワがとんでもないことを語る。

脳の麻痺がゲームプレイによって引き起こされているのであれば大問題だ。


脳に過度な負荷を与えないことがKoKoRo Entertainmentの優れている所以ではなかったのか。


「そして、それが謎の銀髪女性のMaliceと接触したときに起きたと…?」

「9割方、そうみられてますわ。」


ヨシカワによると、2度目の事件が判明した際にこれに類似したデータのゆがみが

これまでにも見られていないかどうか徹底的に調査したそうだ。


そして判明したのが、1度目の被害者の死亡。


「これまでの被害者のプレイログを見ていると、ログアウトする直前に、解析不能なデータの乱れが観測されてます。ちなみにですが……。」


ヨシカワが少しためらうように間をあける。


「ジュンさんのケースもまったく同様です。」

「それは、私にも死のリスクがあったってことですか?」

「そうです。まず、死の危険にさらしてしまったことは本当に申し訳ありません。」

「……正直、がっかりです。そんな事例が確認されていたなら、ゲーム運営を続行すべきではなかった。今すぐにでもやめるべきです。」

「それは、そうもいきません。今回のプロジェクトが政府肝いりだということはお伝えした通りです。我々に多額の資金提供がなされていて期待も大きいということもありますが、それ以上に、この技術を娯楽として提供することができれば、使用データの蓄積が進んで、今後、医療・軍事面を中心にさらに没入型技術の発展が見込めるんですよ。政府としてのイノベーション戦略の1つなんですわ。」


黙ってヨシカワの話を聞く。


「なによりも、今回ゲーム運営を止めてしまえば、それら資金がパーになるほか、当技術で人が亡くなった理由が不明なまま研究がストップしてしまう。研究再開に至った際にまたこの問題が起きる可能性もある。だから、原因がはっきりするまでは、ゲーム運営を止められないんですよ。一応言っておきますと、政府にはMaliceについて報告していて、こういう判断になっています。今後もこうしたケースが増えていけば話は別ですが、今のところはゲーム運営が止まることはありません。」

「……。」


自分が死ぬかもしれなかったということ以上に、

亡くなった女性が救われないな、と思った。


正しさはいつも、権力者の都合で変えられてしまう。



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