第6話:発現
アイリのMalice駆除映像に惚けていたジュンに対して、
ヨシカワが現実に戻すべく声をかける。
「ジュンさーん、どうしました?大丈夫ですか?」
「はっ。」
軽い咳ばらいをした後、ヨシカワが話を続ける。
「……ええっと、気を取り直しまして。まず、アイリさんの映像を見ていただきました。Maliceの駆除の映像です。」
「はい。美しかったですね。」
「そ、そうですね。……端的に言いますと、これをジュンさんにお手伝いいただきたいわけですわ。」
「……なるほど。」
ヨシカワの要請を理解し、
疑念が少し晴れる思いがした。
一方で、聞いておくべき疑問は数多く残っていた。
「ヨシカワさん、私にやってほしいことは、理解しました。でも、聞きたいことがたくさんあります。よろしいですか。」
「どうぞ。」
「まずは、駆除の仕方についてです。通常のスキルが効いていなかったのに、アイリさんが何かを唱えて若草色の粒子を纏い始めてからそのスキルがMaliceに対して有効になったのは、どうしてですか」
「Maliceにはですな。仰る通り普通のスキルが効きません。正確に申し上げると、Maliceはダメージを受けたというデータを、すぐに修復してしまうんですわ。あれは、Maliceのデータ改変能力とでも言うんでしょうかね。Malice側が、ゲームの仕様上にない書き換えを行って、ダメージを受けたという現象を別の事象に上書きするんです。今回で言えば、『ダメージを受ける前の状態』ですな。」
「それは……ゲームの仕様ではない能力をMaliceが持っているということですか。」
「ええ。そういうことです。通常、自分がダメージを受けたら、回復アイテムか、回復魔法を使って体力を回復しますな?あれは、ダメージを受けたという形跡は残りますし、ゲームログ的には、そのダメージによって減ったHPを元に戻すといった作業をやっているわけです」
「ええ、分かります。」
「ただし、Maliceの場合は、ダメージがあったというログすら残りません。遡及的にそのログを改変することで、自身のダメージを回復させていると考えられますな。」
「……チートですね。」
チート。
通常の仕様以外の改変をゲームに加えることで、ゲームを有利に進めること。
KoKoRo Entertainmentでは、そういった不正を防ぐセキュリティ面も
堅牢な対策が講じられていたはずであった。
こうしたセキュリティを潜り抜け、Maliceはデータ改変によって、自身への影響を無効化している。
「弊社のチームでも、あの改変には参っておりましてな。そこで!アイリさんの出番というわけです。」
「アイリさんの、スキル……ですか?」
「そうです。彼女が唱えていた言葉、『シーズ』ですが、あれにはどうやら、データの改変を拒否して、固定化させる力があるようなんです。」
「は、はぁ。初めて聞くスキルですね…?」
はっはっはと豪快に笑うヨシカワ。
「そうでしょうな。我々が導入したスキルではありませんからな。しかし、災い転じて福となすというか、ああやってMaliceの駆除をやってもらっているというわけです。」
「はあ……。」
「で。もう少し経過を見る必要はありますが、ジュンさんも、Maliceに襲われたことをきっかけに、アイリさんと同様の能力を手に入れている可能性が高い。それを使って我々に協力していただきたいと思っています。」
「でも、今のところ私自身にそんな能力が備わった感覚は全くありませんが…。」
「今はそれで大丈夫です。少し経過を見ましょう。」
自分の特殊能力とは何か、凍結アカウントは本当に復活しないのか、
今後何をすべきか、これまでの被害状況はどうか、KoKoRo Entertainmentの経営陣や政府はどう考えているのか、今の仕事はどうすればいいのか等々、
ヨシカワに対して質問の嵐を浴びせようとその場になおったが、
それを読んだのか、ヨシカワがジュンに対して先制提案を行った。
「……ふむ。もう、夜の11時ですな。なんやかんやでかなり時間をいただいてしまいました。ジュンさん、沢山疑問はあるかと思いますが、これ以上は、明日にしましょうか。」
ヨシカワは立ち上がり、
今日はもう店仕舞い!とでも言いたげに一度手を鳴らした。
「明日のもう少し早い時間に、今後のことについて話しませんか。どうでしょう。」
「……分かりました。今日はもう遅いので、また明日。19時半時にはログインできるのではないかと思います。」
「では、そうしましょう!今日は本当にありがとうございました!」
はっはっはと豪快に笑うヨシカワ。
ヨシカワの案内で、ギルド「レイブン」の外まで案内された。
そこで2人は明日の時間を再度確認し、別れを告げた。
新規キャラクターでゲームをプレイする気にもなれず、その日は大人しくログアウトし、眠りについた。




