第37話:ただ1つの目的
ダンジョンに再入場したことで、ダンジョン内の黒龍達は復活している。
5人でダンジョンに入場したときのように隅々まで狩るというわけにはいかないが、アルデバランの待つマップの最短距離に位置する黒龍はしっかりと経験値として頂いておく。
大体12体ぐらいは全部で狩ることになるだろうか。2~3レベルくらいの上昇は固いな。
見慣れたダンジョンを走りながら進むと、最初の黒龍と遭遇する。さっき入場したときのレベルは21。さすがに大鎌の刃が黒龍の厚い鱗に阻まれていただろうが、もうその心配もない。
神話級大鎌『サリエルの鎌』で、大天使サリエルよろしくその命を意のままに刈り取ってやる。
20メートルほど離れた距離をスキル『アクセル・ステップ』で瞬時に詰める。近接戦闘職には必須のスキルだ。きる郎も使っていたスキルだが、上級プレイヤーでいたいのであれば、当然このスキルを使いこなすことが求められる。
急速にレベルアップする中で、当然俺もこのスキル得た。
タン、タタン。絶命の輪舞を黒龍に奏でる。黒龍は敵が接近したとは気が付く間もなく、致命の一撃を心臓に食らい、倒れる。
レベルアップだ。
そして、勢いをそのままに、最短距離でアルデバランのもとにまで向かう。道中の残り11体の黒龍もリズミカルに処理をしていく。
絶命の輪舞を追って、レベルアップのファンファーレがダンジョン内に鳴り響く。
久々に昔のスピードと攻撃力を取り戻して、ランナーズ・ハイ状態だ。今のままであれば、どこまでも行けるような絶頂感を抱く。
そして30分走り続け、アルデバランのもとにまでやってきた。これまでこのダンジョンを攻略してきた誰よりも早いペースだ。
レベルは74から78へと成長している。
調子に乗って、ダンジョン内にいる数百体の黒龍も刈ってしまおうかと考えたが、やめた。調子に乗れているときには、そこそこにとどめておく位がいいのだ。
世の中には調子に乗っているときは調子に乗り切れという人もいるが、個人的な経験からいうと力の限り調子にのると後から同等の反動がやってくる。
人生というのはうまくバランスが取れている。だからこそ、そこそこに調子に乗っておいて、あとで来たる反動をしっかりと乗り越えられるように体力を温存しておかねばならない。これが人生の波をうまく乗り切るコツだと個人的には思っている。
何度か深呼吸して、高ぶった気持ちを意図的に抑える。気持ちが落ち着いてくるとともに、暗がりを抜けて、アルデバランのもとにまで歩みを進める。
奥に鎮座するぼんやりとした影が、近づくにつれてくっきりとした輪郭をあらわす。
その輪郭は、なんと人の形をしていた。その頭部には、前頭部から後ろに向かって生えた黒龍の角がある。黒龍が現れるものと思っていたので少々驚く。
しかし、その声から誰なのかは瞬時に分かった。
「お前か、先刻より我の住処を騒がせておるのは」
「アルデバラン。冗談はやめてくれ」
「なに、お決まりのコレが無いと私のことが誰だか分からんかと思うてな」
なんだこいつ。実はちょっとお茶目なのか?
しかし、確かに外見だけを見ると誰だかはわからなくても仕方がない。白髪に黒龍の角。瞳孔は赤く、黒龍と同じ色の鎧を全身に纏い、腰に帯剣している。
これまで俺がみてきたアルデバランは黒龍の姿をしていたが、実はこいつは人間になることもできるということか。
「正となる輪廻では、我は黒龍の姿となることが求められる。この姿を見せたのは、お前とヤツだけだ」
「ヤツが誰のことかはしらないが、貴重な姿を見せてくれたことに感謝するよ」
「殊勝なヤツよ。して、貴様は我に何を求める」
「Malice事件について、お前の知っている情報を教えてくれ」
ここに来た目的はそれだけだ。
今、Malice姉妹たちと、KoKoRo Entertainment社との争いで、何かが大きな災厄が起きようとしている。既に現実世界でも死人が出ているが、Malice姉妹たちがさらなる大規模な復讐計画を立てている可能性がある。
それに、この2者。どちらが正しいのか正直自分には判断しかねる。
確証はないが、アルデバランはおそらくどちらの側にもない。さきほどこの男と会話したときに聞いた「大局を見誤るな」という言葉は、第三者のセリフだ。
だからこそ、この男が持っている情報は価値がある。
「狂逸の者よ。まず、お前はどのようにみているのだ」
人に何かを求めるなら先に自分から出せと。わかったよ。
俺はアルデバランに自分が持っている情報を話した。ただ、当然中立な立場となるように配慮する。アルデバランがどちらかの側についている可能性もまだ否定しきれない。
Malice姉妹たちが人間に危害を加えているが、KoKoRo Entertainmentへの復讐だと聞いている。一方で、KoKoRo Entertainmentはどういった目的を持っているのか図りかねている。大局を見極めようにも、情報が足りない。そんな具合にアルデバランに説明する。
「狂逸の者よ。お主の話は理解した。もう1つ質問しよう」
「ああ」
「お主は、我の持つ情報を聞いて、どうするつもりだ?」
どうするって……。
Malice姉妹が人間に危害を加えるのは止めたい。ただ、そのためにはKoKoRo EntertainmentがMalice姉妹を消そうとするのを止めなければならない。
つまり、KoKoro Entertainmentを止めたいのだろうか。
いや、そうじゃないな。
双方にそれぞれの立場があるだろう。詳細はわからないが、それが相容れないだということも理解しているつもりだ。うまい具合に妥協点を取るとか、そのためにお互いの仲介役になろうとかそういうことをやろうとしているんじゃない。
争いあっているヤツらのことはどうでもいい。俺がやりたいのは1つだけだ。
「俺は、この世界を守りたい。それだけだ。どっちの味方に付くとかそういうつもりはない」
「ふん。理想論を語りおって。小童めが」
う、うるさいな。なんか恥ずかしくなってきたぞ。
「だが、悪くない答えだ。……少し時間をもらうが、よいな?」
お、おお?なんか反応が悪くないみたいだ。
時間をもらう?なんのことだ?
「時間?」
「ふむ。察しが悪いな。狂逸の小童よ。我の認識していることを話すといっておるのだ」
ああ。そういうことか!理解したぞ。そんなのいくらでもとるさ。
「ああ、大丈夫だ。いくらでも付き合うよ。……というか、狂逸の者から狂逸の小童ってランクダウンしてないか?」
「ふむ。察しがいいな」
こいつ、やっぱり相当なお茶目だな?




